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特集:第79回甲子園ボウル

法政大学RB廣瀬太洋 謙虚さと真逆の図太い走りは甲子園ボウルでも火を吹くか

法政のエースRB廣瀬は、確信に満ちた走りでスクリメージラインを突進する(すべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの学生日本一を決める甲子園ボウルは、2008年以来16年ぶりに法政大学(関東TOP8優勝)と、立命館大学(関西学生1部優勝)の組み合わせになった。法政大は、準決勝で甲子園ボウルを6連覇中だった関西学院大学を延長タイブレークの末に撃破し、弾みをつけている。ともにランニングゲームに強みを発揮してきた両チームにあって、法政大のエースRBを務めるのが廣瀬太洋(4年、駒場学園)だ。廣瀬はエースとして独り立ちした今年、リーグ戦での活躍に加え、関学大戦でもゲームMVPに輝く活躍を見せた。甲子園ボウルに向け、「法政のOLを日本一にする」と意気込む。

大敗が続いていた関学に雪辱「本当にうれしい」

関東の地、スピアーズえどりくフィールドで関西学院大と対戦した準決勝は、激闘の末に法政大が制した。近年、甲子園ボウルの舞台で大敗が続いた相手への勝利は、法政大にとって大きな悲願。無論、廣瀬にとっても特別な意味を持つ。廣瀬は大学1年時と3年時に甲子園ボウルの舞台に立ったが、どちらも圧倒的な敗北を味わってきた。

「1年生のときはキックカバーで試合に出て、関学の強さを目の当たりにしました。3年生のときはRBとして出してもらいましたが、やはり大敗してしまい、ふがいなさだけが残りました。今回、関学に勝てたことは本当にうれしいです」

これまで2度の甲子園ボウルでは、ふがいなさだけが残った

率直な気持ちを振り返る。この勝ちを喜ぶ一方、試合を通して感じたのは、法政大と関学大の雰囲気の違いだったという。

「今日の関学は、いつもと違って試合前のアップの時から覇気を感じませんでした。あと、初めてこっちで関学と戦うんですが、ホーム感が強すぎて。応援もすごく心強かったですね。いざ試合してみても『あれ?』っていう感じで、去年とは全然違う印象でしたね」

攻守ともに攻めの姿勢を徹底して、先手で試合の流れを握り続けることができた。ミスもあったが、チーム全体が自信を持ちながら戦うことができた。

自分のプレーは「OLのブロックのおかげ」

一方で、関学大のタックルは強烈だったという。「タックルの強さに関していうと、去年の甲子園よりも明らかに強く感じました。去年は、見て、見て、しっかりタックルしてくるという感じで、痛さはなかったんです。でも今年は狙い撃ちされるような鋭さがありました」

厳しいマークを受けながらも、強い意志で走る姿が印象的だった。「僕はオープンよりも、BOX内でのインファイトの方が得意なので、狭いスペースで敵を動かしながら走るのが好きなんです」。仲間のOLのブロックと、自らのステップを巧みに操りながら力強くゲインを重ねた。「OLのおかげで自分のプレーも良くなる」と語る廣瀬は、個人技ではなくチームプレーを大事にしている。意識しているのは、「自分の役割を徹底することに集中する」走りだという。4年目の今年、走りは力強さを増している。

エンドゾーンをめがけ、全幅の信頼を寄せるOLの背中の間を最速かつ最短距離で走り抜ける

関学に勝った一方で、本人は満足からは遠い様子だった。「全然ダメだったなというのが感想で、MVPをいただけたのはありがたいことですが、すごい違和感です(苦笑)。今日はディフェンスがめっちゃ止めてくれてたんで、『(ディフェンスの)誰かが取るのかな?』と思ってました」。結果に喜びつつも、自らのプレーには満足しない姿勢が、彼の向上心を物語っている。

「関東の大学で関西を倒したい」と法政へ

廣瀬のアメフトのキャリアは小学2年生から始まった。いとこの誘いで「世田谷トルネード」の練習の見学に行き、自然な流れでチームに参加することになった。「あのときはフットボールが楽しくて仕方なかったです」。父の修久(のぶひさ)さんが日体大アメフト部のOBで、中学生チームのブルーサンダースでコーチしていたため、家でも自然とアメフトの話題が挙がっていたという。

高校は、父と同じ駒場学園に進学。その頃、早くから法政に憧れがあったという。「関西に行くっていう考えはまずなくて、関東の大学で関西を倒したかったんです。そうするとやっぱ法政かなって。ずっとカッコいいなと思っていました」。そして高校2年の冬、地区選抜の対抗戦に出場した際に法政大から声がかかり、進学を決めた。3年生の秋には、高校王者の佼成学園を相手に28-35と激闘を演じたが、一歩及ばなかった。

この秋はマークがキツい中でもタフに走り抜けてきた

試合中に光る冷静さ 父の教えの賜物

高校時代、廣瀬はすでにRBとして頭角を現していたが、大学進学後もRBとしての技術を磨き続けてきた。「1年生の頃はキックカバーがほとんどで、2年になってからRBで出られるようになりました」。去年は1学年上の新井優太、岩田翔太郎とスターター争いをした。

「3年の秋ごろにRBとしての役割を理解し、試合でそれをどう体現するかを徹底して考えるようになったんです。それが今につながってると思います」。RBの哲学を極めた廣瀬は、最終学年の今年、4年生として責任を持ってフィールドに立つようになった。

一方で、「今日も、中川(達也、3年、明治学院)がいい走りをしてくれて助けられました。僕は『形式上の周りが作り上げたエース』って感じで、まだまだ役割は果たせていないかなと感じています」と苦笑い。おごらず、愛嬌(あいきょう)があり、物腰も柔らかい。質実剛健な走りとは対照的なキャラクターだ。

レギュラーで試合に出るようになってからRBの哲学を追求した

廣瀬のプレーぶりには冷静さが光る。走りを見ていると、常に精神状態が安定していて、局面でミスもしない。どんな相手に対しても、コンスタントに距離を稼ぎ出す安定感は出色だ。試合の流れに左右されない心の強さは、幼少期からの教育の賜物(たまもの)だという。「もともとモメンタムを持たないように教えられてきたので、試合中に気分が上下しないのが癖になっています。苦しい展開のときには『誰かがやってくれる』と他責になるのではなく、自分で打開しなければならないと考えるようには意識しています」

RBとしての理想は、3学年上の星野凌太朗(現・東京ガスクリエイターズ)だ。「1人で試合を変えられる、絶対的なエースを同じチーム内で見ることができました。本来あるべきRBの姿を学ばせてもらったと思っています。ただ、星野さんの走りは理屈じゃないので、上手すぎて速すぎて。良い意味で参考にはなりませんでしたが……(笑)」

尊敬する先輩星野は個人でブレークできる選手だった。廣瀬はOLと一体の走りを目指す

「立命とはOL勝負 法政のOLを日本一に」

宿敵の関学大を破り、ラストイヤーも残すは甲子園ボウルのみとなった。最後の舞台で対戦する立命館大もまた宿敵関学を破って関西リーグを勝ち上がってきた。廣瀬はどんな思いでこの試合に臨むのか。

「正直、立命館に対する思いは特にないんです。自分の役割を徹底し、チームの勝利に貢献することだけが目標です。でも、OL勝負と言われていますし、相手のRB陣も豪華というところで……。法政のOLを日本一にするべく、負けじと食らいつきたいたいと思います」

甲子園でも、謙虚な語り口とは真逆の図太い走りが火を吹くだろう。試合後、廣瀬は笑っているだろうか。

廣瀬は法政のOLを日本一にできるか。謙虚な物言いとは対極の図太い走りに期待したい

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