アメフト

法政大学・谷口雄仁 けがを乗り越えて“勝つQB”に 3度目の甲子園で集大成めざす

『アイシールド21』に憧れてアメフトをはじめた少年は、大学4年生になった。勝つために甲子園ボウルを目指す(すべて撮影・北川直樹)

アメリカンフットボールの関東学生TOP8は、10月27日の第6節で法政大学が明治大学に38-26で勝った。法政は最終節を残して優勝を決め、関東1位として全日本トーナメントに出場する。最上級生として法政のエースQBを務める谷口雄仁(たけひと、4年、法政二)は、1年、3年時に甲子園ボウルの舞台でプレーしている。しかし、昨年は試合終盤に負傷退場を強いられ、チームも関西学院大学に完敗した。谷口は、悔しさを晴らすために、この舞台に進むことを切望している。

最終節を残してTOP8優勝 レーティングはダントツ

明治戦で先発した谷口は、いつものように積極的にパスを投げ込んだ。パスは24回投げて18回通し、278yd1TDを稼いだ。2本のインターセプトを喫したのは反省点だが、この試合を含めて131回試投90回成功11TD(4INT)と、パッシングレーティングは170.8で大きく引き離して首位だ。

前節の早稲田大学戦で勝ち、この日明治大学にも勝ったことで、最終節の立教大学戦を残してリーグ優勝が決まった。谷口は言う。

「1年生と3年生のときに甲子園ボウルに出させてもらって、当時は甲子園ボウルに出ることが目標だったんです。でも今は甲子園ボウルで勝つことを明確に目標に掲げているので、この優勝で喜んでいるわけではなく、あくまで通過点という認識です」

この試合では、「自分のパフォーマンスが優れずに、チーム全体もうまく回らなかった部分がありました。的確にボールを回してしっかりゲインしていく必要があるので、もう一回しっかり見つめ直していきたいです」と振り返る谷口。

試合後は仲間に対し「今日の結果に満足するな、優勝がきまっていても関東王者のプライドを持って練習も試合もやりきろう」と厳しい声も掛けていた。

明治に勝ってTOP8優勝を決めたが、さらに上を目指すからこそ仲間には厳しい声を掛けた

けがで日本代表辞退 支えてくれた人たちへ感謝

谷口は昨年、甲子園ボウルの第4クオーターにけがをした。競技復帰に約半年を要する重傷で、3月にあった「DREAM JAPAN BOWL 2024」の日本代表候補に選ばれていたが辞退することに。谷口にとって日本代表でプレーすることはずっと夢だったので、辞退はとてもつらかった。

フットボールのことを考えるのもしんどかったので、あまり考えずにリハビリのプロセスに集中した。年明けの忙しい時期だったにもかかわらず、ドクターやスタッフがリハビリに協力してくれたことが心にとてもしみた。

「チームの皆も顔を見れば『待ってるから』と声を掛けてくれて。保護者やファンの方からも温かい声をたくさんいただいて励みになりました」

谷口は、今フィールドに立てることへの感謝を心から感じているという。だからこそ、自分らしいプレーを体現し、その思いを返していきたいと思っている。

昨年の甲子園ボウルは関学相手に完全にのみ込まれてしまった

『アイシールド』にハマり小2で開始 当時から法政に憧れ

漫画『アイシールド21』にハマったことがきっかけで、小学2年生のときにNPO法人「フラッグフットボール・マネジメント・ジャパン」でフラッグフットボールをはじめた。ここでは、桜美林大学のエースQB近田力(4年、佼成学園)とチームメートで、一緒にQBをプレーしていた。「近田はちっちゃいときからうまかったので、僕がずっと教えてもらっていました」。谷口は当時の思い出を話す。

桜美林大と早稲田大で双子が分かれ対戦 兄の近田力はエースQB、妹の南歩は映像制作

法政第二中学に入ると、法政のジュニアチーム「ジュニアトマホークス(現・川崎ORANGE)」に2年間所属し、3年時にNPO法人相模原ライズ・アスリート・クラブが運営する「川崎グリーンライズ相模原」に移籍してタッチフットをプレーした。ここで、中学の日本一も経験した。

「フラッグを始めた頃、法政が甲子園ボウルに出ているのを見ていて、近藤濯(あろう、15年卒、現・成蹊大学OC)さんのプレーを見ていました。そのときから法政がカッコいいな、いつかここでプレーしたいなって思っていました」

法政トマホークス(2017年からORANGEに変更)のQBの中でも、谷口にとっての一番のアイドルは菅原俊(08年卒、現・法政大QBコーチ)さんだという。「菅原さんのプレーをずっと見ていて、“勝つQB”のオーラ、堂々としたプレースタイルがカッコよかったですね」。3年前に菅原さんが法政のコーチに就任すると聞いた時は「とにかくうれしすぎて。最初Zoomで話したんですが『ホンモノだ!』って思いながら話していました」。当時の気持ちを谷口が振り返る。

法政大学最後の日本一、エースQB菅原俊さんから甲子園を知らない後輩たちへ
4年生になり「自分の活躍よりも、チームを生かして勝つ」ことを意識している

菅原俊コーチと3年目 コンビの集大成をめざす

菅原コーチとのQBユニットも3年目。「知識の量は追いつけそうにないし、経験の面でも日本のQBで右に出る人はいないと思っています」。谷口は菅原コーチに対する全幅の信頼を口にする。

「どんなに負けていても、菅原さんが出てくると、何か起こしてくれるんじゃないかとワクワクしました。実際に、試合をひっくり返すのもたくさん見てきました。僕も菅原さんのように、法政の4番がフィールドに立ってるだけで相手に『嫌だな』と思われるような象徴になりたいです」

QBの目標像としても、菅原コーチは特別だ。幼かった頃、自分が菅原さんを見てきたように、そんな姿を子どもたちに見せていきたいと谷口は言う。

菅原コーチは谷口についてこう評価している。

「タケを一言で言うと『フットボール大好き少年』ですね。心底楽しみながらプレーしていますし、フィールドの外でも様々な映像を見て自分のものにしようと努力しています。QBとしては、ファンダメンタルがしっかりしてるので、リード、スロー、ドロップバックなど全てがとても高いレベルにあります。特に投げるスキルは遠投、クイック、制球などがどれも優れていて、Xリーグでもすぐに試合に出られるレベルだと思います」

理想とする法政の4番の姿を体現する

この先のステージで、谷口に期待したいことを聞いた。

「出会った時から口うるさく言ってるのは、“勝つQBになること”です。あらゆるシチュエーションで勝ちを決める選択ができているのか、他の10人を生かすプレーを考えられているのかをずっと対話してきまいした。それができるようになってきたので、大舞台で体現してほしいです」

今シーズンは周囲の頑張りや協力を受けて、この能力が集大成に近づいてきた。あとは結果を出すだけ。菅原コーチの言葉からは、谷口に対する強い信頼と期待が伝わってくる。

勝つためのクオーターバッキングを

泣いても笑っても今年がラスト。自分自身が納得できる準備をして、なんとしても結果につなげたい。

「去年の甲子園ボウルのビデオを見返していて感じるのは、ビビってプレーをしてしまっていたなと。自分たちがいつも通りのことができてない中で、関学はいつも通りにプレーを遂行できていて、その差を痛感した試合だったなということです」

いま取り組んでいることのすべては、ここに立脚している。相手に合わせるのではなく、自分たちのプレーを突き詰めたときに、そんな姿に近づくことができるのではないか。

「だからこそ、一戦必勝を掲げつつも、あくまで関西に勝つために関東でどんな試合をしていくべきかというのを大事にしていて、いつも全員に話しています」。当然だが、関西に対する意識は、過去の甲子園ボウル出場時よりも格段に強くなっているという。

1年生だった2021年の甲子園ボウルは交代で出場。エースRB星野凌太郎(23年卒、現・東京ガス)にハンドオフしTDも決めた

最上級生になって、QBとしての心持ちにも変化がある。

「1年生の頃は、平井(将貴、23年卒)さんの交代で試合に出る感じだったので、自分は点数をとることだけに集中していました。ただ、今はエースなので、試合に勝つためのクオーターバッキングを大事にしないといけないです」

いかに試合をコントロールし、周囲にボールデリバリーして進めていくのか。「どうやって試合に勝つのか」ということは、以前よりも深く考えるようになったという。

ここから先の試合は、チャレンジャーとして、改めてこの1年間準備してきたものをすべてぶつける覚悟で挑む。「ファンの方たち、保護者、スタッフ、コーチの思いを背負って、残りの試合全てを勝っていきたいと思います」

法政の4番の表情が、昨年よりも引き締まって見えた。

オフェンスのリーダーとして、ほかの10人を生かしながら勝つチームを作る

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