陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

大学駅伝シーズン到来! 「感性」が必要なマネージャーさんのお仕事、意外と体力勝負

学生時代の主務仲間、日本大学OBの野中章弘さん。現在はNTT西日本陸上競技部でコーチをされています!

10月に入り、いよいよ大学駅伝のシーズンですね! 今月は男子では出雲駅伝と箱根駅伝予選会が行われ、女子は全日本大学女子駅伝が開催されます。選手の皆さんの熱い走りに注目です! そして、そんな選手の皆さんを支えるマネージャーさんの仕事ぶりについて、今週の「M高史の陸上まるかじり」ではお伝えしたいと思います。

僕自身、学生時代は駒澤大学で主務を務めさせていただきました。現在でも取材を通じてたくさんの大学のマネージャーさんに大変お世話になっています。大学陸上のマネージャーさんって、いったいどんな仕事をしているのでしょうか!

マネージャーになる経緯も人それぞれ

大学によっては長距離ブロック以外も含めて陸上競技部全体での主務と駅伝主務に分かれることもあります。主務とはいわゆるマネージャーを束ねるチーフマネージャーです。多くの大学陸上強豪チームは主務、副務、マネージャーで構成され、選手のサポートやチームのマネジメントをしています。学生コーチや学生トレーナーがいるチームもあります。

マネージャーになる経緯としては、もともと競技をしていてマネージャーに転向するケースが多いのではないでしょうか。故障が重なったり、力が及ばなかったり、大学によっては各学年から1人はマネージャーを出すというケースもあります。中には早稲田大学OBの大角重人さんのようにマネージャーに選出され、主務を務めながら箱根駅伝を走った猛者も!

早大で主務として箱根駅伝出場 道を貫いた大角重人さん

僕の同い年でも國學院大學で当時、主務をしていた舟木健さんは箱根駅伝のチームエントリーメンバー16人に入りました。当日は走ることができず主務業に専念していましたが、競技とマネージャーを両立している人も稀(まれ)にいます。

きっと選手時代は「結果を出さなきゃ」というプレッシャーもあり、故障などもあったかと思います。ところが、マネージャーになって空き時間に好きなように走っていると、故障なく練習が継続でき、結果的に選手の時以上に走れるのかもしれません。

ただ、よほど走るのが好きだったり、時間のやりくりがうまい人じゃなければ、主務と選手の両立は厳しいと思います。僕は1年生の冬からマネージャーでしたが、約3年間走っていませんでした。自転車は選手の伴走でものすごい距離をこいでいましたが、それでも寮で選手と同じ量の食事を食べていたので、今よりもだいぶ体は大きかったです(笑)。

僕は大学卒業後から……正確にいえば4年生最後の箱根駅伝が終わった翌日からランニングを再開しましたが、マネージャーを経て、社会人となってから再び走り出すケースはよく聞きます。

早稲田大学OBの行場竹彦さんは学生時代に駅伝主務を務め、社会人になってから再び走り始めました。マラソンでは2時間16分55秒の好記録! 2018年にクロアチアで開催されたIAU100kmウルトラマラソン世界選手権に日本代表として出場し銀メダルを獲得しました。今では雑誌ランナーズの編集長で「走る編集長」として挑戦し続けています。

元早大主務の行場さん、ランナーに戻って100km世界選手権2位に

また、競技は高校までで大学からはマネージャーという方もいますし、高校までは他の部活を経験して大学から陸上の世界へという方もいます。なので、やる気、体力、向上心があれば、マネージャーとして現状打破できると思います!

タイムの読み上げには、こだわりました!

僕がマネージャーをしていた頃からだいぶ年月は経ちましたが、各大学に取材させていただくと、マネージャーのお仕事のベースとなる部分はあまり変わっていないと感じています。

まずは何といっても練習のサポートです。マネージャー業の基本で、イメージもしやすいと思います。

選手よりも早くグラウンドに到着して、給水ボトルを準備します。暑い時期は氷を多めに入れたり、スポーツドリンクの濃度を微調整したり。夏場は給水もかなり必要になります。

練習中はタイムを計測します。大きな声で選手に伝わるようにタイムを読み上げます。僕はタイムの読み方にすごくこだわっていました。たとえば400mを68秒(1000m2分50秒換算)で通過するときは「68!」と言っている瞬間に68秒0になることを目標にしていました。

68秒になってから「68!」と言うと、その瞬間に通過しても68秒8だったり時には69秒2になっていたりします。そうすると選手もリズムに乗りにくいかなと思ったのです。今でもトラックの競技会やイベントでMCをさせていただく際、ラップを読み上げるときには心がけています。細かい話で恐縮ですが(笑)。

また、選手が通過するときはストップウォッチを持っていない方の手やボードを大きく振り下ろして、グラウンド内にいる監督、コーチ、他のマネージャーが見えやすいようにします。

いまこうして書いていても懐かしさを感じます(笑)。

当時から恩師・大八木弘明監督(現・駒澤大学陸上競技部総監督)は職人のような方でした。プロの料理人の方が季節によって食材を変えたり、微妙に味を調整したりするような職人技に似ていると思います。予定していた練習メニューと設定タイムがあり、過去のデータを比較しながらも、その選手の走りや気温、湿度、風や疲労度などを考慮して、絶妙なさじ加減で指導されていました。

そのため設定タイムの微調整や追加のメニューなどを、常に現場で確認しながら選手に伝達していました。選手の皆さんはその場で臨機応変に対応できる力が試され、本番でのレース展開に対応する力が備わっていったのかもしれません。

練習後は計測した記録をなるべく早くまとめて、監督、コーチに確認。雨の日や冬場は手がかじかんでしまって、まとめるのも一苦労でした。

試合のときはスタート前に付き添い、レース中はラップを計測して応援! レース後はいち早く選手のもとに駆けつけて腰ゼッケンを外し、記録速報を確認するなど、マネージャーも走り回ります。

走り終えた選手に真っ先に駆け寄り腰ゼッケンを外します。左が学生時代のM高史です

次の仕事としては試合のエントリーがあります。締め切りを常に把握しながら、練習の消化率や監督、コーチ、選手の意向を確認し、エントリーを済ませなければいけません。インカレ、駅伝といった大きな試合から記録会、ロードレースなどさまざま。国際試合に出場する選手もいるでしょう! 海外遠征の際、場所によっては予防接種も必要です。

近場のレースでなければ、交通手段や宿泊施設の確保といった手配も必要です。せっかく試合にエントリーできても、飛行機や宿がいっぱいでは大変なことになってしまうので、常に空き状況をチェックしていました。

合宿も試合と同様に交通と宿泊の手配が必要ですが、場合によっては合宿の途中で急きょ帰る選手もいるので、キャンセルしたり、また予約したり、空き状況を確認したり……。その繰り返しでした。

昨年コーチに就任した高林祐介さんが1年生の時の日体大長距離競技会。主務もすぐそばでスタンバイ(右から高林さん、大八木監督、M高史)

提出書類、メディア対応、娘さんの宿題まで

練習、合宿、試合以外では、書類の提出がとにかく多かったです。大学、OB会、後援会への連絡が中心になります。おかげで文章を書くのが好きになりました(笑)。また、メディアの方から取材申請などのご連絡をいただくことも多く、スケジュール調整、アンケートの集計、取材対応、原稿の確認などもしていました。いまにつながるものばかりですね!

学連会議の出席も業務の一つで、他校のマネージャー仲間と会えるのが楽しみでした! ライバル校ですが、主務の仲間、同志といった感じで、お互いに励まし合っていましたね(笑)。当時の主務仲間で今でもお世話になっている方も多いですし、4years.でも中央学院大学OB・千葉敬弘さん(現・中央学院大学駅伝部コーチ)、山梨学院大学OB・辻大和さん(現・トヨタ自動車陸上長距離部コーチ)、日本大学OB・野中章弘さん(現・NTT西日本陸上競技部コーチ)といった大学や実業団でコーチをされている皆さんにも取材をさせていただきました。今も陸上の現場でたびたびお会いします!

駅伝部主務からコーチになり選手に寄り添う 中央学院大学一筋・千葉敬弘さん
鹿児島実高、山梨学院大、トヨタ自動車でマネージャー歴20年 辻大和さん
4年間ずっと日大主務 NTT西日本・野中コーチ

特に日大OBの野中さんは、1年生の時から4年連続で主務をされた伝説のマネージャーさんでもあります!

マネージャーも選手と一緒に寮で生活していました。寮にいれば、当時まだ小学生だった大八木監督の娘さんの宿題を見るのも日課でした(笑)。また、当時の寮では大八木監督の奥様・京子さんが寮の食事を作ってくださっていたので、女子マネージャーが交代で食事当番のお手伝いをしていました。

僕の同級生だった漥明日香(現姓:加藤さん)さんにあらためて話を聞いたところ「まずは、お米研ぎからしていました。何合を炊いていたか覚えていないですが、炊飯器がとても大きくて家庭では見たことがないくらい尋常じゃないお米の量でした。味付けや炒めるといった調理は全部奥さんがやってくださるので、ひたすら野菜や果物を奥さんに指示してもらった形に切っていました。盛り付けは女子マネージャーと1年生の食事当番2人でやっていました。ある程度選手が食べてから、私たちもいただきました。その後は食器の片付けで、食器は食洗機で、おはしは手洗いでした。食洗機で終わった食器を拭くところまでが食事当番の流れでした。食事当番は奥さんと2人作業だったので、陸上以外の話もしながら楽しい時間でした!」。17年前を懐かしそうに振り返りながら、細かくお話ししてくれました!

大八木監督の奥様である京子さんへの感謝はもちろん、歴代のマネージャーさんたちにもあらためて感謝です。

SNS発信も加わった現在のマネージャー業

マネージャー業の中で、僕の学生時代から大きく変化というか、進化した仕事があります。それはSNSですね! それまでも各大学で部の公式ホームページはありましたが、SNSが世間に浸透したことで各大学の公式SNSもできました。それに伴い写真の撮影や動画編集などの技術、センスなども求められるようになりました。

タイム計測や給水をしながら、動画や写真を撮ってくださいます(提供・亜細亜大学女子陸上競技部)

各大学さんへ取材に伺っても、マネージャーの方がスマホでさっと動画を撮ってくださったり、一眼レフのカメラで本格的に撮影してくださったりされています。取材は基本的に僕1人で伺い、選手の皆さんと一緒に走って取材させていただいているため、マネージャーさんや監督さんがかっこよく撮ってくださった写真を記事にも掲載させていただいてます(笑)。

令和のマネージャーさんはチームの広報から、時にはクリエーターのようなところにまで守備範囲が広がっていることを実感しています!

チームの結果や近況をSNSで発信するのもマネージャーさんのお仕事です!(提供・明治学院大学陸上競技部)

ここまで記載してきたマネージャー業の他にも、細かい業務がたくさんあります。一言でいえば……激務ですね(笑)。大変ではありますが、その分、とてもやりがいがありますし、たくさんの素晴らしい出会い、ご縁がありますし、卒業して思うのは「学生時代にマネージャーをさせていただいて本当に良かった」と胸を張って言えることです!

学生時代から恩師・大八木監督は「感性」と常におっしゃっていました。台本通りではなく、何かあってもサッと気を配り臨機応変に対応すること。あいさつ、礼儀、気遣い、心遣い。そして報告、連絡、相談という迅速で円滑なコミュニケーション。社会で生きていく術(すべ)を学ばせていただきました。

そして、もう一つ。マネージャー業をする上で、意外に大事だなと思ったのは「体力勝負」だということです!

心身の健康は本当に大事です。これは社会人でも芸人でも共通していると思いますが、支えるマネージャーさんも体力勝負です。選手が寝たあとも資料作成や業務があったり、朝は選手がグラウンドに来る前に準備をしたり。睡眠不足になりがちですが、仕事もうまく分担して睡眠もとってくださいね。

阿蘇合宿でお世話になりました拓殖大学陸上競技部マネージャーの皆さん!(提供・拓殖大学陸上競技部)

限られた学生生活の中で、壁にぶつかる時もあると思いますが、まさに現状打破! 乗り越えていってほしいです。

というわけで、いよいよ開幕する大学駅伝シーズン。選手の皆さんの熱い走りを支えるマネージャーさんたちの応援もよろしくお願いします!

M高史の陸上まるかじり

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