卓球

特集:パリオリンピック・パラリンピック

愛知工業大・篠塚大登 パリオリンピックで鍵を握る、恥ずかしがり屋で熱い「しのぴ」

パリオリンピック日本代表に内定した20歳の篠塚(撮影・西岡臣)

今夏のパリオリンピックに向け、卓球日本代表に光が見えた。3大会連続のメダルを狙う団体戦の鍵を握るダブルスで、愛知工業大学の篠塚大登(3年、愛工大名電)と戸上隼輔(井村屋)のペアが力をつけている。篠塚は日本代表の3枠目に滑り込んだ20歳。照れ屋で、熱い。

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確立できつつある得点パターン

サウジアラビアで5月「サウジスマッシュ2024」が開催され、各国の主力が集まった。ダブルス種目で篠塚、戸上ペアは中国ペアに次ぐ準優勝を果たした。ハイライトは準決勝。オリンピック開催国、フランスのエースペア「ルブラン兄弟」からストレート勝ちを収めた一戦だ。

20歳の兄・アレクシスと17歳の弟・フェリックスは、ともにメガネがトレードマーク。それぞれがシングルスでメダルを狙える実力者だ。2人が引っ張るフランスは、日本が準々決勝で敗退した2月の世界選手権団体戦で、銀メダルを獲得している。

地元開催のオリンピックでメダルを争う相手を攻略し、篠塚は「自分がチャンスを作って、戸上さんが決める」という得点パターンができつつあると語った。オリンピック本番に向け「もっと海外のトップ選手に勝って、自信をつけていく必要がある」。

海外の強豪とも渡り合う。写真は2023年の全日本選手権(撮影・藤原伸雄)

ボールタッチが柔らかい天才肌

愛知県東海市出身の篠塚は、5歳で卓球を始めた。スキー経験者の父・和幸さんが、勤務先の高校でたまたま卓球部の顧問になり、半ば強制的に始めさせられたという。

全国的にも名高い名古屋市の卓伸卓球道場から、愛工大名電中高を経て、愛知工業大へ。篠塚は地元で成長した。

サウスポーで、周囲からは「ボールタッチが柔らかい天才肌」と評価される。難しい球を相手の台におさめる能力に自信があり、ラリーに強い。同い年に張本智和(智和企画)がいて目立った個人タイトルはない。それでも、高校在学中にTリーグから声がかかり、好成績を残すうちにオリンピックを意識するようになった。

左から張本智和、戸上隼輔、篠塚大登(撮影・鈴木健輔)

もともと照準を合わせていたのは、20歳代半ばで迎える2028年のロサンゼルス大会だ。それがパリ代表選考会で「思った以上に(力が)伸びちゃった。うまくいきすぎちゃった」。昨年のTリーグの試合で、張本智和に初めて勝利。全日本選手権では昨年、今年と4強入り。今年は6回戦で松島輝空(木下グループ)と事実上の「代表決定戦」をフルゲームで制した。

「少し殻を破れた」馬龍との初対戦

恥ずかしがり屋を自認するが、最近、試合でよくほえる。

象徴的だったのが、世界選手権団体戦での中国・馬龍戦だ。東京オリンピックのシングルス王者と初めて対戦したことで、篠塚は「少し殻を破れた」と振り返る。2ゲームを連取されて迎えた第3ゲーム。長いサーブで馬龍を崩し、得意のラリーで押した。

このゲームを取り、第4ゲームもリードしたが、競り負けた。打ち合いを制すたび、篠塚は大声を出した。

「恥ずかしいのもあって、声を出すのは自分には合っていないと思っていた」。だが、本当は「自分も声を出したいと思っていた。相手に圧かけるのもそうだけど、自分を奮い立たせられる。試合では絶対に必要」。意識しないと出なかった声が、最近は自然と出る。「変われたと思います」と篠塚ははにかむ。

最近では意識せずとも声が出るようになった(撮影・鈴木健輔)

結果が伴うにつれて、知名度も上がってきた。

愛称は「しのぴ」。Tリーグのマネジャーにつけられたというお気に入りの呼び名が、ファンの間で定着した。アピールポイントを聞かれると、「自分に自信がないタイプなので……」とはみかみつつ、「最後まであきらめずに頑張れるところだと思います。熱い『しのぴ』を見てほしい」。

愛工大と都内のナショナルトレーニングセンターを拠点に練習を積み、初めてのオリンピックに向かう。

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