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特集:第79回甲子園ボウル

恐れず戦った法政大が関西学院大を接戦・延長の末破り、「甲子園ボウル7連覇」を阻止

力を出し尽くして挑んだ法政は関学と互角以上に渡り合った(すべて撮影・石本登志男)

アメリカンフットボールの「甲子園ボウル」の前回対戦カードが、今年は準決勝で、しかも関東の舞台で実現した。法政大学(関東1位)と関西学院大学(関西2位)の対戦が11月30日、スピアーズえどりくフィールド(東京都江戸川区)であり、延長タイブレークの末、法政が関学に勝利した。法政ディフェンスは関学オフェンスに20yd以上のロングゲインを一度も許さない粘りを見せた。法政は2年連続20度目の甲子園ボウル出場となる。甲子園ボウル7連覇を目指した関学は準決勝で姿を消した。

法政「去年は準備不足。今年は繰り返さない」

関東、関西の両リーグからの選手権出場校が1から3に増え、決勝以外でも関東勢と関西勢の対決が生まれた新トーナメント。過去の甲子園ボウルでは2021年と昨年に両校が対戦し、それぞれ40点差をつけて関学が圧勝していた。昨年の甲子園ボウルにも出場していた法政のDL山田晋義主将(4年、日大鶴ケ丘)は「去年の甲子園は自分たちの準備不足がはっきり出たので、あんなことは二度とないようにとやってきました」。関学のLB永井励主将(4年、関西大倉)は「僕らは、本気で日本一を目指してやってきました。それを試合で表現できれば、自ずと結果につながると思います」と話していた。

緊張感あふれる幕開け 序盤からロースコア

両校の攻撃ファーストプレーには独特の緊張感が見られた。関学はQB星野太吾(1年、足立学園)がプレーアクションパスを試みた際に味方と接触して落球。法政はスナップミスで大きく後退。序盤の2シリーズはそれぞれパントで終わった。関学はQB星野のパスに頼りすぎず、ホールを見つけて走るRB伊丹翔栄(4年、追手門学院)のキャリーを多めにした。勝負の場面で交代したQB林孝亮(4年、関西学院)が得意のランプレーで前進した。ただ、法政は短い前進は許すも、ビッグプレーでボールを取り返す。QB星野に法政DL山田ら4人がパスラッシュをかけ、無理な態勢で投げられたパスをLB高橋和音(4年、海陽学園)がインターセプトした。ただ、次の法政の攻撃では関学がDL田中志門(1年、追手門学院)のインターセプトで攻撃権をすぐさま取り返した。

関学はタックルをうまくかわしてボールを前に運んだ

敵陣からの攻撃となった関学はQB柴原颯斗(4年、啓明学院)がミドルゾーンに走り込むWR五十嵐太郎(3年、関西学院)にパスを通して第1ダウンを獲得。QB林との併用で小刻みに前進したが、法政ディフェンス陣は第1線を破られてもすぐに集まる守備を見せ、ロングゲインを許さなかった。関学はK楯直大(4年、鎌倉)の31ydフィールドゴールで先制した。

法政は準備してきたプレーを随所で見せた。次の攻撃シリーズで自陣22ydから始まった第1ダウンで、エースWR高津佐隼世(3年、佼成学園)への右スクリーンパスで17yd前進。さらにRB中川達也(3年、明治学院)が中央突破のランで、この試合最長の20ydを稼いだ。敵陣35ydの第4ダウン4ydで法政はギャンブルを選択。TE矢作一颯(2年、足立学園)はパスキャッチ後にタックルをかわし、セカンドエフォートで23yd進んだ。敵陣4ydまで攻め込み、K高城颯真(3年、法政二)が22ydフィールドゴールを決めて同点とした。

準備では関学も負けていない。次の攻撃でQB星野は持ち前の広い視野でショートパスをWR五十嵐、WR小段天響(2年、大産大附)に投げ分け、RB伊丹とパワー系RB澤井尋(4年、関西学院)のランも効果的だった。QB星野はWR坂口翼(4年、関西学院)がエンドゾーンでマークがはがれたところにパスを通し、最初のタッチダウンとなった。

昨年は圧勝の関学、今年は反則連発で苦戦

昨年の甲子園ボウルでは関学が前半からタッチダウンを量産し、第2Q途中で33-0と法政を大きく突き放す展開だった。この試合でも次の得点をどちらが取るかによって同じような流れになる可能性もあった。ただ、法政は前半のうちに追いつくことができた。次の法政の攻撃シリーズでWR高津佐への26ydパスが決まり敵陣に進むと、敵陣29ydのプレーでもWR高津佐が右サイドのエンドゾーンぎりぎりでパスキャッチしてタッチダウン。この攻撃シリーズで法政は、バックパスを受けたWR阿部賢利(2年、法政二)がWR宮崎航也(4年、千葉日大一)に13ydのパスを通すというトリックプレーも決めた。前半は10-10の同点で終えた。

関学はショートパスを受けた後も守備陣の合間を縫って前進した

関学は反則罰退で攻撃を難しくするシーンが増えていった。後半最初の攻撃シリーズでは冒頭のパーソナルファウルで第1ダウン25ydの攻撃となった。RB伊丹のランを法政DL川出奨悟(4年、駒場学園)がタックルで止めた。QB星野のパスでも挽回(ばんかい)できずに第4ダウンに。このパントで法政がファンブルし関学は敵陣40ydから再び攻撃権を得たがRB伊丹の連続のランはDL山田、LB須藤晟也(4年、法政二)がタックルで止めた。結局、この攻撃はパントで終わった。QB星野に無理なパスを投げさせられず、ランプレーでも突き抜けられないという窮屈さが見られた。次の攻撃シリーズでもラン中心の攻めを見せるもフォルススタートやホールディングの反則が響いてパントとなった。

パスが不調ならランで 試合巧者・関学が延長へ

後半開始早々、法政がディープゾーンのWR須加泰成(3年、足立学園)を狙ったパスは、関学DB加藤圭裕(3年、國學院久我山)がレシーバーの前に入り込んでインターセプトした。

10ydを超えるプレーをなかなか出せなかった中で、第3Qから第4Qにかけての法政の攻撃では、RB廣瀬太洋(4年、駒場学園)、RB中川達也(3年、明治学院)の5yd前後のランで着実に前進。第3Q終了間際にRB中川への左サイドの22ydスイングパスが決まり、敵陣11ydまで進んだ。レッドゾーンオフェンスで、ピッチを受けたRB廣瀬が左サイドを駆け上がって9ydを獲得。ゴールまで残り2ydから、RB小松桜河(3年、日大三)がスクリーンパスを受け、エンドゾーンに飛び込んでタッチダウン成功となった。この試合で初めて法政が17-10とリードした。

第4Qのタッチダウンで法政は初めてリードを奪った

関学は大事な場面でロングパスを決めることで試合の流れを自分たちに引き寄せてきたが、この試合ではロングパスが決まらなかった。試合に出場した3人のQBの中では、星野が何度かロングパスを狙ったが、プレッシャーがかかる中で正確なパスを投げることができていなかった。法政はQBが星野に代わるとラッシュでプレッシャーをかけ続け、LB須藤はQBサックを決めた。関学は時折ショートパスで前進するが、攻撃の主軸はランに頼らざるを得なかった。第4Q中盤、敵陣8ydからの第3ダウン、第4ダウンの攻撃で、法政パスラッシュのプレッシャーを受けたQB星野のパスはどちらも精彩を欠いた。

関学は第4Q残り4分を切ったところで、敵陣48ydで再び攻撃権を得た。最初のパスは法政DB南雲昇太(4年、法政二)がディフレクトで防いだが、RB伊丹がホールを見つけて第1ダウンを獲得。ミドルゾーンのパスでは、QB星野とWR立花俊輝(箕面自由学園)の1年生ホットラインで18yd獲得した。そしてRB伊丹へのダイレクトスナップで4ydラン、RB澤井の4ydタッチダウンランが決まり、関学が17-17と追いついた。法政の攻撃は無得点に終わり、同点で第4Q終了となった。

タイブレークで「うおお、まじか!」

甲子園ボウルであれば、ルール上、同点の場合は両校優勝となるが、準決勝では勝者が決まるまでタイブレークの延長戦が行われる。敵陣25ydから互いに1度ずつ攻撃し、得点が多い方が勝利となり、同点であれば再び1度ずつ攻撃する、というルールだ。コイントスの結果、法政が先攻、関学が後攻となった。

先攻の法政はショットガン隊形からRB廣瀬が中央突破のランで8yd獲得。次のWR高津佐のスクリーンパスでさらに8yd進んだ。ここからはラン、パスで前進できなかったが、K高城が26ydフィールドゴールを決めた。

後攻の関学はRB伊丹の走力で確実性を狙った。第4ダウンで法政の反則もあり、伊丹は6回のランで敵陣6ydまで進んだ。第4ダウン、関学がフィールドゴールの隊形で構えると、法政スタンドからこの日一番のクラウドノイズが飛んだ。スナップ、ホールド、そしてキック。ボールは無情にも左側にそれ、審判がフィールドゴール不成功のシグナルをすると、勝利を確信した法政チームエリアから選手たちがフィールドに駆け出し、スタンドも大歓声となった。守備側にいた法政の山田主将は「自分たちに自信を持って取り組んでやってきた結果。でも、やべーまじで! うおーまじか! 信じられない」と感激しきりだった。

法政の勝利の瞬間、選手や観客が歓喜に包まれた

法政大・山田晋義主将の話

「関西学院大学さんに去年あれだけ大差つけられて、正直自分たちもすごく気合が入っていましたし、ほんとに準備してきたんで、そういったものが勝利っていうものに結び付いて、率直にうれしい気持ちでいっぱいです。関学さんは不動の王者っていうか、隙がなくて、本当に強いチームっていうのは重々承知していましたし、王者のフットボールをされているなという印象で、この試合は激しいプレーというよりかは、しっかり自分の役割を徹底的に守ろうねって声をかけました。じゃないと絶対そこ必ず突かれるんで。なので、自分の役割に徹して、結構独特なディフェンスを今日していたんですけど、そういったものが相手オフェンスを止めていくのにつながって良かったなって思っています。ヒヤヒヤする場面でも、結構冷静にできていたと思います。今年は『No fear, No limits』って掲げていて、限界なく、恐れなく行こうよっていうことで、じゃあ全員でリスクもあるけど、全員で頑張ろうよって話をしていました。みんなの挑戦のところとか、その土台のところが生きてきたんだろうなと思います。甲子園ボウルでは、やっぱり良いプレーを見せ続けていかないと。雰囲気やノリだけでは絶対通用しないので。1プレーずつ、しっかり見せていって、それでどんどん時間が経って、点差がついて、こっちのムードになってくる、という感じになれば一番かなと思います」

法政大・山田主将は自分の役割を徹底的に守り抜けたと胸を張る

法政大・矢澤正治監督の話

「今日はロングゲインでやられなかったことがめちゃくちゃ大きかったと思います。多少出されても我慢することができたかと。ミスや反則で、切れてもおかしくない場面はいくつかあったと思うが、そこで切れなかったのは、集中力を高くやれたからかなと思います。ディフェンスは今シーズンで一番でした。特にキープレーを挙げるとしたらフォースダウンギャンブルを止めたプレーだと思います。タイブレークは十分に想定して練習してきました。トライアンドエラーを積んで、当然その日の流れもあると思うので、そのパターンの中でどうなったらとか、毎日そのようにしっかりと準備していました。どのチームも、関西学院大学さんに追い付け追い越せでやっていると思うんですけど、去年までは甲子園ボウルでしかチャレンジが出来なくて、アウェーでもありますし、すごく難しかったんですよ。そして今日はホームアドバンテージもあったから接戦に持ち込めたと思います。決勝の舞台で大事なのは結局、プレースピードだと思っています。とにかく目の前のプレーに集中して、スタートとフィニッシュをちゃんと徹底するっていうことしかできません。最後の笛が鳴るまで、展開に関係なく、最後まではつらつとしたプレーをお見せしたいと思います」

関学の選手たちは試合後、悔しさをにじませた

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