陸上・駅伝

特集:第55回全日本大学駅伝

鹿児島大・茅野智裕 39大会ぶりの伊勢路につながった、本音を語り合う「意識改革」

39大会ぶりとなる全日本大学駅伝出場を決めた鹿児島大(撮影・吉本美奈子)

第55回全日本大学駅伝対校選手権大会 九州地区選考会

5月28日@福岡大学陸上競技場
1位 鹿児島大学   4時間15分41秒04 
----------ここまで本戦出場------------
2位 第一工科大学  4時間16分30秒82
3位 福岡大学    4時間20分16秒44
4位 日本文理大学  4時間20分35秒45
5位 鹿屋体育大学  4時間21分26秒88
6位 長崎国際大学  4時間26分00秒96
7位 九州大学    4時間38分07秒61
8位 長崎大学    4時間42分06秒67

5月28日に福岡大学で開催された第55回全日本大学駅伝の九州地区選考会で、鹿児島大学が39大会ぶりとなる本戦出場を決めた。かつて、九州地区に三つの出場枠があった1970~80年代は、福岡大学や九州産業大学と並んでよく出場していたが、近年は九州地区選考会にすら出場できていなかった。低迷していた国立大学が躍進した原動力は、茅野(かやの)智裕(大学院修士2年、鹿児島工業)が4年前から起こした「意識改革」だった。

物足りない練習の雰囲気に「陸上部をやめます」

鹿児島大に入学した茅野は陸上部に入ったものの、物足りない練習の雰囲気に「これでは強くなれない」と感じ、1年生の夏に「陸上部をやめます」と申し出た。休部という形をとってしばらく練習を離れた。

2年生になった春、部に戻っていた茅野は塗木淳夫監督から「長距離のブロック長をやらないか」と持ちかけられた。上級生がいるのにリーダーを務めるのは異例だったが、「やるからにはとことんやります」と引き受けた。

気になっていたのは「陸上に取り組む姿勢や意識がバラバラ」ということだった。そこで茅野は目標を共有して、本音で語り合うことを大事にした。「自己ベスト更新」という誰でも努力すれば手の届く目標を定めた。

国立大のため進学校出身の選手が多く、体の下地ができていない。強度の高い練習をしない日のジョグは、スピードをわざと1kmあたり4分から1kmあたり5分に落とし、その代わりに距離を伸ばした。

練習が休みの日や朝にも、自主的にグラウンドを走る選手の姿が徐々に増えるようになり、茅野が2年の冬のときに迎えた九州学生駅伝で5位に入賞。チームの力が少しずつついていくことが実感できた。

茅野(右から2番目)が促した意識改革の結果、少しずつチームの力が上がった(撮影・酒瀬川亮介)

全日本常連の第一工科大学に約50秒差

今年5月上旬の九州学生対校選手権(九州インカレ)。男子10000mで茅野が優勝、藤本悠太郎(3年、宮崎西)が2位とワンツーフィニッシュを飾った。男子5000mでも別府明稔(3年、川棚)が2位、茅野が3位、田代敬之(4年、日向学院)が5位に入り、3人が入賞。期待が高まり、九州地区選考会を迎えた。

選考会には8校が参加。各校8~10選手が3組に分かれ、10000mを走って上位8人の合計タイムを競った。1組を走った弓削佑太(大学院修士1年、鹿児島南)が、残り1周で猛烈なラストスパートを見せてトップでフィニッシュ。チームに勢いをつけると、最終3組でも走った4人全員が10位以内に食い込んだ。これまで26回出場し、九州地区からは全日本の常連校となっている第一工科大学に約50秒差をつけた。

力走する右端から別府、茅野、藤本ら鹿児島大の選手たち(撮影・吉本美奈子)

チームトップのタイムで走った別府は正式集計が発表される前、選考会通過がほぼ間違いないと知ると、競技場のスタンドで目を潤ませた。この選考会のテーマは「恩返し」だったという。来春の卒業を控え、今回が伊勢路へのラストチャンスになる茅野や田代への恩返しだ。「陸上への向き合い方が変わった。速くなる、勝つだけが目標じゃないと教わった」

「国立大で一番に」名古屋大の出場も刺激に?

選考会の閉会式が終わると、茅野はメンバーに胴上げされて宙を舞った。この日2番目のタイムを出し、医学部で学ぶ藤本は「人を引きつける人。ついていきやすい」と茅野を評する。

全日本での目標を聞くと、茅野は「最近の九州地区代表だった第一工科大や日本文理大のタイムを上回ること。そしてもし、他の地区で国立大が代表になったら、国立大で一番になること」。頑張れば達成できそうな、絶妙と言える目標設定だ。

鹿児島大のグラウンドで話を聞いた10日ほど後、東海地区選考会では国立の名古屋大学が本戦出場を決めた。鹿児島大のメンバーたちは、さらに練習に熱が入るに違いない。

閉会式が終わると、茅野は仲間に胴上げされた(撮影・西尾茂)

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