立命館大・永石小雪 けがに苦しんだ昨季から復活したインハイ女王、200m準Vに涙
かつてのインターハイ女王が復活を果たした。5月25日に行われた関西インカレ女子200m決勝で、立命館大学の永石小雪(3年、佐賀北)が準優勝。レース後、永石は涙を流しながら復活を喜んだ。けがに苦しんだ昨シーズン。ここまで長かった。
3歳でクラシックバレエを始め、体力を鍛えるために陸上へ
もともと永石はバレエ少女。3歳からクラシックバレエを始め、必要な体力を鍛えるために小学2年から陸上競技に取り組むようになった。「足が速いタイプではなく、お母さんに連れられて始めた感じです。嫌な時は練習に行かない日もありました(笑)」と当時を振り返る。
中学の部活動で陸上競技部に入ってから、本格的に取り組むようになった。最初はバレエと両立していたが、中学2年時にそれが難しくなり、悩んだ末に陸上を選んだ。「陸上に本気で取り組むなら今しかないと思ったからです」と永石。バレエに長年取り組んでいたことで生かされている点には「柔軟性」を挙げ、「柔らかい筋肉を保ちながらトレーニングできている点は、バレエをやっていた影響があると思います」と語る。
高校3年時、インターハイの女子100mで優勝を飾り、一躍時の人になった。「高校2年生までは、全国大会には出場できても、硬くなって自分の力を発揮できずにいたんですが、高3で急にタイムが伸びて自信がつきました。良い意味で周りを見ずに、自分だけに集中して、自己ベストを更新することだけを考えていました」。その時に出した11秒65は、現在も自己ベストである。
けがが重なり「自分の体が戻ってこない感覚」
鳴り物入りで立命館に進学し、ルーキーイヤーは関西インカレ100mで3位入賞。4×100mリレーでは21年ぶりの優勝を飾った。しかし本人は「1年目に点数を付けるなら60点です。関西インカレは良い結果を出せましたが、関西新人戦や全カレで思うようなタイム、順位を取れなかったのが心残りです」と話す。
けがによる苦しいシーズンが始まったのは、1回生の終わりに差し掛かったあたりからだ。
オフシーズンから冬季にかけて腰の分離症を発症。冬季が明け、いざ走り出すと、足の甲の疲労骨折がわかった。「連続でけがをしたので、復帰まで時間がかかってしまいました。できることも限られてきますし、自分の体力や筋力が元に戻るのかという不安がありました。みんなが走っている中、自分だけ地道にトレーニングをするのは精神的にもしんどかったです」
高校時代も、冬季はけがをしがちだったというが、春はウェートなどの筋力トレーニングに取り組んだ成果を感じられたことで、不安を感じてこなかった。「春にタイムや結果も出たので、けがをしても不安要素にはならなかったです。むしろ自分の足りないところを強化できる良い機会だと思っていました」
しかし、大学では高校のようにはいかなかった。「自分の体が戻ってこない感覚があって、少しずつ高校とは違うなぁと感じ始めました。このままズルズル行ってしまうんじゃないかと。自分の中でずっとモヤモヤがありました」と振り返る。家で1人になると、マイナス思考に陥ることもあり、トレーナーや家族に弱音を吐くこともあった。「部活でみんなが頑張ってる姿を見たら『自分も頑張ろう、絶対大丈夫!』と思えたんですけど……」
2回生のシーズンは全日本インカレを迎えるまではほとんど走れず、関西インカレはスタンドで応援することしかできなかった。初めてリレーメンバーを送り出す立場にもなり「リレーで戦力になれないことが本当に悔しかったです。壹岐あいこさん(23年卒、京都橘)という絶対的エースが卒業され、自分や同期の角良子(3年、倉吉東)で引っ張りたいと意気込んでいたので、もどかしい気持ちでいっぱいでした」。
応援があるから、陸上ができている
悔しいシーズンを過ごしたからこそ、3年目の今年にかける思いは人一倍強かった。冬季はウェートなどの筋力トレーニングのほか、長い距離の走り込みなども例年以上に力を入れた。「去年走れなかった分、肺、心拍数を追い込むメニューを主に採り入れて、限界がくるまで追い込むことを意識していました」
迎えた今春。シーズンインから手応えがあり、記録にも期待がもてた。その感覚はすぐにタイムに表れた。4月6日に行われた京都インカレ200mを24秒30の大会新記録で制したのだ。従来の自己ベスト24秒71を大幅に更新。「調子の良さはずっと感じていましたが、まさかここまで良いタイムが出るとは思っていませんでした。びっくりです」と語る一方、「去年は『けがが再発したらどうしよう』という、勝つ気持ちよりも不安な気持ちがありました。今年は後半の伸びも出てきて、感覚的にもタイム的にも自分の良さが戻ってきたと実感できてきます」と笑顔で話した。
2年ぶりの関西インカレでは、200mと4×100mリレーに出場。リレーでは2走を務め、3位入賞に貢献した。「優勝を目指していたので悔しい気持ちはありますが、やっと立命館に貢献できたなと。戻ってこられてうれしい気持ちが大きいです」。そして最終日に行われた200mで見事に準優勝を飾った。「3年目こそは『あと2回しかない』という思いもあったので、2位という結果に素直にうれしいと感じています。一安心です。やっぱり応援があってこそ、陸上ができてると感じました。アップの時からサポートしてくれるチームメートもいて心強かったです」と感謝の言葉も口にした。
みんなから応援される選手に
永石は大きなストライドを生かした後半の伸びを強みにしている。一方でスタートからの加速には苦手意識があるそうで「後半の自分の良さにつなげられるようにしたいです」と課題も口にする。 理想の選手像を聞くと「強い、速いことはアスリートとして一番求められることだと思うんですけど、みんなから応援される選手になりたいです。人間性の部分を大切にしていきたいです」と教えてくれた。
永石の陸上人生はまだまだこれから。関西での結果を追い風に、全国の舞台でも輝きを放ってほしい。