アメフト

特集:第72回ライスボウル

大けが乗り越え、後輩支えた 関学DL齋藤

大けが乗り越え、後輩支えた 関学DL齋藤
ライバル立命大との戦いに戻ってきた齋藤(撮影・加藤諒)

日本選手権第72回ライスボウル

1月3日@東京ドーム

富士通(社会人Xリーグ) vs 関西学院大(学生)

正月3日のライスボウルに臨む関学には、大けがを乗り越えた4回生がいる。
DL(ディフェンスライン)の齋藤圭吾(関西学院)。12月16日にあった甲子園ボウルでは第2Q、早大QB柴崎哲平(3年、早大学院)に襲いかかってQBサックを決めた。関学応援席からの大歓声を浴び、両腕でガッツポーズ。その腕には、けがで甲子園ボウルに出場できなかった二人の4回生の背番号が書いてあった。「けがで練習できないヤツの気持ちは分かるし、最後の甲子園に出られないなんて、想像もできないほど悔しいはず。だから、こいつらの分も頑張ろうって」。仲間の思いを背負った男が、彼らの分まで輝いた。

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あこがれの甲子園ボウルでQBサックを決めた齋藤(撮影・矢木隆晴)

3年の夏合宿、ドクターヘリで緊急搬送

齋藤は3回生だった2017年夏、兵庫県養父市での合宿中に思わぬ事態に襲われた。
この年の春のシーズンは同じポジションの主力選手がけがで欠場したため、ほぼ全試合に先発出場した。そして、夏から復帰してくる主力選手と再び競い合い、レギュラーを奪取するべく燃えていた。下級生のころの夏合宿は気が向かないこともあったが、齋藤は「本気でやったろうって思いました。マジで」。固い決意で乗り込んだ。

夏合宿も中盤にさしかかろうとしていた。「なんか、急に頭がクラクラしてきて……」。午前中のトレーニングが終わった後、仲間と談笑していた齋藤が突然、その場で倒れた。ドクターヘリで病院へ救急搬送。「うっすら意識はありました」と言うが、腕に痺れを感じていた。搬送先の病院で精密検査を受けた。「頭の中に大きな異常はない」との診断を受け、選手生命はつながった。

スタメン出場を描いていた3回生の秋は、思わぬ形で迎えた。合宿後は少し休んで、ゆっくりと復帰へのプロセスを踏んだ。鳥内秀晃監督や大村和輝アシスタントヘッドコーチは齋藤の顔を見る度、「頭、痛ないか」と聞いてくれた。医療機関やトレーナーと相談しながらのリハビリが続いた。
不安が募る。「ダミー」と呼ばれる練習器具に対しての当たりでさえも恐怖心は残り、「痛い」と思う瞬間も増えた。兵庫県内のさまざまな病院で検査を受けた。そこで、ある医師から「脳脊髄液減少症の疑いがある」と聞かされた。さらに、「これ以上、アメフトはしない方がいい。経過を見ないといけないけど、もう選手としてはできないかもしれない」と告げられた。齋藤は両親の暮らす静岡県へ戻り、安静にすることになった。


齋藤はシンガポールで生まれ、2歳まで異国の地で育った。幼稚園は神奈川、小学校は静岡で過ごした。小学5年生のとき、たまたまテレビで甲子園ボウルを見た。2007年の関学-日大の対決が終盤まで分からない大激戦になったのを見届け、「え、めっちゃかっこいい。観客もめっちゃ多いし、当たりも激しい」と思った。静岡ではサッカーやテニスをしたが、「みんなやっているスポーツは嫌」と、アメフトにあこがれた。父の基樹さんは兵庫県立星陵高でTEとLBで活躍した選手だった。「アメフトするなら、関学にいけ」。父のアドバイスもあって、関学中学部を受験し、合格。神戸市須磨区にある祖母の家から約1時間かけて通い、フットボールを始めた。高等部でもアメフト部へ。3年のときはDLとパンターで活躍し、副将としてもチームを引っ張った。高校日本一を決めるクリスマスボウルでは早大学院高を破り、10年ぶりの日本一になった。そして、あこがれの関学ファイターズの門をたたいた。

3回生の夏合宿で頭部のけがをした齋藤。静岡で安静にして、大学に戻ってきても歩くだけ、ストレッチだけ、ジョグだけ……という気の遠くなるようなリハビリを半年以上も続けてきた。1軍の試合に復帰したのは、今年8月25日の関西学生リーグ初戦の近畿大戦。スタメンではなく、限られた場面でだけ投入された。その後もスタメンに戻ることはなかったが、齋藤は試合に出場できる喜びをかみしめていた。仲間とともに甲子園ボウルへ。小学5年のときに見てファイターズにあこがれた夢の舞台。試合前に入場するときには身震いがした。そしてDLの勲章であるQBサックを決めた。「ホンマに鳥肌が立ちました。けがで途中でやめるのは、親にも申し訳なかった。『無理せんでええで』って何度も言われましたけど、中1から関学でフットボールを続けてきて、最後は試合に出られるかどうか分からなかったけど、やり続けることが大事やと思ったんで」

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甲子園ボウルで相手QBに襲いかかろうとする齋藤(撮影・松嵜未来)

ふさぎこんだ後輩と一緒に笑った

関学は2年ぶり29度目の学生王者に輝いた。その試合後、誰よりも多くの報道陣に囲まれていたのが関学のエースQB奥野耕世(2年、関西学院)だった。その奥野が取材に対して言った。「もちろん光藤さん(4回生のQB光藤航哉)、西野さん(4回生のQB西野航輝)もですけど、仲よくしてもらってる齋藤さんにも支えてもらいました。『家に泊まりにおいで』って言ってもらって、いつも通りに接してくれました」

奥野は今年5月6日に日大の「悪質タックル」を受けた男だ。齋藤が高3のとき、奥野は高1。DLのレギュラーだった齋藤は、練習のときに対戦するチームのQB役を務めていた奥野と一緒にビデオを見たりして、助言してきた間柄だった。例の騒動が大きくなるなか「もう、辞めたいっす。自分のせいでこんなんなって……」とふさぎこんだ奥野に、齋藤が寄り添った。奥野をラーメン屋へ連れ出し、スーパー銭湯にも連れて行って、アメフトと関係ない話で一緒に笑った。「奥野はリアルガチな弟みたいなヤツですね。あのころは僕もどうしたらいいか分かりませんでしたけど、とにかく話は聞いたろうと思ってました」と齋藤。自分自身が復帰に向けてリハビリを続ける状況にありながら、苦しむ後輩に手を差し伸べていた。

いよいよライスボウルだ。社会人Xリーグ王者の富士通については「想像がつかないですね。めっちゃ強いことは分かってるんで、必死に食らいつくだけです。ライスボウルの舞台に立てること、出られるかもしれないことを支えてくれた人みんなに感謝して、楽しみたいです」。10年間身を包んできたKGのユニホームを着て挑む最後の試合。さまざまな経験をして大きくなった背番号99が、ライスボウルにこの10年のすべてをぶつける。

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最後の大一番に備える齋藤(撮影・大西史恭)

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