陸上・駅伝

特集:第93回日本学生陸上競技対校選手権大会

山本亜美と瀧野未来が400mHワンツー!主将からルーキーへ「立命ヨンパーの系譜」

女子400mハードルで優勝した立命館大の山本亜美(右)と2位の瀧野未来(すべて撮影・藤井みさ)

第93回日本学生陸上競技対校選手権大会 女子400mハードル決勝

9月22日@Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu(神奈川)

優勝 山本亜美(立命館大4年)56秒35
2位 瀧野未来(立命館大1年)57秒45
3位 大野瑞奈(山梨学院大4年)57秒61
4位 松岡萌絵(中央大4年)58秒10
5位 タネル舞璃乃(東京学芸大3年)58秒95
6位 大川寿美香(早稲田大3年)59秒12
7位 益子芽里(中央大3年)59秒34
8位 辻井美緒(大阪教育大院2年)1分00秒41

9月22日の陸上日本インカレ最終日、女子400mハードル決勝が行われ、立命館大学の山本亜美(4年、京都橘)が56秒35の大会記録を打ち立てて優勝を果たした。2位に入ったのも立命館大の瀧野未来(1年、京都橘)。主将からルーキーへ「立命ヨンパーの系譜」が受け継がれる印象的なシーンだった。

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日本インカレで初の直接対決

レース前、トラックに入ってからの練習が認められると、2人は笑顔でハイタッチを交わした。6レーンに日本選手権でこの種目4連覇を果たした絶対的存在の山本が入り、瀧野は4レーン。2人が同じレースを走るのは、初めてのことだった。

スタート直後から山本が快調に飛ばした。序盤から「抜群でした」と本人も手応えを感じており、バックストレートでチームメートからの応援を受けると、「見ろ!」という思いで加速。終始攻めた走りで56秒35をマークした。瀧野は最後の10台目まで山梨学院大学の大野瑞奈(4年、埼玉栄)に先行されていたが、ハードリングを終えた後の直線でかわし、2位に滑り込んだ。

10台目のハードルを超える山本、序盤から抜きんでていた

山本は「落ち着いて走れたと思っています。風が止(や)んでたで前半から『勝つレース』ではなく、『タイムを狙うレース』をして、結果的に勝てた感じです。前半から突っ込みました」。タイムに関しては「ここで学生新(55秒94)を出したらかっこいいなあ、と心の中では思ってたけど、サードベストなので、いいかなという感じです」と振り返った。

瀧野が2位に入ったことは、把握できていない様子だった。10台目が終わった後、モニターをチラッと見たら、大野が前に出ていることが分かり「負けたんか……?」。ただ結果が確定し、掲示板に瀧野の名前が2着で表示されると、瀧野が大喜び。抱き合ってワンツーフィニッシュを喜んだ。

瀧野(右端)は10台目を越えてからの直線で2位に上がった

昨年とは違った円陣での言葉

国内で敵なしを誇る山本だが、最後の日本インカレに臨むにあたっては、彼女なりの思いがあった。昨年は準決勝をトップのタイムで通過したものの、アキレス腱(けん)の痛みに悩まされたシーズンでもあり、決勝は欠場。その後の4×400mリレーに専念する形となった。

「去年は『やめる』と言ったのが直前だったんです。みんながコールの前に円陣を組みに来てくれて、そのときに『すみません、出ません』と泣きながらみんなに言って、『いや、頑張ったよ』と言ってくれたんですけど……。今回は円陣で『優勝してきます!』と元気よく言えたことが、まずうれしくて。みんなのために走れる準備ができて良かった。去年と比べたら、強くなりました」

これまでは「自分が結果を出せばいい」とばかり考えていたが、最終学年となり、主将となり、「みんなの結果が出るような雰囲気作りをして、その中で自分も結果を出す」という意識に変わった。緊張している選手を見かけたら声をかけ、時に活を入れた。だからこそ、「私が負けるとしたら、一番負けそうな後輩です」と実力を認める瀧野とのワンツーフィニッシュも心から喜んだ。

山本はケガで欠場した1年前のリベンジを果たした

春先に負ったケガからの復活

瀧野は昨秋、高校新記録となる56秒90をマークした期待のルーキーだ。だが、4月の京都インカレ直後、練習中に左足関節の外側側副靱帯(じんたい)損傷と骨挫傷の大ケガを負った。3週間ほど松葉杖で過ごし、連覇がかかっていたU20アジア選手権(ドバイ)に出場できず、関西インカレも棒に振った。

「京都インカレの400mでベストを出して『よし行くぞ』というときに、ケガしてしまって……。そのときはアドレナリンが出ていたので、U20アジア選手権にも『行ける』とか言ってたんですけど、どんどん足が腫れて、寝られないぐらい痛くなってしまって。病院に行ったら『即ギプス』と言われました」

ケガがなければ、6月の日本選手権などで、山本との直接対決が実現していたかもしれない。今回の日本インカレが初めて一緒のレースとなり、ワンツーフィニッシュを飾ったことについて瀧野は「絶対に取りたいと思っていたので、めっちゃうれしいです。亜美先輩と1秒ぐらい離れてしまったのは自分の実力不足ですけど、亜美先輩は本当に強いんだなということを実感しました」と語った。

山本(右)の強さを実感した瀧野、これからもその背中を追いかける

瀧野は山本について「周りの空気を明るくするような、太陽みたいな人」と表現する。「自分が高校生のときからずっと仲良くさせてもらって、この1年間は立命館で亜美先輩の姿を見ながら、陸上をさせてもらえました。亜美先輩のいいところを吸収して、これから自分もヨンパーを盛り上げられる存在になれたらいいなと思います」

今後は2028年のロサンゼルス・オリンピックを狙っていく先輩と、その姿を追いかける後輩。山本の言葉通り、いつか瀧野が山本に勝つ日が来るのか。お互いに高め合い、これからも切磋琢磨(せっさたくま)し続ける。

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