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法政大学最後の日本一、エースQB菅原俊さんから甲子園を知らない後輩たちへ

法政大学を最後の学生日本一に導いた名QB菅原俊さん。オービックのコーチを務める(撮影・北川直樹)

甲子園ボウルでの法政大と関西学院大の対戦

年  法政 関学
1972 ○34-20● 創部38年目の法大が初出場し初優勝
1997 △21-21△ 関学が終了間際に追いついたがTFPキックが外れ両校V
1999 ●13-52○ 関学が日本大を抜いて単独最多21度目のV
2000 ○28-21● 法大が雨中戦で逆転、関東勢10年ぶりの勝利
2001 ●6-24○  3年連続の対戦は関学が力強いディフェンス
2006 ○45-43● 丸田の80yd独走TDなどで法大が初の連覇
2012 ●17-20○ 試合時間残り2秒で関学が決勝のFG

東西の名門対決となったアメリカンフットボールの甲子園ボウル(12月19日)で、法政大学と関西学院大学の過去の対戦成績は3勝3敗1分けと全くの五分だ。9年ぶりに聖地に戻ってきた法大は前回出場した時は関学に惜敗しており、15年前、最後に学生日本一になった時の相手も関学と縁がある。その2006年、エースQBとして関学を破った菅原俊(しゅん)さん(35、オービックコーチ)に当時を振り返ってもらい、甲子園を知らない選手へエールを送ってもらった。

3回出場し連覇達成

甲子園ボウルのことは、今でも鮮明に覚えています。大学1年生から3年連続出場しました。04年の1年生のときは立命館大学に負け、2年生で立命にリベンジして優勝しました。3年生のときに初めて関学と対戦したんですが、前の2年間の経験があったので、ギリギリでメンタルを保てているという感じでしたね。フィールドに入った瞬間、関学の応援スタンドを見て圧倒されたことをよく覚えています。最後まで点の取り合いになりましたが、逃げ切って、連覇することができました。

2006年の甲子園ボウルでタッチダウンを決める(撮影・日吉健吾)

もちろん立命大相手でもアウェー感はありますが、関学のときは、比じゃないレベルの歓声、観客の圧迫感がありました。当時はスタンドの位置が現在とは違っていたので、関東側に2千人、関西側に2万8千人くらいの差があったんです。まさに「わっ」という、圧倒された気持ちになりました。そんな中ででも「やってやろう」「先制パンチ食らわせてやろう」って強い気持ちがあり、最初のプレーでRB(ランニングバック)丸田(泰裕、07年卒)さんがタッチダウン(TD)まで持って行って。まさに「やってやったぞ!」という気持ちでした。あれがあったから勝てた試合だと思っています。

関学は、関立戦(関学-立命)など伝統あるゲームを経てくるので、関東のチームとはまた違った気持ちの強さをひしひしと感じました。ハートの部分でやられちゃうと、相手の勢いに飲み込まれちゃうので、そこだけは負けないようにと思ってプレーしていました。試合中は「なんで止められたんだろう」と、細かい部分はわからないこともあるんですが、後から見直すと「あれを研究されて、こう止められたんだ」みたいな発見があって。関学の怖さという意味では、後から気づくことも多かったです。

「学生主体」から導き出した答え

当時の法大は、コーチが土、日の練習にしか来られない環境だったので、当たり前のように選手がチームを作り上げて、練習メニューから戦術、チームの組織作りも全部学生がやっていました。そういう中なので、特に4年生のリーダーシップが本当に大事なんです。僕は甲子園ボウルで関学と対戦したときは3年生だったんですけど、4年生に乗っかって上級生としてしっかりリーダーシップをとっていました。絶対に負けられないっていうのと、負けたくないっていうプライドだけでやってましたね。

戦術については、米カレッジフットボールやXリーグのビデオをめちゃくちゃ見て研究していました。全員で見て、アイデアを出し合って、いろんなパターンを考えて本当に地道に作っていく感じです。当時最新だった「ユタオプション」だったり、強かったフロリダ大のパッケージをそのまま持ってきて「フロリダ」というプレー名にしたりしていました。僕は卒業後にオンワード(現ノジマ相模原ライズ)に入ったんですが、日本人だからこそ参考になる部分もあって、そこの先輩にあたる冨澤優一さんや小島崇嘉さん、オービックの龍村学さんらQBのプレーや戦術もよく見ました。 横浜高の頃から選手主導でやる環境で育ったので、当たり前に取り組んでいました。

関学を下して甲子園ボウル初の連覇に笑顔がのぞく(撮影・西畑史朗)

当然すごく時間がかかるので今はそぐわないのかもしれないですけど、フィールド練習のあとに全体で3時間、そのあと幹部で同じくらい、毎日寝る間を惜しんでミーティングをしていました。学校の施設は使える時間が限られているので、ファミレスに移動して続きをやるんです。話し合う内容がありすぎて、正解もわからない中で。学生同士だからやれたのかなと思います。プロのコーチがいれば、時間の短縮にはなったのかなと思いますが、自分たちで導き出した答えをフィールドで体現していった思いがあります。振り返ると、だから強かったんだなと思います。

変わらないスピード感

社会人になってから関学とライスボウルで対戦(2012年から3連勝)することもありましたが、大学生のレベルはどんどん上がっているなと思います。法大が甲子園ボウルから遠ざかり、すこし遅れを取っていたのはOBとしてはやはり悔しかった。なんとか法大にも強くなってほしいと思っている中で、このタイミングで勝ち上がってきてくれたことは素直にうれしいです。

オービックVS.関西学院大 2013年ライスボウルの名勝負を振り返る

今年の法大はラインのメンバーが揃っていて、バックスには星野(凌太朗、RB、3年、日大三)君や平井(将貴、QB、3年、千葉日大一)君といったタレントもいるので強いなと思いますね。今も当時もスピード感あふれるオフェンスが特長なので、カラーは近いのかなと思います。

同じ背番号4をつける法大司令塔の平井将貴(撮影・北川直樹)

関学ベンチ見ない、雰囲気楽しんで

関学は、自分たち(法大)を研究し尽くしてきます。すべてバレていて、見透かされているような気がしてしまうので、あえて「関学と戦う」というのは考えないほうが良いと思います。僕はオービックに来てからも関学と対戦していますが、とにかく決めていることがあって。「鳥内(秀晃・前)監督を見ない」ことを徹底していました。なので、1回も試合で鳥内監督を見たことがないんです(笑)。自分の中のルールとして、関学のベンチを見ないことを決めていましたね。関学大応援歌の「レッツゴーKG」とかを聞くと、こちらもテンションは上がるので、そこまでにとどめるようにしていました。

知将・鳥内前監督に惑わされないよう決して見なかったという(撮影・北川直樹)

今までに経験したことのない観客の中で試合をすることになると思うので、雰囲気に飲まれそうになることも多々あると思います。パスを失敗したら相手の観客席が盛り上がって、大歓声を浴びせられるようなこともあります。自分たちを見失わないためには、とにかく目の前のプレーに集中することが大事です。甲子園という大舞台であっても、フィールドに入って集中すれば相手側の歓声なんて気にならないです。QBの平井君には、考え過ぎずにいつも通りのことをにやってほしい。目の前の相手を倒すっていうことの積み重ねが勝利に近づくので、1プレー、1プレー全力でやり切ること。そうすれば、自ずと勝利につながると思います。

あとは、とにかく甲子園で試合ができるという素晴らしさをかみしめてほしいですね。飲まれるくらいなら楽しんだほうがよいので、そういう気持ちで臨んでほしいです。

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