アメフト

立教大学WR木邨陽 QB平本優真と高校以来の阿吽の呼吸、期待のパスユニットが躍動

立教WR木邨陽は、春の初戦で3TD獲得と圧倒的な存在感を見せた(すべて撮影・北川直樹)

5月5日、アメリカンフットボールの関東学生TOP8に所属する立教大学ラッシャーズと明治大学グリフィンズが、春季オープン戦で対戦した。ともに1934年創部の両チームは日本におけるアメフトのルーツ校で、昨秋シーズンにも熱戦を繰り広げた。この日も春の序盤戦ながら昨秋に見劣りしない激戦となり、終盤に怒濤(どとう)の追い上げを見せた立教大が24-23で接戦を制して、今季最初の試合で勝ち星を挙げた。WRの木邨陽(きむら・ひなた、4年、立教新座)はパスレシーブで3タッチダウン(TD)を決める大活躍だった。

代替わりしたパスユニットの中、51yd3TDと爆発

昨秋の東京ドームを思い起こさせる戦いだった。第3クオーター(Q)中盤時点では明治が23-7で立教をリードしており、スコアの上では明治快勝の雰囲気が漂っていた。しかし立教の守備が明治の看板ランナー廣長晃太郎(4年、箕面自由学園)のランを封じ込め、彼にTDを許さなかったことが大きかった。守備のフロントは若手DEのマーティン明日敦(あすとん、2年、武園)が躍動し、随所で好ラッシュを見せた。

立教大学・猪股賢祐主将 多くのポジション経験を糧に「自分が勝たせる」土壇場で体現

永嶋大力(3年、立教新座)、坂場文哉(4年、駒場学園)、福田己次郎(同、立教新座)ら経験豊富なOL陣と、エースRBの星野真隆(4年、立教新座)を中心としたランニングユニットには昨年からのメンバーがそろっていて、立教の攻撃はコンスタントにランが出た。

OLユニットは今年も完成度が高い。1年生の川崎純大(67番、佼成学園)がフル出場したのも明るい材料
昨季関東リーディングラッシャーの星野は、変幻自在のカットで明治守備を翻弄した。21回115yd獲得

一方で、4年間エースだった宅和勇人、中畑周大の2人のQBに加えて、川村春人、篠藤智晃、神津颯哉ら主力のWRを多く卒業で喪失。Vゲーム(Versity、1軍の試合)初先発だったQB平本優真(4年、立教新座)は、パスインターセプトを喫するなど攻めあぐねた。

苦しい状況からのキャッチアップを強いられた平本を支えたのが、WRの木邨だった。高校時代からホットラインを組む2人は、ピッタリの息で幾度もパスを決めた。最初の得点は第2Qの10分すぎ。敵陣9ydの場面で平本がエンドゾーン奥に投げ込んだボールに木邨が飛びついた。

2本目のTDレシーブ。守備とのマッチアップで勝ち切った

その後は、第4Qに13点を追うシーンでハイボールをジャンピングキャッチし、試合終了間際にもエンドゾーン内に投じられたタテのパスをキャッチして逆転を演出。木邨はこの試合、8回のパスキャッチで51yd3TDを稼ぐ大活躍。「絶対にボールが飛んでくる」状況下で守備とのマッチアップに勝ち続け、昨秋につづく明治撃破の立役者となった。

「今日は4年のWRが自分だけで、下級生の経験が少ない分、自分がどれだけ得点に絡めるかが勝負のカギだと思っていました」。新たなエースWRは、その覚悟をしっかりと体現した。

ラインアウトで不成功になったが、シュアハンドでパスキャッチの安定感は抜群だ

平本とは高校以来のホットライン「アイツに投げれば」

中学まではサッカー部だったが、立教新座高校でアメフトを始めた。「サッカーはデカいヤツにボールを集めていって勝負するっていう感じだったんですが、アメフトはもっとチームスポーツっぽさがあるかなと思って。色んなキャラクターの選手が活躍できそうだなと」。スゴい選手が1人いるだけでは試合に勝てない、その奥深さが面白そうだと思ったという。

ポジションはずっとWRで、同じく高校からアメフトを始めた平本とずっとタッグを組んできた。「もちろん去年の宅和さんと中畑さんは上手でしたけど、同期でずっとコミュニケーションをとってきている分、僕にとっては平本が一番やりやすいです」と木邨は言う。

立教大学QB宅和勇人 ラストプレー、決めたヘイルメアリーパス 強豪の壁破る
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木邨に対する平本の信頼も厚い。「よくQBとWRは同じベッドで寝ろなどと言うんですが、高校の時から合宿とか、家に遊びにいったりとか、ずっと仲良くやってきました。アイツに投げればどんな球でも捕ってくれると言う安心感はありますね」

終盤に逆転につなげたTDパスも、まさにそういうプレーだった。「何も考えてなくて、気づいたらパスを捕ってました」と木邨は言い、平本は「投げどころよりも低く投げてしまったんですが、ヒナタがバッチリ捕ってくれました」と振り返った。まさに阿吽(あうん)の呼吸。今年の立教オフェンスにとって大きな武器になりそうだ。

高校時代からホットラインを組む、平本(左)と木邨

ヘッドコーチ「木邨は絶対的エース」

昨年の明治戦をはじめ、立教はオフェンスの決め手不足に悩んできた。今年は奥村宏仁ヘッドコーチ(HC)がオフェンスコーディネーター(OC)を兼任し、昨年までOCを担当してきた荒川翔太コーチとともに攻撃力の再建を担っている。奥村HCは「自分はランプレーが好き」と言いつつも、今年のパスユニットには大きな期待を掛けている。

平本はVゲームで初のスターター出場。課題はあったが、勝ち切ったことは大きい経験になった

「QB平本は合格でも不合格でもないデキでしたが、最後にしっかり取り返したのは評価したいです。今年、木邨は絶対的エースなんで、彼にかかる比重は大きいですね。彼を信頼しているという意味でも、そういうプレーを多く選択しました。今日は欠場しましたが、もう一人の4年生WR喜多(恭平、立教新座)が戻ってくれば、もっとパスを投げ散らすことができると思います」

奥村HCは、勝負所で勝ち切った木邨のことを高く評価した。

新エースの木邨は言う。「自分にはまだ、一人でチームを勝たせられるほどの力はありません。その意味でも、自分だけに目を向けるのではなく、パートリーダーとして周りの選手にもしっかりと目を向けて勝てるWRユニットをつくっていきたいです」。木邨は強力なリーダーシップを取るタイプではないものの、後輩思いでよく慕われているという。

この日活躍した“飛び道具”の更なる飛躍が、今年のラッシャーズの命運を握っている。

木邨の絶対エースとしての活躍、躍進が今季のラッシャーズのカギだ

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