アメフト

特集:第78回甲子園ボウル

2年ぶり甲子園ボウル出場の法政大学 「CHALLENGE」続けた1年、集大成の場

主将として法政を率いる滝沢は淡々としているが、弁が立つ男だ(すべて撮影・北川直樹)

学生アメリカンフットボールの日本一を決める「甲子園ボウル」が12月17日にある。関西学院大学ファイターズと法政大学オレンジが2年ぶりに激突。両チームは甲子園ボウルでこれまで8度対戦し、4勝3敗1分けで関学に分がある。関学は前人未到の6連覇を目指し、法政は2006年以来17年ぶりの日本一を目指す。決戦前日の16日、法政が公開練習と記者会見に臨み、富永一ヘッドコーチ(HC)と主力幹部が向けた意気込みを語った。

東日本決定戦の後、ファンダメンタルを大事に

富永一HC

法政大卒業後にプロコーチとしてのキャリアを歩み、母校HC就任2年目で甲子園ボウル出場を実現

「関学さんはファンダメンタルがしっかりしていて、『当たる、走る、タックルする』という基本の部分で勝負をしてくるチームだと感じています。チャンピオンですし、我々がコントロールできる部分は限りなく少ないかもしれない。ただ、チャンスが0ではないので、そこで確実に得点に結びつけるなど隙を突きたいと思います」

「オフェンスもディフェンスも、ユニットとしてのコンビネーションが良いので、特定の個人の選手ではなく全員になってしまうのですが、ユニットの完成度が非常に高く手強いなという印象です。特に、LB陣の動きが的確かつ素早いと見ていて、警戒しています」

「うちのキーマンは、QBの谷口、LBの川村になるかなと思います。あとは、これまで目立った活躍をしていない選手がどれだけ活躍できるかが、チームにとってはとても大事だなと考えています。その上で、最終的にスコアする、スコアされるという部分では、ターンオーバーの獲得がポイントになると思います」

「関西リーグの関大戦はQBの星野くんが途中退場して、思っていたことができなかったのではないかという部分はありますが、そこをうまく関大さんが突いて、プレッシャーをかけて止めていたという印象です。ほかの試合ももちろん参考になりますが、関大さんのやり方はとても参考になったと考えています」

「我々は東日本決定戦の後、ファンダメンタルの部分を大事にして取り組んできました。具体的には、プレーの部分だけではなく、ハドルの集散などあらゆる部分を改めて見直しました。基本に立ち返って、しっかりやっていこうというところですね」

「チームワーク、人の輪という部分では我々も関学さんに負けていないという自信がありますので、その部分はしっかり勝ちたいと考えています。学生たちは『新しいスタンダードをつくるんだ』ということで取り組んできました。そして、新しいことにチャレンジしようとやっておりますので、そこのサポートをコーチ陣として、できる限りのことを出し尽くせればいいなと考えています」

大事な場面で決めきることを徹底

QB谷口雄仁(3年、法政二)

シーズン中に劇的な成長を遂げ、エースQBとして独り立ちした

「シーズンを通してWRとRB、TEとOLと細かくコミュニケーションをとりながら、成功の共通イメージをつくることにフォーカスしてやってきました。これは甲子園だからとか、関学が相手だからというのは関係なく、いつも通りの自分たちのプレーを質高く徹底的にやりきることを大事にしてのものです。まだ試合まで20数時間あるので、さらに完成度を高めていきたいと思っています」

「関学のディフェンスは個人の能力が高い印象です。プレーリードやアクションの速さだったり、タックルのアグレッシブさだったりは、関東のチームとは異質なものを感じます。特に21番の波田、25番の中野は嗅覚(きゅうかく)が光る選手なので、警戒しています。自分たちもチャレンジャーとして思い切りよくプレーしていきたいと思います」

「前回は平井(将貴、2023年卒)さんがエースで、自分は気楽な立ち回りをさせてもらっていた部分があるんですが、今は試合を通じて自分が引っ張る必要があります。そのためにチーム全体に目を通し、自分自身がどう立ち回れば勝利につながるのかなどを考えながらプレーするようになりました」

「今年QBコーチに就任した菅原俊(2008年卒、オンワード、オービックOB)さんからは『QBがどうあるべきか』という部分から指導してもらっています。日常生活をはじめ、プレー以外の立ち振る舞いについても的確に指摘してくださるので、チームをどのように良い方向に導いていくのかという部分を学ぶことができました。あまりこの場では言いたくないのですが……(笑)。『QBは絶対に痛がるな』っていうのがとても印象に残っていて。弱みを見せることは、仲間はもちろん、対戦相手に対しても大きな影響が出ることだと思うので、どんな場面でも強くある姿勢を大事にしています。明日もどんな状況であっても堂々とプレーしたいです」

「関学に対しては、同学年の須田(啓太、関大)のプレーがとても参考になると思っていて、スペシャルプレーのパスを決めきることがあの試合(16-13で関大が勝利)のキーだったのかなと感じています。自分たちも大事な場面で決めきることを徹底したいです」

「また、QBサックを受けた場合なんかはやっぱり止まってしまっているので、QBとしてサックやインターセプトをできるだけ減らすことが大事ですね。須田には以前、SNSを通してポケットムーブの練習を教わったこともありました」

「WRは全員を信頼しています。出てるメンバー、出ていないメンバー全員がしっかり情報共有をしていて、信頼できるユニットだと思います。須加はガッツがあるプレーヤーですし、白井さんはクイックネスがあって球際に強い。やってくれると思います」

「法政側で見ればよかった」と言われるプレーを

RB新井優太(4年、啓明学院)

関西学院の継続校、啓明学院出身。学生ラストゲームでかつての仲間やライバルらと戦う

「啓明学院から法政に進学して、最後に同級生やライバルが多い関学と対戦できるのはとても幸せだと考えていて、2年ぶりに戻ってくることができて本当にうれしいです。また、相手が前回負けた関学ということでリベンジの機会をもらえた点でもワクワクしています」

「前回は出場のチャンスをもらったときに、気持ちの面や技術面でも圧倒されてしまいました。けがで下がった先輩の分も活躍してチームを引っ張るという思いがあったんですが、それが達成できずにとても悔しい思いをしました。準備の大切さ、マインドセットの部分がとても重要だという学びを得られたので、その部分をしっかり準備してこられたと考えています」

「関学は関東のチームと比べて、プレースピードやフィジカルの強さが一段上になってくると思っています。そこに負けないように、迷わず思い切ってプレーすることが一番大事だと考えています。OLやTEとしっかりコミュニケーションを取って準備してきました」

「フィジカル面の差はチーム全体でも大きな課題として上がっていたので、トレーニングで体を大きくするだけではなく、ムーブメントトレーニングを取り入れるなどしてスピードやキレを高める取り組みをしてきました。この部分は自信がついてきたので、存分に発揮したいです」

「関学は高校時代からずっとライバル関係で戦ってきて、最後まで勝てない相手でした。こうして最後に関学と戦えるのは、すごい楽しみです。関学の前島選手は高校時代お互いQBで、背番号も7で一緒ですし、自然と意識するライバルですね。甲子園ボウルのポスタービジュアルに2人で選んでもらえたことは自分としてもモチベーションになりました」

「法政が掲げる『自由と進歩のフットボール』は、学生アメフト界の新たなスタンダードになることを目標にしていて、そのためには成長し続けることだと思っています。勝敗だけにとらわれず、試合中も楽しみながらフットボールに取り組み成長を続けた結果、日本一という結果がついてくればうれしいですね」

「今年加わった丸田泰裕(2007年卒、ディアーズOB)コーチには、技術だけではなく、メンタル面や副将としての振る舞いついても教えてもらいました。自分は緊張しがちな性格なので相談したところ、自信を持ってプレーすることの楽しさを教えてもらいました。副将として悩んだときには、考えたことを行動で表すことの大切さを教えてもらいました。自分はもともと口下手なんですが、気持ちは強いものがあると自負しています。行動や言葉にして仲間にどのように伝えるのかを教えてもらい、うまくチームメートに伝染させられたかなと思っています」

「高校時代の友人は、やはり関学側で見る人が多いようです。法政側で見ればよかったと言われるようなプレーをしたいと思います」

法政大学RB新井優太 関学エースRBと誓った「甲子園で会おう」 実現のために走る

個人の責任を増やし、改善策が出やすくなった

WR滝沢叡(あきら、4年、法政二)

父・憲さんは慶應義塾大、兄・瞭さんは立教大で活躍。フットボールファミリーで育った

「主将として大事にしてきたことは、フットボールを楽しむことです。楽しいというのは甘えがあるという方ではなく、つらいときでも笑顔で取り組むことを意識して取り組んできました。今年は『CHALLENGE』をスローガンに掲げていて、これまで色々なチャレンジをしてきたわけですが、その集大成となる舞台で、どれだけやってこられたかがわかる試合になるので楽しみです」

「法政が掲げている『自由と進歩のフットボール』の通り、僕たちのフットボールというのは楽しいものなので、甲子園では4年間で一番楽しかったと思えるフットボールをしたいと思っています。理想は、自分たちのフットボールをして関学さんのやりたいことをさせないこと。もちろんこれは難しいので、やられているシーンであっても、自分たちのチャレンジとして捉えて楽しみたいと考えています」

「僕が主将になってから、各学生の判断に任せることが多くなったと思っています。具体的には、管理をある程度緩くして個人の責任、裁量を増やすことをしました。その結果、各自が自分でものごとを決める回数が増えるので、自ずと責任をもってやりきれるようになったと考えています。上から言われたことをやっているだけだと主体的な学びが少ないですが、自分たちで決めることで、失敗しても改善の案などが出やすくなったかなと感じています」

「春の最終戦で日大に負けた後は、『上級生がもっとやるべきなんじゃないか』などの意見が出てチームが分裂したこともありました。そこから新たに作り上げることができたのが、今年のチームの一つの色だったと思います。山田晋三ディレクターが、メンタル面でサポートしてくれて、特に成長を実感することができたと思っています。学生が責任を持つことで難しい場面は多かったですが、その分成長の実感も多かった1年でした」

「今年は、ユニホームの色を上下白でいくことにしました。『チャレンジャーとして挑んでいこう』ということで、最終的には僕が決めました」

2年前の甲子園を思い出した前日練習

LB川村智紀(4年、法政二)

下級生の頃から守備の中核として活躍してきた

「2年前にも試合に出て甲子園のフィールドに立ったんですが、観客との距離が近く感じてとても興奮したのを覚えています。さっき前日練習を終えて、その記憶を思い出すとともに、自分たちのプレーを見せつけたいという気持ちでいっぱいです。ディフェンスとして一番大事にしてきたのは、最後までやり切ることです。当たり前のことなんですが、全員で徹底することで集まりの速さに結びつけていきたいです。これは4年だけではなくチーム全体で指摘し合いながら取り組んできました」

「関学はランが強いので、どれだけランを止められるかが勝負に直結すると思っています。その部分でも最後までしっかり集まることが大事で、その上で個々の役割をしっかり果たすことが大切です。ミーティングでも細かいコミュニケーションを取って、アラインやポジショニングの取り方を準備してきました。関学のランを止めて自分たちのリズムを作れれば、勝てると思っています」

「警戒しているのはTEの91番の選手です。ブロックが強力ですし、ラン以外のプレーも多彩にこなしているので注意したいです。QBは星野選手は走りがすごくうまいと思っていて、最後のフィニッシュの部分も強いイメージです。鎌田選手はパスの一発があるので警戒しています。彼らへの対応は、練習でスカウトチームに協力してもらいながら準備をしてきました」

「今年は目の前のプレーを大事にしようということで『アタック・オン』という目標を掲げてきました。このディフェンスをしっかり体現できれば、関学相手にもしっかり戦えると思っています。具体的にはタックルでしっかり仕留めることがカギになり、この1年間、練習前の時間なども使って全体で取り組んできました」

「今年の法政はDBがとても充実していて信頼しています。中でも3年の小田が1対1の勝負にとても強く、頼れる存在だと思っています。僕の強みはプレーリードの速さと正確なタックルだと考えているので、そこに注目してもらえたらうれしいです」

ランを止めることに注力

SF長島佑作(4年、千葉日大一)

関東学生リーグで初めてDBとして最優秀選手に選ばれた

「2年前はDBでの出番はなく、キッキングのみの出場でした。ディフェンスとして出たい気持ちが強くてとても悔しい思いをしました。甲子園ボウルという舞台に立てるので、関学を倒して日本一になりたいという気持ちでいます」

「関学はランがとても強いのが大きな特徴だと思っています。なので、DBの力でランを止めることが大事になると思っています。特に34番、7番の選手が力強い走りをするので、1人で止められなくてもチーム全員で止めるようなディフェンスがしたい」

「関東リーグでは、パスに対する強さを発揮することができてリーグMVPをもらうこともできました。もちろん甲子園でもこの強みは出したいけど、ランにしっかり絡んで止めに行くことが目標です」

「25番の選手はリーグ戦で7インターセプトを記録していて、尊敬している面もあります。でも自分の方が力を発揮して活躍し、ディフェンス全体の力で上回って勝ちたい」

「今年コーチに就任した樋田祥一(2008年卒、富士通OB)さん、スチュワート・ローガン選手(IBM)の指導を受けて、ボールに対する意識が改めて強くなりました。その結果が、ターンオーバーに結びついていると感じてます。お世話になったコーチのためにも、ターンオーバーを重ねて勝ちたいと思います」

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