ラグビー

特集:縦と横のコントラスト 第100回早明戦

明治大・木戸大士郎主将 「奪還」めざし、ぶれずに前へ 言葉の重みでチームを率いる

1年からスタメンに定着し、経験を積んできた闘将・木戸大士郎(すべて撮影・明大スポーツ新聞部)

100回目を迎えるラグビー早明戦が、12月1日に国立競技場で行われる。大学ラグビー界屈指の好カードであり、今年度の関東大学対抗戦の命運を占う大一番となる。これまで、両校がそれぞれのプライドを懸けて数多くの名勝負を繰り広げてきた。「明治として、スクラムでもモールでも、何に対しても負けられない」。節目の一戦に向けて人一倍闘志を燃やしているのが、明治大学主将・木戸大士郎(4年、常翔学園)だ。1年時からスタメンに定着し、多くの経験を積んできた「闘将」率いる明大が、王者・帝京大学を破り勢いに乗る早稲田大学を撃破する。

縦と横のコントラスト 第100回早明戦

高校時代に形作られた献身的なプレー

2002年、大阪府出身。ラグビー選手だった父の影響で幼少期からラグビーに触れてきた。小学1年生から、父親がコーチを務める岬ラグビースポーツ少年団で本格的にラグビー生活をスタート。「練習はきつかったが、僕の基礎となる部分をつくってくれた場所」と振り返る。中学時代は陸上部(長距離)と両立しながら活動。「足が遅かったので」とBKからFWにポジション転向すると、大阪府選抜にも抜擢(ばってき)され、現在明大でチームメートの登根大斗(4年、御所実)らとともにプレーした。

「僕の叔父が常翔学園で昔プレーしていたので、他の高校から声も掛かってたんですけど、FWで行くんだったら常翔かなと思った」と、高校は大阪府有数の強豪校・常翔学園に入学する。バックロー志望だったが、人数の関係で高校時代はLOでプレーし、1年時からスタメンに定着。ルーキーイヤーから花園(全国高校大会)の舞台に立ったが、「自分がどんなプレーをしたらいいか分からなくなるぐらい緊張した」と振り返る。3年時は主将に就任しチームを牽引(けんいん)。3年連続で花園出場を果たすも、3回戦で流経大柏に僅差(きんさ)で敗北し、悔し涙を流した。

「(高校時代は)メンタル面で成長できた。体を張れるようになった」。木戸の持ち味である献身的なプレーは、高校時代に形作られた。チームの仲間たちに支えられながら駆け抜けた常翔学園での3年間は、間違いなく木戸を変えた。

進学した明大ではフランカーに、2年からはNO8とコンバート。不動の8番だ

1年からレギュラー しかしいまだ届かぬ日本一

高校卒業後は、「吉平さん(石田、現・横浜キヤノンイーグルス)とか慶次朗くん(為房、現・クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)などの偉大な人は明治に行く、みたいなのが常翔の中であったので、自分も明治に行きたいなと思った」と明大に進学。念願のバックローにポジションを移すと、春季大会の日本大学戦で早くも紫紺デビューを果たした。そのままフランカーに定着すると、関東大学対抗戦では7試合中6試合でスタメン出場。ルーキーながら全国大学選手権・決勝も経験した。

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2年時に現在のポジションであるNO8にコンバート。高校の先輩である「石田組」の戦いに大きく貢献したが、大学選手権準々決勝の早大戦で敗戦。「負けた時は負けた実感がなくて、すごくあっけなかった」という。3年時は公式戦全試合でスタメン出場し、不動の8番に。自身2度目の選手権決勝の舞台に立ったが、栄冠をつかむことはできなかった。

入学当初から多くの経験を積んできた木戸。しかし3年間で「日本一」になれなかった思いが根強く残っている。「決勝に2回行かせてもらって、2回とも帝京に負けてるので悔しい」。優勝の難しさをこれまで感じてきたからこそ、選手権制覇に対する思いは誰よりも強い。

堂々とした姿とプレー 誰もが認める主将に

「前から自分がキャプテンになる雰囲気があった」と、培ってきたキャプテンシーを買われ、今年度の主将に就任した。4年生全員で話し合って決めたスローガンは「奪還」。「今まで優勝を目指すのが当たり前になっていて、その意識が薄れている部分があったので、シンプルで簡潔な『奪還』という言葉を置いて、〝今年こそ絶対に優勝を取りにいく〟ということを強調している」

華はなくとも、泥臭く愚直なプレーでチームにエナジーを与えている

木戸のキャプテン像は「ぶれない」ことだ。「失敗する時とか焦ってる時はチームがバラバラになるので、僕がそれをまとめるのは大事だと思っている。僕は堂々としておくべき」。何があっても動じず、一貫した振る舞いでチームを率いてきた。その姿に神鳥裕之監督も大きな信頼を寄せている。「たくさん言葉をしゃべるタイプじゃないので、その分プレーで、発する言葉の一言ひとことの重みでチームを引き付けるスタイル。自分自身の価値観をしっかりと持って、ぶれずに発信し続けているところが良さだと思う」。指揮官も太鼓判を押すリーダーシップが、明大の核となっている。

鋭いタックルと激しいボールキャリーが持ち味である木戸。華はなくとも、泥臭く愚直なプレーでチームにエナジーを与えている。さらに春先に自身の課題として挙げていたブレークダウンでも大きく成長。「そこを意識して自分の中でやってきて、それが形として表れている」。佳境を迎えた対抗戦、そして選手権でも、勝利のためにハードワークを重ねる。

昨年は勝利も、春は敗戦「絶対にリベンジ」

昨年の早明戦では、壮絶な点の取り合いを制した明大。今年の早明戦も、両者のプライドがぶつかり合う白熱した戦いになるだろう。

関東大学春季交流大会ではセットプレーに苦戦し、早大に悔しい敗戦を喫した。しかし夏合宿から改善がみられ、本来の明大のセットピースが戻りつつある。「ベーシックなところはずっと準備してきた」と自信満々だ。「春に負けて絶対リベンジしたい気持ちがあるので、絶対に勝ちたい」と木戸は強く語った。紫紺の扇の要が見据えるのは「勝利」のみ。12月1日、木戸組が国立競技場で凱歌(がいか)を上げる。

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