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立教大RB星野真隆 リーディングラッシャーは「OLの勲章」ラグビー流の走りで独走

ラグビー仕込みの独特の走りでTOP8のラッシング記録でダントツの数字を記録する星野(すべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関東学生TOP8は10月5日に第4節があり、立教大学と中央大学が対戦した。序盤は立教のペースで試合が進み大勝の雰囲気が漂ったが、試合終盤に中央が猛追。終了間際まで勝負がもつれた結果、38-31で立教が3勝目をつかんだ。立教の勝ちに大きく貢献したのは、この試合で三つのタッチダウン(TD)を挙げたRB星野真隆(4年、立教新座)だ。星野は今、TOP8のラッシング部門でトップに立っている。

第4節でも180yd爆走 2位に249ydの大差

小雨が降る中、試合の入りは完全に立教の流れだった。星野のランでゲインを重ねる。中央は最初のプレーでパスをファンブルして立教がリカバー。立教がフィールドゴールで先制すると、次のシリーズでも中央のパスをインターセプトし、星野が走ってTDを追加。第1クオーター(Q)三つ目のシリーズで10点のリードを奪った。

その後も第2Qに立教が星野のランで加点し、中央はまたも自陣でファンブルロスト。立教はQB平本優真(4年、立教新座)がWR木邨陽(4年、立教新座)にTDパスを決めて24-0に。中央はQBを1年の小野一真(IMG Academy)に交代。その小野がWR松岡大聖(3年、横浜栄)へのTDパスを通し、24-7と反撃を開始したところで前半を終えた。立教は、前半で四つの奪ターンオーバーを得点に結びつけた。

立教大学WR木邨陽 QB平本優真と高校以来の阿吽の呼吸、期待のパスユニットが躍動
中央の守備を抜き去り独走

後半の第3Qは、中央が新保颯(1年、日大鶴ヶ丘)のFGで3点を挙げたが、立教が星野の59ydの独走、RB青木優樹(2年、立教新座)の49ydランでTDを追加して、第4Qの冒頭で38-10に。4ポゼッション差がつき、勝負がついたように思われた。しかしここから中央が小野のドライブで毎シリーズTDを挙げる一方、立教は「3&アウト」が続き、一気に点差が詰まる。残り1分を切った段階で、38-31の7点差まで中央が追い上げたが、ギリギリの勝負を立教が逃げ切った。

3節終了時点で68回419ydを走っていた星野が、この試合でも180ydと爆走した。星野は昨年TOP8のリーディングラッシャーになっていて、今年もそうなる公算が大きい。4節終了時点で、2位につける明治大学のRB高橋周平(3年、足立学園)に249ydの差をつけている。

中高でラグビー部 人を抜き去る独特の走り体得

星野は立教新座(立教小学校から)の出身。七つ年が離れた兄、慶一郎さん(17年卒、現・ノジマ相模原)がアメフトをしていたためアメフトが身近な環境で育ったが、高校まではラグビーに打ち込んでいた。立教新座中にはアメフト部がないので、高校でアメフトをすることを見据えて、ラグビーでコンタクトに慣れることが当初の目的だったという。

七つ上の慶一郎さんはXリーグのノジマ相模原でLBとして活躍している。「アメフトが大好きなチャランポランな方です」と真隆

「でもラグビー部に入ったら、ラグビーが楽しい、楽しい。ワールドカップフィーバーとかもあって、コレいいなっつって。そのまま中高ラグビーをしていました。ラグビーが楽しすぎて、アメフトをするのは来世かなと思っていたんですが、小学校からずっと憧れていたのもあったので、これはやらずに終われないなと」。大学が競技を変える最後のチャンスと考え、アメフトに挑戦することにしたという。「高校ラグビーのやつらと、大学で続ける続けないで話し合い、正門の前で泣き崩れたこともあります」と星野。やると決めたからには、やり切る腹が決まった。

大学入学後は、1年生の秋から出場機会を得た。日本大学との試合で、第1Qに、リバースプレーでいきなり75ydの独走TDを決めた。このときの走りは今でも私の脳裏に焼き付いていて、とんでもない未経験者が現れたと感じたことを思い出す。

未経験の1年生が、初登場のファーストプレーでいきなり独走TD。その走りに度肝を抜かれた(2021年秋の日大戦)

「ラグビーの経験で生きていると感じるのは、やっぱ人を抜き去ることですかね。中高でウィング、フルバックをしていて、そういうのはめちゃくちゃやってたので。まあ、ラグビーは個人技でいけちゃうときも結構あるんですが、アメフトはそうはいかないので、その辺は慣れるまで難しかったですね。アメフトを始めたばかりの頃は、OLとRBの関係性も全然わかってなかったので。わかってくると、複雑で面白いですね」

ラグビー仕込みの動きなのか、独特の走り方とカットバックで、するするとディフェンスをかわす。アメフトだけをしてきた選手からすると、間合いの詰め方が難しいことが見ていて伝わってくる。中央戦も、前の慶應義塾大学戦でも、ディフェンスとの1対1でフィールドのスペースをうまく使いロングゲインにつなげた。本人は、走るスキルについてどう考えているのか。

東京ドームであった前節慶應に負けたが、星野は28回走って188yd1TDを獲得と奮闘した

「私自身は、ほかのRBの方に比べてレベルはすごい低いと思っていて。他の選手を見ていて『すごいな、さすがベテラン!』って感じることはありますし、『あっ、こういうことするんだな!』とたまに見ていますけど、それ以外は特に意識することもないです」。確かに、星野の走りは誰にも似ていない。

年が離れた兄からアドバイスを受けることも、一切ないという。「一度、兄に『ダサい、弱々しい!』とだけ言われたことがあります(笑)」。弟が笑う。しかし、U-19日本代表に選出されたことがある兄と比べても、劣らないレベルの選手に真隆はスケールアップしている。

この春には人生の大きな節目もあった。父の浩一さんが病気で亡くなった。星野が父への思いを話す。

「父はアメフトにはまったく縁のない人でしたが、試合のビデオはいつも撮ってくれていて、家に帰ったら見られる状態にいつも準備してくれていました。試合で活躍しても、しなくても『お疲れ様〜』としか言わない人でしたが、今もいつでも自分や家族のことを見てくれてると思っていますし、むしろ心強いと感じてます」

TDを取っても決して派手には喜ばない。4年間、TD後のこの表情をずっと見てきた

副将に就任 発言に配慮が必要となり苦戦中

最終学年の今年、星野は副将としてチームの幹部になった。就任の背景について星野が言う。

「私たちには金子湧(4年、佼成学園)くんという絶対的なキャプテンがいて、彼は4年生だから頑張るとかではなく、1年生から積み上げてきたモノで一緒に戦いたいと考えているんですよ。その中で、私とも一緒に幹部をやりたいと思ってくれて。私ももちろんやりたかったので、それでは一緒にやりましょうという流れです」

星野自身は、昨年オフェンスリーダーをしていた。仲間をリードするという立場については、すでに経験している。しかし、もちろん最終学年になったことの難しさも確かに感じているという。

「4年のほうがやりづらさはあるかもしれないですね。下級生のときの方が、周りを気にせずに『おい、4年しっかりしてよお!』とか言えるじゃないですか。最上級生になって、今までは考えていなかった、遠慮みたいなモノが出てきちゃう部分で苦戦中ですね」

TD後、中大の選手と少しもめた後に仲直りのハグ。人に歩み寄れる男だ

RBは「OLが体を張ってくれるからこそ」の意識

2年連続のリーディングラッシャーが見え隠れするが、星野自身、自分の成績としてはまったくこれを意識していないという。

「私はリーディングラッシャーは、ラインズが唯一もらえる賞だと思っていまして、良いRBがもらえるものだとは考えていないんです。1年間を通して体を張り続けてくれたOLへの『うちのラインが1番だよ!』っていう証明だと思うんです。そういう意味では、OLのために走りたいと思います」

自分のことよりもメンバーのことを考える。星野の話を聞いていると、その思考がなによりも先を行っていることが伝わってくる。

TDを決めて駆け寄ってきたOLの長嶋大力(3年、立教新座)に抱かれこの表情

3勝1敗で、ラストイヤーのリーグ戦も折り返し地点を過ぎた。星野は、ラッシャーズはこれからどう取り組んでいくべきなのか。

「やっぱり勝つ時は自信が違うじゃないですか。今勢いのある慶應さんとか見ててもそう思います。どんなときでも行ったるぞ! 慶應だぞ! みたいな。そういう勢いと自信があるチームに、少しでも隙を見せるとのみ込まれちゃうんですよね」

星野は前節東京ドームで慶應と試合をしたときに、去年の自分たちのような雰囲気を慶應から感じたと言う。

「着実に積み上げてきた自信、勢い。ああいうものがないと、今後は勝っていけないと思うんです。そのために、これからも日々成長し続ける必要があります。成長は自分たちがフィールドに立たせてもらった時に大きなものになると思っていて、そのために小さな一歩をどんどん積み上げていきたいと思っています」

21年秋の日大戦での衝撃の出会い。あれから3年が過ぎた。いつか取材することを心に留め、やっとその機会が巡ってきた。 今シーズン星野が走り切る姿を、この目に焼き付けたい。

ラストイヤーの今年は幹部としてチームを束ねる。その視線の先にあるのはどんな景色か

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