陸上・駅伝

連載:M高史の陸上まるかじり

4年間ずっと日大主務 NTT西日本・野中コーチ

野中さん(左)とは学生時代から10年以上も交流が続く仲間です
マネージャーも頑張るぞ! 春先の選抜合宿

私、M高史と同じく現役時代はマネージャーで、その後も深く駅伝に携わっている方を紹介するシリーズの第2弾です。元駒大副務の駒大高校・渡邉聡先生に続き、今回は日本大学で4年間ずっと駅伝主務を務めた伝説のマネージャー、野中章弘さんです。現在はNTT西日本陸上競技部のコーチとして活躍されています。

1年生の8月から、まさかの主務に

野中さんが陸上を始めたのは小学生のとき、友だちに誘われて出たマラソン大会がきっかけでした。中学時代は長距離に打ち込み、大阪の強豪・清風高校へ。「ぜんぜん強くなかったですよ。5000mは15分15秒ぐらいでしたかね。都大路は補欠どまりでした。同級生には松村康平(現・MHPS)や中距離の口野武史(のちに800mで日本選手権優勝)がいました」と野中さん。

野中さんは中学から陸上を始めました

高校時代に目立った実績は残せなかったそうですが、箱根駅伝を志して日大へ進学。陸上部に入り、選手としてスタート!!  と思いきや、マネージャーとしてのスタートとなりました。さらに1年生の8月から主務を任されたのです。「え!! 日大、1年生が主務!? 」。当時、駒大3年で主務だった私も衝撃を受けました。

主務はだいたい4年生がやるものです。たまに3年生から2年連続という人もいます。それを入部して間もない1年生が担い、さらに4年間やりきるには相当な精神力、気力、体力が必要です。「やるしかない」。野中さんはそう思って、前だけを見ていたそうです。

当時、日大のチームを指導されていたのは小川聡監督。野中さんは小川監督を「義理人情に厚い方です」と表現します。駅伝シーズンになると、小川監督が記者から「1年目から駅伝主務ってすごいですよね?」と質問されることもありました。その記者に監督は「駅伝主務ですから、学年なんて関係ないです。主務としての仕事をきっちりしてもらいます」と対応されたそうです。それを聞いた野中さんは「1年だからとか、学年を言いわけにしない」と、心に決めました。初めはうまくいかないこともありましたが、「失敗を糧にして、次に向かって成長するのが大事」と自分に言い聞かせ、主務として自分に任せられた役割をまっとうすることに全力を注ぎました。

箱根駅伝では裏方中の裏方

野中さんが在学していた4年間のうち、1年目の全日本大学駅伝と4年目の出雲駅伝で日大は優勝を果たします。とくに4年生の出雲では最終6区でギタウ・ダニエルが快走しての逆転優勝。「優勝できると思ってなくて、フィニッシュのときは輸送バスの中でした」と、野中さんは笑って振り返ります。余談ですが、逆転されたのは駒大でした(汗)。

日大時代の野中さん(右)。隣はギタウ・ダニエル

箱根駅伝の当日は運営管理車に乗るのではなく、寮に待機して情報収集やスタッフや部員への連絡にあたるという、裏方に徹した4年間だったそうです。「いまはLINEもあって連絡が格段に早くなりましたし、データもすぐに入ってくるので便利になりましたよね」と野中さん。

そんな野中さんは今年初めて、箱根駅伝を沿道で応援したそうです。「卒業してからも何回か母校のサポートにうかがってますけど、中継所の付き添いなんかに回ってました。沿道での応援は純粋に面白かったですね。『沿道ってこんな雰囲気なんだ!!』と驚きました」。それと同時に早く経験しておけば、選手をサポートするために、また応援に出るチームメイトのために、なにかできたことがあったんじゃないかとも考えたそうです。

ホテルマンをしながら甲南大でコーチ

卒業後はホテルに就職し、ホテルマンとして3年間勤務されました。「勤務形態はキツかったですけど、学ぶことが多かったです。お客さまと接するときもそうですし、料理や飲食の知識などを学べました。お客様満足を上げるのも選手満足を上げるのもそう変わりないですし、チームで連携しながら顧客満足を得るという点も同様なのかな、と感じてます」

そんなときに知人から、甲南大学が長距離コーチを探しているとの連絡を受け、野中さんはボランティアで手伝うことになりました。ホテルで働きながら、休日や夜勤明けに練習に付き合うという生活が続きました。まずは大学生の練習メニューを組み、それから仕事の休み希望を出していました。野中さんの頑張りも実り、甲南大は関西学生駅伝へ3年ぶりの出場を果たしました。下馬評をひっくり返しての3位通過に、OBからも喜びの声が届いたそうです。

その後、清風高校時代の恩師である宮本志郎先生が関西学院大学の監督に就任することになり、宮本先生から野中さんにコーチ就任の打診がありました。「もう陸上やらない」と思っていた野中さんでしたが、甲南大学での経験で「やっぱり陸上って楽しい」と改めて思ったそうです。

関西学院大学コーチ時代の野中さん(左)。改めて陸上の楽しさをかみしめました

ホテルを退職し、関学の契約職員として働きながら、長距離のコーチとして指導にあたる日々。さらに教員免許(中・高の保健体育)も取得しました。4年間コーチを務めたあと、現在のNTT西日本陸上部へ。コーチは今年で4年目になります。

NTT西日本はマラソンで活躍した清水康次監督が指導されています。竹ノ内佳樹選手がMGC(マラソングランドチャンピオンシップ)出場権を獲得し、チーム全体が高いモチベーションの中でトレーニングできています。「選手とのコミュニケーションを大事にしてます。選手のモチベーションアップにつながるやりとりができるよう、心がけていきたいです」と野中さん。笑顔で語られる姿が印象的でした。

野中さんはコーチとしてみんなで成長できるチームを作り、まずはニューイヤー駅伝の入賞、さらに日本代表選手を出すことを目指しています。「やるからには上を目指したいですし、常に上を目指し続けたいです」。伝説のマネージャー、野中さんの挑戦は続きます。

恒例の駅伝報告会、MGCに挑む駒大OBを激励

M高史の陸上まるかじり

in Additionあわせて読みたい