アメフト

法政大学RB新井優太 関学エースRBと誓った「甲子園で会おう」 実現のために走る

第4Q終盤、試合を決める力走を見せた法政大のRB新井優太(提供・関東学生アメリカンフットボール連盟)

関東大学アメリカンフットボールリーグ戦 TOP8

10月1日@アミノバイタルフィールド(東京)
法政大学 6-3 立教大学

アメリカンフットボールの関東学生TOP8は、10月1日に第3節の全勝対決があり、法政大学と立教大学が対戦した。前節で明治大学相手に劇的な逆転勝利を収めた立教と上位常連校・法政の対戦は、今季の優勝戦線のカギとなる試合だった。両チームタッチダウン(TD)を取りきれず、6-3で法政が接戦を制した。得点には絡まなかったが、終盤に登場した法政大RB新井優太(4年、啓明学院)の走りが印象的だった。

「守り合い」の接戦、最後は新井のランが決め手に

強力な守備を持つ立教と、エース不在の法政。例年では法政が一枚上手(うわて)と見られるカードだが、両チーム決定的な場面をつくれず。前評判通りロースコアの我慢比べになった。獲得ydは法政の225ydに対し、立教は205yd。ミスがありながらも粘りを見せた法政が、試合をものにした。

第1クオーター(Q)、法政がQB谷口雄仁(たけひと、3年、法政二)からWR高津佐隼世(2年、佼成学園)へのロングパスで立教陣に攻め込み、K大橋功典(4年、法政二)のフィールドゴール(FG)で3点を先制。その後、立教がRB星野真隆(3年、立教新座)のランを中心に攻め込み、K野田悠生(3年、桐光学園)のFGで同点に追いついた。

法政はP齊藤空大(あお、2年、駒場学園)の好パントで有利なフィールドポジションをつくり、第2Q終了間際に大橋が44ydのFGを追加して6-3で前半を折り返した。

全得点を蹴り込んだQB/Kの大橋と、ボールをセットするホールダーの新井。1年のときは新井とともにQBだった仲だ(撮影・北川直樹)

後半は法政が連続してターンオーバーのミス。しかし立教の攻撃はここで攻め込めず、得点につなげられなかった。そして第4Q中盤に、立教が同点の19ydFGを狙うが痛恨の失敗。続く逆転TDを狙うシリーズでインターセプトを喫し、攻撃権は法政に。法政が新井のランでダウンを更新。3分あまりを使い切り、試合を決めた。

前エース・星野凌太朗の「背番号7」を引き継いだが

この試合、法政が30回繰り出したランプレーで獲得した距離はわずか98yd。伝統的にランに強みを持つ法政としては、物足りなく感じる。しかし、第4Qに登場した副将の新井が勝負どころで好走。ファーストダウンを更新したら試合が決まる場面で34ydゲインの力走を見せ、立教逆転の芽をつんだ。新井はこの試合で46ydを走った。

「本当に苦しい試合で、ディフェンスが(インターセプトで)ボールを回してくれた。自分が勝利を決めるんだと強い気持ちで走りました」

大学2年生時には、東日本代表決定戦の東北大学戦で14回走って105yd、2TDを獲得。56-13で大勝した立役者としてMVPを獲得した。しかし、昨年は絶対的なエースRBだった星野凌太朗(22年度卒、現・東京ガス)の陰に隠れ、活躍の機会はなかった。

今年最上級生のRBになり、星野の背番号7を引き継いだ。「3年の頃から星野さんの後は自分が継ぎたいと強い気持ちを持っていました」。しかし、春に負ったけがで長期離脱を強いられた。

この春から星野凌太朗の7番を引き継いだが、けがに苦しんだ(撮影・北川直樹)

この日の試合は約3カ月ぶりの復帰戦だった。現状、新井はRB陣の中で突出したエース格ではない。ただ、最上級生としての意地を見せた。「自分の出番は多くはなかったですが、結果を示せたことは良かったです」

自分の輝ける場所を探し、法政へ

兵庫・啓明学院中学でアメフトをはじめた。本格的に取り組むスポーツはこれが初めてで、ポジションは一貫してQB。高校2年生の冬に行われる、都府県対抗のオールスターゲームにも兵庫県代表として出場した。啓明学院は関西学院大学の継続校なので多くは関学に進学する。関学は日本中からフットボールエリートが集まってくる学生界頂点のチーム。「そこで活躍できるのか?」。当時は正直、自信が持てなかったという。

2019年11月10日にあった関西地区大会2回戦の関大一高戦。エースQBとして準決勝まで勝ち進んだ(本人提供)

母校でコーチをやる道も考えたが、選手としてアメフトを続けることを選んだ。自分が輝ける道を模索していた時に、啓明学院の3学年先輩で法政へ進んでいた中村幹(もとき)さんの誘いを受けた。「こんな選択肢もあるのか」。関東の法政へ進学を決めた。

大学1年のときはQB。2年に上がる際、RBに転向した。「当時、けが人などの事情でRBが少なかったんです。コーチは『チーム事情で転向してほしい』と言ってくれましたが、同期には大橋っていう良いQBがいて、後輩にも谷口が入ってきました。僕の実力不足という面が大きかったのかなと思います」。秋にはRBとして星野、宮下知也(22年度卒)に続く3番手のポジションを勝ち取った。3年に上がった昨年は、同期の岩田翔太郎(4年、法政二)と切磋琢磨(せっさたくま)した。

星野と宮下が卒業した今年。富永一ヘッドコーチ(HC)によると、まだ今年のエースRBは定まっていない。「今日先発した廣瀬(太洋、3年、駒場学園)に加え、岩田、小松(桜河、2年、日大三)、新井、鈴木(悠真、3年、法政二)の5人で争っています。まだ誰も抜けてないというのが実際です」。RBとしてそれぞれ良いものを持っているが、まだ横一線と言っていい状態だという。

「新井は、周りが良くない方向にそれた際にも幹部として自分の意見をしっかり言えるタイプ。まだ完全に復調したとは言えませんが、調子が戻ってくれば、もっと上のレベルで戦える選手だと思います」

ゲーム中の調子を出す意味でも、RBは大人数で回すポジションではない。ここから誰が抜け出すのか。富永HCの新井に対する期待は大きい。

最終学年は副将としてチームを引っ張る。新井のリーダーシップには富永HCの期待も高い(撮影・北川直樹)

関学・前島仁は自然と意識する相手

「自分の強みはセカンドエフォート。一発で倒されずに、粘り強く進むことです。そこはもっと磨いていきたいです。今年に入ってカットやスピードのキレも出てきたと感じているので、もっと伸ばしていきたいと思っています」

今では流暢(りゅうちょう)な”関東弁”をしゃべり、関西人であることを感じさせない。「同期にキャラの濃いやつが多くて、1年のときすぐにのまれちゃいました。地元に戻ると関西弁なんですけどね(笑)」と、控えめに笑う。

今年はついに最終学年。2年ぶりの 甲子園ボウルに勝ち進み、かつての同期や兵庫県のよきライバルだった関学高等部の友人らと対戦することを望んでいる。「関学が一番とされている中で、自分たちが勝って新しいスタンダードを示したいです」。気持ちを込める。

関学の幹部を務める前島も同じ7番。新井同様、QB経験を持つRBとして活躍している(撮影・北川直樹)

同じ背番号7を着けている関学のエースRB前島仁(4年、関西学院)とは仲が良く、自然と意識する相手だ。「個人的には、前島とはプレースタイルも近いと思っています。僕もアイツに負けないくらい活躍したいですね」

いまはSNS上で、たまにメッセージのやりとりをする。「甲子園で会おう」。新井は、これを実現するために走る。

「エースに恥じない走りをします」と決意を話す新井(撮影・北川直樹)

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