陸上・駅伝

立命館大・山本亜美 400mハードル絶対女王 しんどい練習も笑顔でこなし、世界へ

女子400mハードルで日本選手権3連覇を果たした山本が世界に挑む(撮影・立命スポーツ編集局)

陸上400mハードルの大学女王、立命館大学・山本亜美(3年、京都橘)が、世界の大舞台に挑戦する。7月12~16日、タイ・バンコクで開催される「第25回アジア陸上競技大会」の日本代表に選出された。また、7月28日から中国・成都で開催される「FISUワールドユニバーシティゲームズ」、9月23日から中国・杭州である「杭州2022アジア競技大会」の日本代表にも選ばれている。「陸上人生の目標が『ジャパンのユニホームを着ること』だったので、それがかなって本当にうれしいです。頑張ってきてよかったなあと。これまでお世話になった人に、ジャパンのユニホームを着て走っている姿を見せて、恩返しができればと思います。正直どういう大会になるか、どのくらい速い選手がいるのかはわかりませんが、メダルを持って帰りたいです」と言葉に力を込めた。

日本選手権で3連覇、56秒06の自己ベストをマーク

6月の日本選手権では、女子400mハードルで3連覇を達成。決勝では自己記録を0秒32更新する日本歴代5位、学生歴代3位の56秒06をマークした。「タイムは狙っていなかったし、コンディションも良くなかったので正直びっくりしました。『とにかくアジア選手権の代表に選ばれたい』との思いで、2番以内に入ることを意識していました」と振り返る。「『関西インカレから1週間しかないのか』と最初は思っていましたが、『1週間しかないからこそ、関西インカレの楽しかったチームの雰囲気、頑張った気持ちのまま挑もう』と考えを切り替えました。気持ちのコントロールの部分が大きかったと思います。普段は後半型なんですけど、決勝は前半から攻めたレースができたので良かったと思います」と勝因を語った。

日本選手権では56秒06の自己ベストをマーク(撮影・田辺拓也)

圧倒的な強さを誇ると同時に、進化も続ける女王。その強さの秘訣(ひけつ)は「陸上が好きという気持ちと負けず嫌いな気持ちが人一倍強いこと」と語る。「相手に負けたくないというよりも、自分に負けたくないと思っています。『去年の自分ができたことは絶対できる、より速いタイムで走れるはず』とレースに挑んでいます」

しかし、最初から強かったわけではない。

高校で「お前は日本代表になれる」と言われ自信

山本が陸上を始めたのは、中学校1年生の時の部活動。母親と2歳年上の姉が陸上をやっていたことがきっかけだった。「100m、200mが専門でした。全中に出場できましたが、決勝に残る、全国の舞台で勝つということができませんでした。勝ちたいと思っていても、心の中では『自分なんて』と思っていました」と、意外な過去を口にした。

大きな一歩を踏み出すきっかけとなったのは、京都橘高校に進学し、顧問の先生から「お前は日本代表選手になれる」と声をかけられたことだ。個人でもリレーでも全国的に活躍する強豪校で、自信と強さを身につけていった。特に、高校2年時に出場した国体で、京都高校記録を更新して優勝したことで、自信と手応えをつかんだという。

400mハードルを始めたのも、高校からだ。「全国で勝負できる種目は何かを考えて、ヨンパーに出会いました。もともと100mと200mでは、200mの方が得意でした。ヨンパーを始める前に取り組んでいた400mでもタイムが出せて。距離が延びることに抵抗はなく、むしろ延ばした方が上を目指していけると思いました」と山本。「ヨンパーの好きなところは勝てることです! 実はハードルを跳ぶことは、今でも怖いというか苦手意識があるんですけど、勝てるから楽しいです」

高校の恩師の言葉で自信がつき、大学で飛躍した(撮影・立命スポーツ編集局)

「本気で勝負し合える」同期の存在

山本は4×400mリレー(マイルリレー)でも活躍している。昨年の全日本インカレではアンカーを務め、見事に立命館の連覇に貢献。今年5月の関西インカレでは3走を任され、大会記録を更新して優勝した。「リレーは唯一、1人で走らない競技。やっぱり学校の代表として走っている分、リレーで優勝したら個人の優勝よりも何倍も喜べる。勝った後の楽しさが違うかなと思います」と魅力を語る。立命館ではリレーで日本一になることを大きな目標に立てていた山本。「去年日本一になれて本当にうれしかった。今年は関西学生記録を出して3連覇を達成します」と意気込む。

マイルリレーでは関西学生記録の更新と日本インカレ3連覇を狙う(撮影・立命スポーツ編集局)

心強い仲間もいる。同期の工藤芽衣(3年、咲くやこの花)だ。400mハードルではライバルでもある。「意識しますね(笑)。いつも一緒にいて、大きい大会も一緒に出られるし、芽衣がいるから頑張れます。一緒にいて楽しいのもそうなんですが、本気で勝負し合える関係がすごく良いなと思います」と語った。

今季は、春先から好調だという山本。「安定したタイムが出せるようになりました。毎年シーズンインは速く走れないんですけど、今年は結構良いタイムで走れていたので、楽しみではありました。シーズンインで感じた感覚通り、日本選手権も良いタイムで走れたし、日本代表にも選んでもらったので、自信を持ってここからまた良いタイムを出していきたいです」

同期でありライバルでもある工藤(左)から受ける刺激も大きい(撮影・立命スポーツ編集局)

「自分もできる」と思ってもらえる選手に

山本は陸上競技の魅力を「うそ偽りなく結果として表れることです。それが難しいところでもある。どれだけ1年間頑張っても0.01秒速くなることが難しい競技で、だからこそ面白いと思っています」と笑顔で語る。今後の目標は、勇気や元気を与えられる選手になること。「私も最初から速い選手ではなかったので、自分の走りを見て『自分もできる』と思ってもらえる選手になりたいです」。その原動力には、応援してくれる家族や仲間の存在がある。「みんながいるから頑張れる。自分の走りで笑顔になって欲しいです」と語った。

自らのことを「結構変わっています」とも語る。象徴的なのは練習シーン。「しんどい練習が楽しいんです。みんながしんどい顔をしている時に、1人だけ笑顔だったりします」。その笑顔からひたむきな陸上愛と持ち前の明るさが感じられる。

陸上選手として活躍する一方、大学生でもある。「課題が多くて大変です! 遠征の時にパソコンを持っていかないといけないことにやっぱり大変さを感じます」

大舞台で勝負強さを見せ続ける彼女が、憧れの日本代表ユニホームを着て、さらなる飛躍へ。日本学生記録の更新までを視界にとらえ、いざ、世界への挑戦が幕を開ける。

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