アーチェリー

早大・園田稚(下)オリンピック三度目の正直へ「大事なとき黄色に当てられる選手に」

試合前にチームメートと言葉をかわす早稲田大の園田稚(すべて撮影・井上翔太)

高校時代からオリンピック出場をめざしてきた早稲田大学アーチェリー部の園田稚(わか、4年、足立新田)。パリ大会への出場はかなわなかったが、視線はすでに4年後のロサンゼルス大会へと向いている。競技人生を前後編で紹介する連載の後編は、早稲田だから学べたことや更なる成長のために磨きたいことについて。

【前編はこちら】早大・園田稚(上)史上最年少でナショナルチーム入り、ロサンゼルス五輪へ再スタート

コロナ禍、自宅の庭で続けた近射

アーチェリーの競技力を占う上で、必要な能力は何か。園田に「心技体で特に欠かせないもの」を尋ねると、メンタル(心)だと教えてくれた。だとするなら、2020年の東京オリンピック日本代表選考会に敗れ、コロナ禍が重なってそれまでの日常が様変わりした高校2年の終わりから高校3年にかけては、失意の中にいたと言っていいだろう。味の素ナショナルトレーニングセンター(NTC)が一時閉鎖となり、大分県別府市の実家に戻った園田は、当時をこう振り返る。

「本当に悔しい思いでいっぱいだったんですけど、周りからは『この年でその場に立ててることがすごい』みたいなことを言ってもらえて、自分でもそう思えた。パリオリンピックもあるし、競技をやめるつもりもなかったので、もう1回頑張ろうかなという気持ちに少しずつ変わりました」

自宅での練習環境は、庭で畳に向かって近い距離を射(う)つ近射。「暇だからちょっとずつ練習していこう」という軽い気持ちから始め、フォームを安定させるために続けた。「2カ月ほど射っていないと、戻ったときに体力がなくて、弓を引けなくなるので、最低限のことはしていました」。体力がないと、弓を構えたときに余計なところに力が入って、矢がぶれてしまうそうだ。

体力を維持するため、コロナ禍は自宅の庭で近射に取り組んでいた

他競技の選手たちから受けた、大きな刺激

早稲田には大分時代の先輩が進学したことや、JOCエリートアカデミーへ一緒に入校した1学年先輩の髙見愛佳さんが進んだことなどが決め手となって、入学した。「早稲田にアーチェリー部があることは、JOCに来たときから知っていて、スポーツ系の学部もあるので、行きたいと思っていました」

大学では、実践的な授業の内容に「すごい!」と思うとともに、他の競技にもトップレベルの選手たちが集まっていたことに、大きな刺激を受けたという。「アーチェリーをしていると、アーチェリー選手だけに限られる出会いが多くて、アーチェリー特有の考え方しかできないんですけど、他の競技の選手と話をする機会ができたことで『この競技は、こういう特性があるんだな』と視野が広くなりました」

たとえばバレーボール。女子主将の秋重若菜(4年、金蘭会)と話をするうち、2時間ほどの短い全体練習で調子を整え、残りの時間はトレーニングに充てていることを知った。「アーチェリーは練習時間が長いので、すごいなぁ」と園田。フェンシング部では森多舞(4年、岩国工業)と仲が良く「道具の手入れは大変だよね」という話題に共感した。射撃はアーチェリーと同じく的を狙う競技で、共通点も多い。「ピストル射撃の子と友だちなんですけど、射撃は『2個で狙う』という話をしていて。アーチェリーもサイトピンと弦を合わせて的を狙うので、『似ているね』と盛り上がりました」

早稲田を表す「W」のポーズで。この大学だからこそ学べたことがある

「自分をコントロールできる」選手をめざして

国内トップレベルに成長した園田だったが、パリオリンピックへの出場はかなわなかった。野田紗月(ミキハウス)、上原瑠果(日本特殊陶業)との3人で6月の最終予選に臨んだが、準々決勝でイギリスに敗れた。開催国枠があったため国内選考を勝ち抜く必要があった東京大会とは、出場への条件が異なった。今では冷静に、最終予選を振り返る。

「それまでの自分の試合を見ると、良くない部分があって『もっと自分をコントロールできるようにしないといけない』と思いました。パリは自分に勝った選手たちが出ていたので、『うまく射ってほしい』と思いながら見てました。『もし自分が出られていたら、いい競技ができただろうな』とも思って、その悔しさを糧に今は練習しています」

「大事なとき、黄色に当てられる選手になりたい」というのが、園田の言う「自分をコントロールできる選手」だ。試合では相手が黄色の10点に当てた後、自分も10点に命中させなければならない局面がある。「隣にどんな選手がいようが、自分がより真ん中に当てれば勝てる競技なので、そこをどれだけ追求できるかというところにフォーカスして、もっと成長した自分を皆さんに見てもらいたいです」

「隣にどんな選手がいようが、自分がより真ん中に当てれば勝てる」

72射の合計得点を競うときには「技術」が求められ、個人でのトーナメントや団体戦を勝ち抜くには「この1本の集中力」がより必要となる。後者を磨くことが、悲願のオリンピック出場に近づくと、園田は考えている。「国内では負けなしでやっていきたいですし、チームワークを取れる協調性など、すべてを兼ねそろえた選手になって、ロサンゼルスではこれまでの悔しい思いをすべてぶつけたいと思います。日本の女子団体は絶対にメダルが取れると思っています」

早稲田に来て良かったと思えた同期の存在

最後に、同期の存在について聞いてみた。「4年生が5人しかいない中で部を回していかなければならないのに、私は海外に行きっぱなしでした。そんなときも全然嫌な顔をせずに『頑張ってね』と送り出してくれたことが、すごくうれしかったですし、そのおかげで頑張れた。早稲田に来て良かったなって思います」

早稲田だから学べた知見と、味わった悔しさ。すべてを糧にして、卒業後もひたむきに競技と向き合っていく。

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