陸上・駅伝

特集:第55回全日本大学駅伝

岐阜大・小渕稜央、名古屋大の全日本大学駅伝決定をアシストした「陰の立役者」

岐阜大の小渕稜央(左)は、本戦出場を決めた名古屋大の森川陽之(中央)、河﨑憲祐(右)と喜びを分かち合った(すべて撮影・浅野有美)

第55回全日本大学駅伝対校選手権大会 東海地区選考会

6月24日@マルヤス岡崎龍北スタジアム(愛知)
1位 名古屋大学   4時間12分52秒62 
----------ここまで本戦出場------------
2位 皇學館大学   4時間14分21秒16
3位 愛知工業大学  4時間17分48秒27
4位 岐阜協立大学  4時間18分03秒33
5位 中京大学    4時間21分28秒40
6位 三重大学    4時間30分09秒86
7位 岐阜大学    4時間30分43秒93
8位 中部大学    4時間37分46秒95
9位 静岡大学    4時間39分13秒99
10位 南山大学    4時間40分31秒73
11位 愛知大学    4時間40分55秒03
12位 日本福祉大学  4時間46分30秒74
至学館大学、愛知教育大学、名城大学、名古屋工業大学は欠場者がいたため選考外

6月24日に行われた全日本大学駅伝東海地区選考会で、11大会ぶりの本戦出場を決めた名古屋大学。その快挙をアシストした「陰の立役者」がいた。最終組で先頭集団を引っ張り、自身初の29分台を出し全体1位でゴールした岐阜大学4年の小渕稜央(りょう、津)だ。「練習や試合で頑張った仲。自分事のようにうれしい」と満面の笑み。自身は東海学連選抜入りを目指し本戦での活躍を誓う。

名古屋大が11大会ぶり伊勢路へ 「地道な積み重ね」と「部のまとまり」が生んだ勝利

「自分事のようにうれしい」

東海地区の1枠を巡り、名古屋大と皇學館大学が激しいマッチレースを繰り広げた選考会。3組終了時点で1位の皇學館大と2位の名古屋大との差は0秒07。名古屋大の11年ぶり本戦出場は、最終組の河﨑憲祐(4年、大津緑洋)と森川陽之(院2年、近大東広島)にかかっていた。

そのレースを動かしていたのが小渕だった。スタート前に「ハイペースがいいね」と、他の選手たちと話していたといい、スタート直後から先頭に立った。序盤は森川と先頭を交代しながらレースを進め、後半は河﨑とともに前に出た。最後まで順調なペースで、29分51秒70の好タイムをたたき出し、全体1位でフィニッシュ。2位に入った河﨑を笑顔で迎えると、名古屋大の本戦決定の瞬間を一緒に待った。森川が組4位でゴールに飛び込むと拍手を送り、3人で抱き合って快挙を喜んだ。

名古屋大の選手とは普段から大会で顔を合わせることが多く、合同練習を行ったこともある。昨年の全日本大学駅伝東海学連選抜で一緒のチームだった河﨑や森川は、切磋琢磨(せっさたくま)してきた大事な仲間だ。「練習とか試合とかで頑張った仲なので、しっかりついてきてくれて、最後(本戦出場を)決めてきた。自分事のようにうれしい」と小渕は満面の笑みだった。河﨑も「小渕くんが引っ張ってくれて、それをうまく利用できた」と感謝した。

2位に入った河﨑を笑顔で迎えた小渕(左)

岐阜大にとっても結果を残した大会だった。毎年参加人数がそろわず、選考会参加は5年ぶり。出場できても最下位が多かったが、今回は全16チーム中7位と健闘した。今年がラストイヤーとなる小渕自身も初の29分台を出すことができ、「これからにつながるレースだった」と振り返った。

中学までサッカー少年、陸上は高校から始めた

小渕は幼稚園から中学校までサッカーに打ち込んだ。陸上を始めたのは津高校時代。先輩から勧誘されて入部を決め、初心者が多かった長距離を選んだ。

入学当初は1500m4分49秒、5000m17分43秒だったが、すぐに頭角を現した。ぐんぐんとタイムを縮め、高校3年時は三重県高校総体(インターハイ三重県予選会)に出場し、5000mは15分32秒23で8位と健闘。1500mは4分03秒63で6位に入り、東海高校総体にも進出した。

「高校でめっちゃタイムが伸びたんで、大学でも続けたいなと思いました。それと、初めて出た県外の試合でぼろ負けして、大学でリベンジしたいなと思いました」。運動生理学を学べる研究室がある岐阜大教育学部に進学した。

高校時代に陸上を始め、急成長した

名大生と運動生理学の話題で盛り上がる

岐阜大の陸上部は約50人。長距離は10人強で、小渕が主将を務めている。

監督は長距離専門ではないため、部員たちで考えて練習メニューを組んでいる。大会などでは他大学の監督やコーチらから気にかけてもらえるという。フォームを見てもらったり、トレーニングのアドバイスをもらったり。また、競技に関する知識は運動生理学の研究室にある専門書を読んで補っている。

高校時代の先輩である今岡佑斗(院1年)や同郷の小川海里(3年、津西)が名古屋大にいた縁もあり、合同で練習や合宿をする機会に恵まれた。普段の練習メニューも共有しており、相談に乗ってもらっている。

「名大生は時間の使い方がうまい。夜10時の涼しい時間帯に集中して練習したり、場所もグラウンドだけじゃなく、研究室を出発してジョギングし、また研究室に戻るといった隙間時間で練習している。名大生がこんな時間に練習しているんだから自分も頑張ろうと思えます」

試合への姿勢や練習環境にも共通点が多い。「名大生は地道な練習を積み上げています。僕も無理な練習はせず、8割とかにとどめて継続して練習するようにしています。国立大学同士、私立大学と比べると厳しい環境なのも共感できるところがあります」。博学な選手もおり、運動生理学の話題で盛り上がることもある。

最終組の先頭でレースを引っ張る小渕(右端)

日本インカレで入賞目指す

小渕は入学当初こそ東海地方で中堅の選手だったが、学年が上がるにつれ、全国レベルの選手に成長した。種目も1500mから5000m、10000mと徐々に距離を延ばしていった。

大学2年時には東海インカレの1500mと5000mで4位入賞。日本インカレ1500mは小渕にとって初めての全国大会のレースで、「雰囲気も違い、選手も強くて、すべてが新鮮だった」と、特に印象に残っている。

大学3年時は、東海インカレで1500m2位、5000m優勝。今年は4月の学生個人1500mで7位入賞を果たし、5月の東海インカレでも活躍。10000mは森川に敗れて2位だったが、5000mは制した。6月の日体大長距離競技会5000mで自己ベストの14分06秒07を出すと、直後に岐阜市であった西日本インカレ5000m、10000mで2冠を達成。今まさに伸び盛りだ。

9月に控える日本インカレに向けては、「昨年は出るだけだったが、今年はしっかり入賞に食い込んでいけるようにしたい」ときっぱり。卒業までに5000m13分台、10000m28分台を出すことも目標にしている。「どこからでも全国大会で勝負できるってことを残り半年間で示したい」と意気込む。

自身初の29分台を出し、全体1位でフィニッシュした

昨年の全日本は地元の津市で雄姿

小渕は、学業と競技の両立だけでなく、塾講師やスポーツ用品店などアルバイトを掛け持ちし、多忙な毎日を過ごしてきた。所属の学校教育教員養成課程保健体育講座では小中の教員免許取得が卒業要件で、小渕も小中高の教員免許を取得予定。特に3年時は教育実習が小学校と中学校で4週間ずつあり、日本インカレや全日本大学駅伝とかぶっていたため、調整に苦労した。

「実習期間中は大変でしたね。平日は岐阜市内の小中学校に通い、土曜に三重へ移動、日曜の全日本大学本戦(東海学連選抜6区)に出場しました」

コロナ禍の一昨年は、大学の方針もあって東海学連選抜での全日本出場がかなわなかった。その分、昨年は大会にかける思いが強かった。地元の津市を走る6区にエントリーされ、大会当日は親や地元の友人たちが応援に駆けつけてくれた。しかも高校時代の陸上部顧問が審判を担当していたという。「陸上を始めたころから6区を走りたいと思っていたし、大学入学時の目標でもありました。走れて本当にうれしかったし、最初から最後まで楽しかったです」

今年も東海学連選抜に選ばれる可能性がある。チームは違えど、名古屋大とともに東海勢として上位に食らいつくつもりだ。「6区は昨年満喫したので、今年は1区や2区で関東勢と競いたいです」と、力強く語った。

名古屋大が11大会ぶり伊勢路へ 「地道な積み重ね」と「部のまとまり」が生んだ勝利

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