早稲田大・田中勇成 「今年、絶対に荒ぶるを取る」小柄な体で躍進するキープレイヤー
大学ラグビーのフォワードといえば、大型選手が主流となり、そのフィジカルの強さが勝敗を左右すると言われる時代に入っている。しかし、その流れに真っ向から挑む1人の男がいる。早稲田大学のフランカー、田中勇成(3年、早稲田実業)。大柄な選手たちに囲まれながらも、その小柄な体(166cm、87kg)を武器に、誰よりも速く動き、低く突き刺さるようなタックルと圧倒的な仕事量で早大のディフェンスを牽引(けんいん)してきたキープレイヤーだ。今年、躍進を見せる「小さな巨人」の熱い胸の内を聞いた。
「実力で赤黒をつかめたのは3年生」
―田中選手は早稲田実業の出身ですが、早大ラグビー部で競技を続けた理由を教えてください。
中学の時点では、あまり大学のことを意識せず、高校でどうなりたいかを考えて早実を見学しました。人数が少ない中で花園を目指す姿に惹(ひ)かれ、実際に入学し、さらに早大の良さを知りました。早大には色々なバックグラウンドの人が集まっていて、有名な高校を卒業したわけではない選手が試合に出場していたり、体格が劣っていても体格の良い相手と対等に戦っていたり、早実で高校時代を過ごす中で早大ラグビー部に興味が湧いてきました。
―入部時の目標はありましたか?
1年生から赤黒を着ることだけをまずは考えていました。
―初めての赤黒はいつでしょうか。またその時に感じたこと、試合への意気込みなども教えてください。
2年生の春で迎えた早明戦です。その時はケガ人が多くてたまたま入ったという感覚だったので、自分の実力で入ったという実感はありませんでした。3年秋の対抗戦で赤黒を着て出場し、初めてやっと自分の実力でつかめたという感覚を持てて、ここまでやってきて良かったなと思えました。
「『組織で勝つ』という早稲田の魅力に惹かれた」
―早稲田ラグビーには、どのような印象を持ちましたか?
有名な高校から人が集まっている帝京大学や明治大学と比べ、個々の戦力では劣る部分があるので、どうやって組織で勝つか、ということが重要だと思います。「組織で勝つ」という早大の魅力に惹かれて入ったので、自分がいちばんそれを体現できるように、早稲田を象徴する選手になりたいです。
―下級生の頃に苦悩などはありましたか?
2年生の9月中旬に、ジュニア選手権の明大戦でけがをしました。そこから復帰までに3カ月くらいかかり、秋の対抗戦に出られませんでした。グラウンド外でのラグビーにかける時間が足りなかったと反省しました。3年生では意識を変えて、グラウンド外での生活の部分、食事や睡眠まで全部考えてやるようにしました。また、下級生の頃は自分のことだけを考えていて、チームのことを考えるというのは足りていなかったので、チームを全体的に見るという部分で意識を変えました。
―辛い時でも乗り越えられる、その原動力となっているものはなんでしょうか
「赤黒を着たい」という思い。またそれに対する両親や色々な人への恩返しをしたいという思い。期待に応えられていない部分があったからこそ、そのためにももっといろいろ頑張ろうと思えました。
「『早稲田らしい選手』の究極形を目指す」
―自分の一番の強みは?
仕事量とタックルを見てほしいです。
―ポジションへのこだわりはありますか?
フランカーは、誰よりも走って誰よりも体を当てると、みんなよく言うのですが、僕はセットプレーで貢献できない分、フィールドで誰よりも走って、誰かがミスしてもカバーできるように、本当に2人分くらいの動きをしなければいけないポジションだと思っています。
―将来的にこんな選手になりたいという目標はありますか?
「早稲田らしい選手」の究極形を目指しています。早稲田を象徴する究極のフランカー。今後語り継がれるような選手になりたいと思っています。
―現在、チームで唯一、全試合スタメン出場を続けていますが、その信頼を得ている理由をご自身でどう分析していますか?
みんなが追い込まれている状況で、どういう態度でいられるか。練習の一つひとつの部分だけではなく、シーズンを通してきつい時期が必ず訪れます。チームが壁にぶつかって落ち込んでいる時に、どういう振る舞いをするか、立て直すためにどういう態度をとって練習に臨むか、という点を意識してやってきたからこその信頼だと思います。
「リーダーとして引っ張る」
―プレー面での貢献についてはいかがですか?
ディフェンスの部分ですね。昔はタックルを買われていたと思うのですが、コミュニケーションの部分で、今はすごく成長したと思います。リーダーとしてディフェンスへの理解度が深まって、早稲田がどういうディフェンスをやりたいのかというのを自分がしっかり把握した上で体現できているので、練習中、試合中でのコミュニケーションは成長しました。タックルやブレークダウンでも隆道さん(佐々木隆道HC)に指導を受けたので、成長できているのかなと思っています。
―今年の躍進のきっかけになった出来事はありましたか。
昨年の12月中旬くらいにけがから復帰して、強い選手ならすぐに選手権に出られるかもしれないのですが、自分はそういった立場ではなくて。その中で京都産業大学との試合でピッチにも立てず、大阪にも行けず、上井草でテレビを見ながら、「来年はやってやろう」という気持ちになりました。それと同時に、早稲田が何も成し遂げられず低迷して終わるとも感じました。チームを引っ張らないと、個人としてもスタメンで立ち続けていかないといけないと決心した時でした。
「全勝で『荒ぶる』を取りたい」
―ラグビーを好きだと思う瞬間はありますか?
しんどい試合を勝ち切って、みんなで喜び合う瞬間ですね。あと最近感じているのは、練習で積み上げてきたことが成果として現れてきた時、チームの成長を感じた時に、本当に喜びを感じています。チームの成長を実感できるのはリーダーとしても楽しいことかなと思います。
―今年は3年生の委員も務めていますが、チームの中心的な存在としてどのようなことを意識していますか?
FWは、特にキャプテンがいない時期が多かったので、そこは僕もユニットの中で引っ張っていかないといけないという自覚がありました。それをみんなが見てくれているのはありがたいです。もっと頑張らないといけないとも思います。
ラグビーは、本当にきつい時にどう頑張れるかという究極のスポーツだと思うので、技術的な面だけでは勝てない、乗り越えられない時があります。練習でもきつい時にどういう態度を示していくのか、ということは常に意識して振る舞っています。
―今年のチームにかける思いを聞かせてください。
入学前は4年生で優勝できれば良いなという思いがどこかにあったのですが、今はもう、本当に「今年、絶対に『荒ぶる』(※)を取る」という気持ちが今まで以上に強いです。4年生を勝たせたいという思いも強いです。「自分の代が」という意識はないですし、今年だけにかける気持ちが強いです。
(※大学選手権で優勝したときにのみ歌える第2部歌。転じて『大学日本一』を指す)
―初めての早明戦に向けて意気込みをお願いします。
自分の強みであるタックルを最大限発揮します。チームの組織的なプレッシャーのあるディフェンスを見てほしいです。
―最後に「荒ぶる」への意気込みもお願いします。
自分たちは本当にチャレンジャーなので、最初からシーズンを通して全勝で「荒ぶる」を取りたいと思います!