陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

特集:第55回全日本大学駅伝

39大会ぶり全日本大学駅伝出場の鹿児島大学! 自主性を大切に、「恩返し」の走りを

全日本大学駅伝出場を決めた鹿児島大学さんに取材させていただきました(M高史撮影以外、すべて提供・鹿児島大学陸上競技部)

今週の「M高史の陸上まるかじり」は39大会ぶりの全日本大学駅伝出場を決めた鹿児島大学陸上競技部のお話です。当時は現役の学生さんたちが生まれるはるか前。出場されたOBの皆さんも、もう還暦前後の年齢になられています。筆者であるM高史も幼少期です(笑)。

スプレッドシートで各自の情報を共有

JR指宿枕崎線の郡元(こおりもと)駅で降りて10分ほど歩くと、鹿児島大の正門が見えてきます。取材に伺った日は夏真っ盛り! セミの鳴き声が響く中、グラウンドに到着しました。鹿児島大は国立で、スポーツ推薦制度や陸上部の寮もなく、一人暮らしまたは自宅から通っている選手もいます。

1周400mの土トラック。コースのところどころに芝生が生い茂り、坂のないクロスカントリーコースのようなトラックです。ポイント練習やジョグも基本的にはこのグラウンドで行われるそうで、走っているだけでバランス感覚が養われ、体幹が鍛えられそうです!

学内にある土の400mトラックや芝生でトレーニングを行っています

選手の皆さんは学部によって研究、実験、実習などがあり、ポイント練習は週2回。チームの大黒柱である大学院2年の茅野智裕選手(鹿児島工業)がメニューを作成し、それ以外のジョグの時間と距離設定は各自で調整とのことで、自主性が求められます。

部員が1度に集まる機会が少ないため、ミーティングは基本的になし。代わりにスプレッドシートに練習報告やコンディションを記載して、部内で共有しています。過去の練習もすぐにさかのぼることができるため、調子が良かった時のタイムや前年との比較などもすぐに確認できます。

取材に伺った日は夏真っ盛りでしたが、暑さを吹き飛ばす明るさでジョグに取り組んでいました

まずは、この6年間、チームを引っ張り続けてきた茅野智裕選手にお話を伺いました。

練習メニューを作り続ける茅野智裕選手

茅野智裕選手

工学部で電気電子を研究しながら長距離ブロックを牽引(けんいん)してきました。

一つ年上の兄・雅博さんは専修大学で箱根駅伝に出場。M高史も以前、お兄さんに取材させてもらったことがあり、今回別のチームで弟の茅野智裕選手に取材させていただけるとは! ご縁を感じます。

「父も陸上をしていて、親子2代で東村光弘先生(鹿児島工業高校)の教え子です。高校時代は陸上漬けでした。大学に入ってから、チームは全日本を目指せるレベルではなかったので同級生の柴田栗佑(現・京都大学大学院)と個人で頑張ろうという感じでした」

九州の学生ナンバーワンを決める島原駅伝では2年生の時に5位で入賞しました。

「2年からブロック長を任されて少しずつ『行けるぞ』という雰囲気になってきました。学部時代は多少調子が悪くても『柴田がいれば大丈夫』と心のどこかで思っていましたが、柴田が卒業して自分が不安になるとみんなも不安になってしまうので、『自分が折れてはいけない』と苦しいときも踏ん張ることができています」

2年生でブロック長になった時から練習メニューを作成しているという茅野選手。「もう5年くらい練習メニューを作っています。気をつけているのは強要しないことですね。正解はないですし、『やりたいメニューは言って』と伝えてます。その子が伸びてくれればいいので。メニューを作り始めた頃は、みんなが不安にならないように自分が結果で示すことを意識していました。メニューを出していて自分自身が弱いと説得力に欠けるので」

そして、茅野選手にとってのラストイヤーに全日本大学駅伝出場が決まりました。

「狙っていましたが、第一工科大学に勝てたのは驚きでした。多くの方に応援していただき、支えてもらっていることを再確認できました。学生たちでやることが多いので『恩返し』という気持ちで走りたいですね。学生主体のメリットは自主性が一番大きいです。嫌々走っている選手は1人もいないです。ジョグは自分で調整していますし、みんな自分で考えてやっているのでレースで大外れする選手は少ないですね」

陸上でお世話になった方に恩返しの走りをしたいと意気込みます!

チームを牽引し続けてきた茅野智裕選手(撮影・M高史)

主将・選手・マネージャーさんにもインタビュー!

練習に参加させていただいたあと、何人かの選手にもお話を伺いました!

鶴田寛武選手(3年、鹿児島中央)

「工学部で実験が多く、3年の前期は週2日ほど1日5時間くらいの実験があります。時間を作るのに苦労するところもありました。中学までサッカーをしていて、高校から陸上を始めました。今年の5月末から長距離のキャプテンをしています。全日本の九州地区選考会はチーム9番目で、貢献はできなかったですが、恩返しの気持ちも含めて全日本ではチームに貢献したいです。全国の舞台は初めてですし、いろんな人の支えの中、九州の代表として頑張っていきたいです。鹿児島大学の魅力は仲の良さですね。学年問わずみんなで和気藹々(わきあいあい)としています。やる時はやる、休む時は休むというチームです!」

今季、長距離主将を務める鶴田寛武選手(撮影・M高史)

田代敬之選手(4年、日向学院)

「中学から陸上部でしたが、中学・高校では中距離寄りで800mをメインにしていました。大学1年冬のタイミングで長距離にシフトしまして、今では誰よりも長く走る『距離踏みキャラ』と言われます(笑)。昨日も朝練で20km、本練で22kmほどジョグしました。1周約350mの芝生を何十周も行けます。中距離の時よりもうまく走れていますし、新しい競技を始めた感じが新鮮で楽しいですね。けがをせず距離は踏めるので、マラソンも走ってみたいです。全日本では地方大学なりの意地を見せたいです。もちろん甘くないですし、到底かなわないかもしれないですが、それでも一矢報いる走りをお届けしたいです。また、島原駅伝で優勝して出雲の切符を取って、かっこよく卒業したいです!」

藤本悠太郎選手(3年、宮崎西)

「小学校から陸上をしていました。高校では1500mと3000mSCを主にやっていて、3000mSCでインターハイに出場しました。また、小さい時から医者になりたくて、医学部に入りました。鹿児島大学の陸上部は強い先輩がいるのを知らず、大型ルーキーのつもりで入ってきたら、もっと速い先輩もいて同期も強くて驚きました(笑)。(全日本大学駅伝出場に関して)国立大学で選手を集めることもないですし、ここに集まったのも運命じゃないですけど、奇跡なのかなと思っています。しかも茅野さんのラストイヤーなので、喜びもひとしおです」

医学部との両立については「キャンパスが別で、毎日グラウンドに来られないのでジョグは別で行っています。自分でできることをやりつつ、ポイント練習は一緒に行っています。長距離の練習はそんなに時間をとらないので勉強は両立できています。全日本ではチームにいい流れを作りたいですね。他の国立大に勝ちたいです」

平野皓大選手(3年、筑前)

「高校から陸上を始めて高校では5000m16分台でした。鹿児島大学に進んだのは学力がちょうどよかったのと、一人暮らしがしたかったからです(笑)。今は(5000m)15分11秒です。陸上部の同級生が近くに住んでいるので一人暮らしも楽しいです。チームの魅力は、自分でコンディションに合わせてジョグを短くしたり長くしたり、自由なところですね。(全日本大学駅伝は)全国大会が初めてなので、声援もすごいのかなと楽しみです。鹿児島大学はいつも応援、ご支援いただいているので、少しでも感謝の気持ちを走りで表現できたらと思います」

水口渉選手(2年、岩国)

「高校から陸上を始めて、ほぼ1人で練習していました。鹿児島大学でみんなで高め合っていい雰囲気の中、練習できています。漁業の勉強や釣りが好きで、水産学部に入りました。乗船実習は1週間くらい船に乗ります。新鮮な魚を食べられます(笑)。今後の目標は、短期的な目標は全日本大学駅伝のメンバーに入ることで、長期的な目標としては出雲駅伝にも出たいので、島原駅伝で優勝することです」

梅橋拓也選手(2年、鳳凰)

「中学では野球部でしたが、持久走が得意で高校から陸上を始めました。高校では5000m14分42秒がベストで、1500mでは南九州大会に出場しました。大学では自分たちで考えて練習するので、ポイントに合わせて考えるようにしています。先輩たちが抜けたら主力としてチームを引っ張らないといけないですね。5000mでもまずは14分30秒台を出したいです」

清藤悠里選手(1年、鹿児島南)

「教育学部で高校の英語教員を目指しています。陸上は中学から始めて、中学の時は都道府県駅伝、ジュニアオリンピックにも出場しました。高校は九州大会止まりでしたが、大学で久しぶりに全国大会へ出場できます。高校時代は人数が少なくて、3学年で5、6人でしたが、大学は人数も多く、楽しくて面白いです。先輩にどれだけ勝てるかなと(笑)。普段は土のグラウンドですが、トラックでスパイクを履くことも楽しみです。ポイント練習の翌日に芝生でみんなでジョグするのも楽しいですよ! 目標は全日本を走ること、そして今後は先輩方に勝ちたいです。全日本では国立大学の意地を見せたいですし、他の国立大学に勝ちたいです」

マネージャー・脇園大貴さん(3年、川内)

「医学部保健学科で理学療法の勉強をしています。高校は陸上部で中距離をメインにしていましたが、けがが多くて、大学はマネージャーとして入部しました。たまに選手と一緒にジョグをしてきて、今年からまた走っています。やっぱり一緒に走らないとわからないすごさがありますね! マネージャー業はタイムを読んだり、給水ボトルを準備したりするほか、全日本出場が決まってからは取材対応もあります。1年生の時の島原駅伝くらいから全日本出場を目指してやってきて、悲願の出場です。みんなも意識していると思いますが、他の国立大学に勝ち、少しでも上に行けるようにしたいです。鹿児島大学は『自主性を大事に自分たちでやろう』というチームです。マネージャーとしてのやりがいは、選手が練習で苦しんでいるときを乗り越えて、結果を出す姿を見ることですね」

練習後の一コマ。自主性を重んじながら、雰囲気は和気藹々。魅力たっぷりのチームです!

鹿児島大の皆さんからは「陸上が好き!」という気持ちがとにかく伝わってきました。今年の全日本大学駅伝には鹿児島大学、名古屋大学、新潟大学と、すでに3校の国立大学が襷(たすき)をつなぐことが決まっています。全国の強豪校に挑むのは、確かに至難の業かもしれませんが、母校の襷にそれぞれの思いを込めて、悔いなく走りきってほしいですね! 現状打破!

M高史の陸上まるかじり

in Additionあわせて読みたい