陸上・駅伝

特集:うちの大学、ここに注目 2024

立命館大・松田慎太郎「自分にプレッシャーをかける」と主将に立候補、最後まで笑顔で

立命館大の主将を務める松田(すべて撮影・立命スポーツ編集局)

5月22日~25日にたけびしスタジアム京都で開催された関西学生陸上競技対校選手権(関西インカレ)の4×100mリレーで、立命館大学が4年ぶりの優勝を果たした。出走メンバー4人のうち3人が初の関西インカレ出場。フレッシュなチームのアンカーを務めたのが、唯一のインカレ経験者・松田慎太郎(4年、報徳学園)だった。今季の男子陸上競技部主将でもある。

リレー出走メンバーの緊張をほぐした一言

ドラマは関西インカレ2日目に起こった。4年ぶりの悲願。アンカーを務めた松田は、トップでゴールすると大きく拳を突き上げ、ほえた。

立命館は、1走の柴田怜人(2年、草津東)、2走の石川智基(1年、愛工大名電)、3走の橋本翔太(3年、市立川崎)の3人が初の関西インカレ。ただ「最近のチーム状況から優勝できるという確信があったんです。120%くらいです。今思えば、根拠のない自信だったと思うんですけど、絶対に勝てると思ってリレーに挑みました」と松田は言う。

レース前にチーム全員で円陣を組み、気合を入れた。そして出走メンバーに「一番強いチームやから」と一言。その言葉でメンバーの表情が緩んだと感じた。「柴田とか、特にガチガチになるタイプなんですけど、リラックスして走ってくれました」。松田自身も今までで一番緊張していたそうだが、胸をたたいて気持ちを奮い立たせた。「後々写真を見たら、胸に手形がくっきりついてて。うわ、自分すごい脳筋やなぁと思いました(笑)」

4×100mリレーメンバーの左から柴田、石川、橋本、松田

バトンパスの声が聞こえず、焦ったが……

レースは昨年王者の関西大学をはじめ、各大学の力が拮抗(きっこう)していた。立命館は1走から3走まで先頭争いに加わり、アンカーの松田に2番手でバトンパス。松田はコーナーに差し掛かったところでトップに立った。後続との差をどんどんと広げ、39秒54で優勝を飾った。

「実は集中しすぎて、バトンパスの時に3走の橋本の声が何も聞こえなかったんです。内心めっちゃ焦ったんですけど、いつものタイミングで手を伸ばしたら橋本がしっかり渡してくれて。もらった時に前と横に選手が何人かいるのは分かっていたので、コーナー明けからリラックスして加速しました。周りの足音がどんどん離れていったので、『楽しい、快感!』って感じでした」とにんまり。

トップでゴールすると、右拳を突き上げてほえた

レース後「4回生にとっては集大成で、後輩たちに良い思いをさせてもらいました」と喜びをかみ締めた。何度もリレーを走ってきたが、これまでは3走が多く、アンカーは初めてだった。「4回生として、キャプテンとして4走を走りたかったので、自分から『走らせてください』と言いました。しっかり勝ち切らないと顔が立たないですし、プレッシャーはありましたが優勝できてほっとしています。最近立命館の短距離があまり元気ないって言われてたんですけど、今回の優勝をきっかけに、また立命館の時代がくるんじゃないかなぁと。来年以降にも注目していただきたいです」。勝因については「今回バトン練習に力を入れたので、そこが良かったと思います。解説などでも、バトンパスでリードしていたと言っていただけたので、そこはうれしいです」

もともとチームにトップに立つタイプではなかった

松田個人としては、100m、200mをともに4位で終えた。「もう少し点数を取れたんじゃないか。チームにもっと良い流れを持ってこられたんじゃないかという悔しさが残りますが、自分自身調子も良く力を出し切れたので、これが自分の実力だと受け入れたいと思います」

チームの総合優勝はかなわなかったが、主将として、4回生として戦い抜いた。今でこそ主将を任される松田は、もともとチームのトップに立つタイプではなかったという。

兵庫県出身の21歳。100m、200mの自己ベストはそれぞれ10秒35、20秒96で世代のトップ層にいる。昨年は静岡国際や日本選手権などグランプリの大会にも出場した。

中学校の部活動で陸上競技を始めた松田が、その名を全国区にしたのは高校2年時のインターハイ。200mに出場し、準決勝で21秒11をマーク。自己ベストを大幅に更新した。この記録が当時のU18ランキング3番に相当したことで、一気に名前が知られるようになった。

高校は地元・兵庫の強豪、報徳学園へ。「男子校だったこともあり、邪念なく競技に打ち込めました。『打倒共学』っていうスタンスで頑張っていました(笑)」と話す。「同期の森髙颯治朗(現・近畿大4年)と練習終わりに一緒に走るのが恒例でした。森髙とはずっと切磋琢磨(せっさたくま)していたので、違う大学に進んで、2人とも主将になっているのを考えると感慨深いです」

高校2年のインターハイで一気にその名が知られるように

キャプテンになって変化した競技への向き合い方

大学も関西で競技を続けたい思いが強く、立命館に進学した。2年目で大きく飛躍。100m、200mで大幅に自己ベストを更新し、世代のランキングに入った。「ひとつ先輩の山中聖也さんの存在が大きかったです。走りの特徴は、僕が前半型で聖也さんが後半型と違ったんですけど、走力が同じくらいで。常に競い合って練習できたことでタイムが大幅に伸びました」

3年目は、2年時に出したタイムで日本選手権をはじめグランプリにも出場したが、本人にとっては苦しいシーズンだったという。「大きい大会に出場できた点は良かったんですけど、日本選手権あたりで足に炎症を起こしてしまった影響で、後半シーズンはけがであまり走れませんでした。3週間ほど全く走れない時期もあって、自分の中ではしんどいシーズンでした」

そんな中、大学ラストイヤーを迎えるにあたって男子部の主将に就任することが決まった。「自分の中でプレッシャーをかける意味も込めて立候補しました。今まで副部長はしたことがあったんですけど、リーダーは絶対になかったんですよね。今でもチームのトップが僕でいいんかとか思うこともあるんですけど、チームに貢献したいという思いも強くあって、しっかりチームを引っ張っていこうと心を決めました」

関西インカレを終え、女子主将の山本(左から2番目)や駅伝主将の村松(同3番目)らチームメートと記念撮影

下回生の頃から立命館の主力として走っていた。ただ、「今までは正直自分のためだけに陸上に取り組んでいました。キャプテンになってチームとして陸上をとらえるようになったのは自分の中で大きな変化だと思います」と話す。「立命館は下回生をはじめ明るくて元気なチームです。良い意味で学年の壁がなく、仲が良い。練習中はメリハリをつけて練習に取り組んでいるところはさすがだなあと思います」

松田は10年目になる陸上人生に、今年限りで区切りを付けると決意した。「大学で陸上は引退する予定です。だからこそ悔いは残したくない。100mと200mで立命館記録を更新して、後輩に大きい背中を見せられたらなと思います」

笑顔がトレードマークの松田。取材中も些細(ささい)なエピソードで笑いを誘う。元気で明るいチームの中心に彼がいることは納得できる。最後まで笑顔で。残りの陸上人生を全力で駆け抜ける。

in Additionあわせて読みたい