駒澤大学マネージャー今田みゆき・渡邊真愛 苦悩の連続も「大学生だって青春できる」
駒澤大学卓球部の最大の武器は仲間同士の強い絆である。どんなに劣勢な試合でも誰一人として諦めることなく声援を送り続け、“逆転の駒澤”と称される逆転劇を幾度もつくってきた。しかし新型コロナの影響で仲間と会えない日々が続き、心が離れてかけてしまった時期もあった。マネージャーとしてチームを支え続け、たび重なる危機を乗り越えてきた今田みゆき(4年、鎌ヶ谷)と渡邊真愛(4年、綾瀬)の4年間に迫る。
先の見えない不安とともに始めたマネージャー
2人が卓球部に入部したのは1年生の終わりごろだ。入学直後からコロナ禍の影響により自宅学習を余儀なくされていたが、3月に開催されたサークルや部活動を紹介するサークルフェスティバルで、渡邊は卓球部と出会うことになる。入部の決め手は「サークルよりも本気で上を目指す雰囲気が中学高校で卓球をしてきた自分に合っていたから」と話す。今田も中学高校と卓球をしており、所属していた卓球サークルを通して卓球部の長﨑隆志監督(42)からマネージャー募集の声が掛かり、「興味のある裏方の仕事を大好きな卓球を通じて経験できると思い、入部を決めた」という。こうして2年生から本格的に卓球部マネージャーとしての活動が始まった。
2人にとって最初の大きな大会は関東学生春季リーグだった。2年生になってもコロナ禍との付き合いは続き、春季リーグが開催されるか否か、直前まで判断が下されない状況が続いたという。「開催されるか分からないけれど、とりあえず頑張ろう」という気持ちを持ってチーム全体として練習に励んでいたが、結局中止となる。その後の全日本インカレは開催されたものの、部内で感染事例が発生したため駒澤の出場はかなわなかった。
練習場で仲間と会える機会も徐々に減ってしまい、何もできず、もどかしい気持ちで日々を過ごしていたという。そこで新しい取り組みとして朝と夜にウェブ会議を行い、画面越しではあったが部内でコミュニケーションを取り、何とか心は離れないようにと努めた。当時を振り返って渡邊は「会えたとしても練習場のみで、一緒に食事をすることもできなかった。選手やマネージャー、監督と仲良くなる場がなかったのが本当につらかったです」と話す。
マネージャーとしての流儀
2年生の秋には唯一の先輩マネージャーが引退し、常に責任を負う立場となった。マネージャーの仕事は事務作業から球拾い、選手のメンタルケアやSNS活動など多岐にわたる。2人はそれぞれの得意分野を生かし、仕事をこなしていた。リーダーシップの強い今田は「裏方がへこたれていたら選手たちは不安になってしまいます。そのためどんなにつらくても辛抱強く、仲間たちと協力しながら『なんでも任せて』と胸を張れるようにしていました」という。
渡邊は「しっかりしている今田と違って事務などが苦手だったので、元気担当でいようと思いました。落ち込んだ時などに声をかけてほしい選手もいれば1人にしてほしい選手もいるので、それぞれ選手やほかのマネージャーにはどういうことをすれば喜ぶのだろうと、壁をなくすためにも積極的に相手を知ろうと努めました」と笑顔で振り返る。
どんなに苦しかったことも、全て今後に生かす
3年生に進級して大会の規制が徐々に緩和された頃、全日本インカレが愛知県で開催されることとなった。選手と監督に加えて今田も帯同することになったのだが、今田にとって大きな試練が襲い掛かる。関東圏で行われる大会の帯同は何度も経験していたが、遠方への帯同は本人にとって初めてだったのだ。当時のキャプテンと大会期間中のスケジュールを立てて臨んだものの、結果的に仕事が後手に回ってしまい迷惑をかけてしまったという。「すべての仕事が指示待ちになってしまい、与えられた仕事も期待に沿える動きができなかった」と悔しさをにじませながら、「自分が成長する一番のきっかけになりました」と当時を振り返った。
渡邊もマネージャーをするうえで、考え方の違いという大きな壁にぶつかったという。大学の強豪校となると、独特な部活動で育ってきた人や様々な生き方をしてきた人が全国から集まる。いい意味でたくさんの考え方があり、最初は悩むことが多かったが「その違いを楽しめるようになったし、自分は自分でいいと思えるようになった」と振り返ったうえで、「この経験は社会に出てから生かしていきたいです」と話した。
「昨年の自分に言いたい、1年後最高の景色が見られるから」
2人にとって一番うれしかった出来事は、今年度の全日本インカレ・団体の部(男子)でベスト8入りを果たしたことだと口をそろえて話す。
予選リーグから相手を圧倒し、順調にベスト16まで進んだ駒澤。ベスト8入りを賭けた決勝トーナメント2回戦の相手は前回大会と同じ関西学院大となった。前回大会では1-3で駒澤のベスト8入りを拒んだ因縁の相手だ。序盤から白熱する展開となるが徐々に差を広げられ、セットカウント1-2と後がなくなったが、ここでチームの武器である強い絆が発揮される。仲間たちの声援により会場中が一体となって駒澤を後押しし、3-2と劇的な大逆転で前回大会のリベンジを果たし、実に8年ぶりのベスト8入りとなった。
今田にとって前回大会との対比もあり「今回は横浜で開催されたので部員や保護者など多くの人が応援に駆けつけてくれた。仲間がいるって本当に頼もしく、うれしいことなのだと。全員で勝った大会でした。昨年の自分に言いたい、1年後最高の景色が見られるから落ち込まずに前を向きな! って」と笑顔で振り返った。
そして引退試合となった秋季リーグ最終日、2人は後輩マネージャーから「私たちに仕事を任せて、ぜひ応援に集中してください! でないと不安を残して引退させてしまうので……」と進言され、涙を浮かべながら最後の試合を見届けた。試合後、渡邊は「これで安心して引退できます」と満面の笑みを見せた。
いま、4年間を振り返って
最後に激動の4年間を振り返り、渡邊は「大変なことばかりだったけれど全て勉強になったし、それよりも圧倒的に楽しかった! という気持ちが一番大きいです。長﨑監督もよくおっしゃいますが、大学生だってこんなに楽しい青春ができるのだと強く感じました。中学高校でこれ以上楽しい日々はないだろうと思っていましたが、そんなことはなかった。監督や選手、後輩マネージャーには感謝しかないです」と話した。
今田は「4年間を通じてやり切ることの大切さを学べました。楽しいことよりもつらいことの方が多かった。それこそ部活に入らず卓球サークルだけに集中していればつらくなかったのにとか。それでも、サークルで楽しんでいるだけでは気づくことができないことを学べたと思います。いろいろな人に触れ、みんな違う優しさがあり、自分も取り入れてみようとか。つらかったことが最後吹き飛ぶくらいいい景色も見せてもらえましたし(笑)。終わりよければ全てよし、やり切ったからこそ言えることです」と締めた。
駒澤大学卓球部で培った大きな経験を生かし、次のステージへと羽ばたいてゆく。