中京大の山下真瑚、全日本選手権で見せる「真瑚ワールド」 卒業後も競技は続行
中京大学スケート部で主将を務める山下真瑚(まこ、4年、中京大中京)は今シーズン、自身の世界観を表現する意欲的なプログラムを準備してきた。来春に卒業予定だが競技生活は継続する。12月20日に大阪府門真市で開幕する全日本選手権では「真瑚ワールド」全開で観客を魅了する。
SPの振り付けは佐藤操さんと初タッグ
山下は3回転ルッツからのダイナミックな連続ジャンプだけでなく、豊かな表現力が持ち味だ。クラシック、オペラ、映画音楽……。これまで色んなジャンルの曲を滑ってきたが、今シーズンは「山下真瑚」というフィギュアスケーターの世界観を存分に楽しめるプログラムを準備してきた。
ショートプログラム(SP)は振付師の佐藤操さんと初タッグを組んだ。佐藤さんは友野一希(第一住建グループ)の「One More Time(ワン・モア・タイム)」(2018-19年シーズンエキシビション)や田中刑事さんの「千と千尋の神隠し」(2016-17年シーズンエキシビション)など、個性的な振り付けで選手たちの新しい一面を引き出してきた。
山下が使用する曲は、映画「ムーラン・ルージュ」より「Hindi Sad Diamonds(ヒンディ・サッド・ダイアモンズ)」。オリエンタルな曲調で独特の振り付けがちりばめられている。「いままでやったことがない曲であり、動きです。私が考えていたイメージより壮大で細かい表現が求められます。操先生からは『全然ダメ』ってずっと言われてます(笑)」と、苦労しながらもブラッシュアップを続けている。
フリーは鈴木明子さんが振り付けした「Creep(クリープ)」。
演技は両手に小さな箱を持ったしぐさから始まる。両手をふわっと上に広げると、そこからは「真瑚ワールド」が全開だ。伸びやかなスケーティング、3回転ルッツ-3回転トーループの連続ジャンプ、美しいイナバウアーやイーグル……。山下の魅力をたっぷり披露したら、最後はその小さな箱を胸元にそっと戻して審判席をじっと見つめる。
「『これが真瑚だよ』という風にみんなに見せてあげるんだけど、最後は『これは真瑚の大事なものだから、みんなにはあげないよ』というテーマです」
小さな箱は山下の心の中や頭の中を表す。「最初は明子先生と不思議な人を演じたいと話していましたが、意見を出し合ううちに、自分の考えていることをお見せできたらいいんじゃない? となりました。毎日一緒の感情はなくて、『今日の真瑚はこういう真瑚だよ』と思って演じています」とほほえむ。
山下の自由さを生かしてくれた山田満知子コーチ
山下は7歳から名門のグランプリ東海クラブに所属し、伊藤みどりさんや浅田真央さんらを育てた山田満知子コーチのもとで練習している。門下生には、オリンピック2大会連続メダリストの宇野昌磨さんがいて、一緒に練習した時期もあった。「尊敬している、憧れている選手。すごく芯があるかっこいいお兄さん」と、ずっと慕ってきた。
その宇野さんが今年5月に現役を退いた。「そろそろ引退なのかな、と思っていた」と山下。昨年12月の全日本では、宇野さんのラストの演技を会場で見たという。「次に会った時に『頑張ってね』って声をかけてもらえるようにちゃんと練習していこうって思いました」
山下が伸び伸びと演技できるのは、個性を大事にする山田コーチの指導によるところが大きい。「私の自由さを制限せずに、満知子先生は『やってみなさい』と言ってくれるから長い間続けられてきました」
山田コーチは81歳のいまでも試合に帯同し、リンクサイドで選手に発破をかける。「緊張が解けるというか、いつも通りの感じになる」と山下。山田コーチの声かけで平常心を取り戻し、演技に集中できるという。
スケート部主将として活動、衣装に関する卒業研究も
最上級生となった今年度は中京大の主将を務め、主務で2022年北京オリンピック代表の河辺愛菜(まな、2年、中京大中京)とともに部の運営に携わる。「個人競技なのでチーム競技みたいに全員で力を合わせてというのは薄いかもしれないんですが、主将として部員たちの調子を見たり、精神面でも大丈夫かなと思ったら声をかけたりしています」
中京大が子どもたち向けに開催するスケート教室では部員がイベントを仕切る。山下は主将として計画から運営まで、イベントが滞りなく進むように全体に目配りする。「前主将の荒木菜那が私にしてくれたことを、今度は私が愛菜や後輩たちに伝えていけたらと思っています」
さらに今年度から系列校の中京大中京高校で、スポーツや文化芸術に秀でた生徒を対象にした通信制課程が開設した。女子で世界ジュニア選手権2連覇中の島田麻央(木下グループ)や、男子で2024年世界ジュニア銀メダルの中田璃士(りお、TOKIOインカラミ)が入学。練習拠点は違うが、大会で記念撮影をする際に中京大を表す「Cマーク」を手でつくっているシーンを見るとうれしくなるという。
スポーツ科学部に在籍し、2025年3月に卒業予定だが競技は続行する。「引退は近づいているので残りの時間を大事にしたいと思います。なんとなく引退のタイミングは考えているけれど、本当にそこで終わりかわからないし、続けているかもしれません」
卒業研究ではフィギュアスケートの衣装をテーマに選んだ。「どんな衣装がより効果的かを調べています。ジャンプした時に(遠心力で)振られないか、スピンの時にスカートがきれいに広がるかなどの機能性、お客さんがジャッジ(審判)からの見え方、曲に合っているかなどの観点で見ています」
自身の体験だけでなく、選手からの聞き取りも実施。衣装の色については世界大会の上位選手や衣装デザイナーのインタビューを参考にまとめた。「片方に(装飾の)ストーンが多くて(外に)振られるのを気にして、左右対称の衣装を好む選手もいました」と、研究を通して気づきもあった。
将来的にはスケートに関わっていきたいという。「振り付けとか得意なので勉強してみたいなと思っています」と笑顔で答えた。
「これが真瑚だよ」と伝えることができたら
昨年の全日本ではSP2位と好発進した。「けっこうびっくりしました。昨年はコンスタントにノーミスできていたのがよかったです」と振り返る。
今シーズンは9月のアジアンオープントロフィーで銀メダルを獲得すると、中部選手権、西日本選手権でともに2位に入り、安定した成績で全日本選手権に駒を進めた。
今年は大阪府門真市のなみはやドームで20日から3日間開催される。「お客さんに会えることが楽しみ」と心を躍らせる。本番に向けては、ジャンプの回転不足をとられないように、さらに細かく表現できるように練習を重ねている。
「ショートもフリーもその時できるベストを出して、全力で滑り切りたいです。そして『これが真瑚だよ』と、伝えることができたらいいなと思います」
いよいよ開幕する全日本。山下真瑚にしかできない、特別なプログラムが堪能できそうだ。
◆画像から選手への寄付・応援メッセージを届けられます
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