早稲田大・徳田幹太 全日学優勝にTリーグ契約、来春は世界へ「人生変えるつもり」
早稲田大学卓球部から14年ぶりに、全日本大学総合卓球選手権大会個人の部(全日学)シングルスの優勝者が生まれた。徳田幹太(2年、野田学園)は秋季関東学生リーグ戦でも12年ぶりの優勝に貢献。創部100年の伝統校を勢いに乗せている。
世代トップランナーの背中を追って
競り合いで得点するたび、徳田はほえた。10月にあった全日学で決勝までの4試合すべてがフルゲーム。計28ゲームを戦い、勝ち抜いた。「今年、人生を変えるつもりだった。目標の大会で優勝できてよかった」
愛媛県伊予市出身。小学2年で全日本選手権バンビの部を制した。世代のトップ選手の一人になったが、まもなく、小休止した。
生まれつき、「心房中隔欠損症」という症状があった。心房間の膜に穴があり、成長とともに心臓へ負担がかかる恐れがある。小学4年の秋に手術をした。
術後3~4カ月は激しい運動ができない。復帰しても調子が戻らず、全国大会はベスト32の壁を越えられなくなった。
同学年には、いまTリーグなどで活躍する鈴木颯(愛知工業大学)と吉山僚一(日本大学)がいた。自分がいない間も2人は世代トップの座を争っていた。
「一緒にトップを走っていたのに、自分は落ちちゃって。焦りはないですけど、この2人を超えないと上のステージに上がれないという思いが強くなりました」
この頃、大きな出会いがあった。
モチベーションビデオに感銘を受け、早稲田へ
松山市で開催された全日本大学総合卓球選手権大会団体の部(インカレ)の観戦に行くと、早稲田大のエース大島祐哉(現・木下マイスター東京)から声をかけられた。「なんでだったか、覚えていない」。大島は、自分が使っていたタオルもくれた。
「大島さんに出会ったぐらいから、早稲田の『モチベーションビデオ』を見るようになりました」
試合前などに士気を高めるための映像で、最近スポーツ界ではやっているモチベーションビデオ。早稲田大卓球部は悔しかった試合や日々の練習の動画に、BGMをつけたものを公開している。「かっこよかった」。早稲田に入ると決めた。
中高は山口の強豪・野田学園に進学した。エースとして実績を残し、自己推薦入試で早稲田大スポーツ科学部をめざした。
試験は小論文と面接。高校3年のインターハイが終わった夏ごろから本格的に時事ニュースや文章の勉強を始めた。
面接の練習は「学校の先生にお願いして面接の相手をしていただきました」。主将としてチームをまとめたリーダーシップをアピールすべきだとアドバイスをもらった。まずは卓球部の橋津文彦監督。同じ相手だと練習にならないから、面識のない先生を含めて片っ端からお願いした。
「知らない人と話すのは得意ではないです。でも、やらないと受からないので。いまの諦めない卓球のスタイルも、あの経験が生きているかもしれません」
卓球に充てていた時間を丸々、試験勉強に置き換えた。合格できた早稲田で、徳田は壁に当たった。
OBがいる実業団チームに練習参加のお願い
全日本選手権で予選落ちした。同い年の吉山は6回戦まで進み、リオデジャネイロ・オリンピック団体銀メダリストの吉村真晴と好ゲームを演じていたというのに。「徳田は大学で伸びていないんじゃないか」。そんな声が聞こえてきた。
「このままじゃ、自分の卓球人生が閉じちゃうかもしれない」。腐りかけた徳田を奮い立たせたのは、1学年上の濵田一輝(3年、愛工大名電)。早稲田のエースだ。
「早稲田をめざした最後の決め手は、濵田さんと一緒にプレーしたいと思ったからです」
世界選手権で活躍した祖母と、全日本トップレベルの両親を持つ濵田は、自身も愛知・愛工大名電高時代に全日本選手権ジュニアの部で優勝したプレーヤーだ。
ずっとあこがれてきた存在を見て、伸び悩んでいた徳田はこう思った。
「今でも尊敬しているけど、憧れているだけではもったいないなって。『濵田さんは年上だから、すごく当たり前』ではなくて、『俺がエースになる』っていうマインドに変えました」
大学受験のときのようにスイッチが入った。
今夏、早稲田OBのいる東京都内の実業団4チームすべてに練習参加をお願いした。「迷惑になるかもしれないけど、ガンガン行きました」。卓球部の練習とトレーニング、そして実業団の練習。連戦を戦い抜く体力がついていった。
人生を変える――。そんな覚悟で全日学のタイトルを勝ち取った数日後、徳田の携帯電話が鳴った。
卓球部の本橋道直監督からで、Tリーグ・金沢ポートから入団の誘いがあったという話だった。
迷いはなかった。「とうとう来たか、と。プロになることは一つの目標だった。同時に、ここからが本当の勝負だと思いました」
契約直後の11月15日、木下マイスター東京戦に出場。今夏のパリオリンピックでリザーブメンバーに選ばれた松島輝空を破ってみせた。
2025年シーズンは国際大会にも
徳田はこれから何をめざすのか。
「早稲田を常勝軍団にしたい。濵田さんが卒業しても、徳田がいるから大丈夫と思われたい」
もう一つ。
「小さい頃からの夢はオリンピックで金メダルを取ること。今はまだイメージが湧かないですけど、イメージが湧くくらいに結果を残していきたい」
世界ランキングを上げるため、来春、濵田とともに国際大会に打って出るつもりだ。