東北大・芦塚明日佳 フィギュア部門を立ち上げ選手に復帰、「キラキラした滑り」磨く
学業とスケートを両立する「文武両道スケーター」は少なくない。東北大学の芦塚明日佳(1年、宇都宮女子)もその一人だ。高校3年時、大学受験勉強に専念するため一度競技を離れ、難関国立大に現役合格。東北大のスケート部はアイスホッケー部門しかなかったものの、一人でフィギュア部門を立ち上げ、選手復帰を果たした。再びスケート人生を歩み始めたのには理由がある。
栃木と埼玉を行き来し「文武両道」に励んだ高校時代
12月15日、アイスリンク仙台で開催された「第7回仙台市長杯フィギュアスケート競技会」のエキシビションに芦塚が登場した。「お客さんが見ていて退屈しない、面白いと思ってもらえるようなキラキラした滑りがしたい」。その言葉通り、笑顔をはじけさせながら美しいスケーティングを披露した。
芦塚は栃木県出身。小学1年生の頃にスケートを始め、しばらくは宇都宮市内のリンクを拠点とした。しかし宇都宮は夏に練習することができず、小学6年時からは年中練習が可能な埼玉県のリンクに通うようになった。
高校時代はほぼ毎日、栃木と埼玉を行き来した。午前6時ごろ開始の朝練に出てから高校に登校し、授業が終わって再びリンクに戻る日もあった。高校からリンクまでは車で約2時間かかり、練習を終えて帰宅するのは午後10時~11時。睡魔と戦いながら、勉強時間は母が運転してくれる車の中で確保した。
本人いわく高校2年まで学業の成績は「どん底」だった。それでも2年前の国体予選を終えてからは勉強に集中し、東北大経済学部合格を勝ち取った。
佐藤駿の助言を受け、新天地でリスタート
競技を一度離れるまでに全中やインターハイ、国体と出場し、スケート面も充実していたが、晴れやかな気持ちで「引退」を迎えられたわけではなかった。
「先生には『受験勉強のため』と言って、突然、逃げるように埼玉のクラブを出てきてしまったんです。最後までしっかり続けて引退する方がかっこいいし、名残惜しかったのもあって、大学でもう一度やりたいと思うようになりました」
大学入学後の選手復帰を決断し、今年6月にフィギュア部門が発足したものの、仙台で滑った経験はなく、当初は右も左も分からない状況だった。芦塚は「4月以降、2度アイスリンク仙台に来たんですけど、午前中の一般滑走だったので先生が誰もいなかったんです。『どうやって始めるんだろう』と困っていました」と振り返る。
そんな時、頭に思い浮かんだのが、埼玉のクラブで一緒だった佐藤駿(明治大学3年、埼玉栄)の名前だ。今年の中国杯でグランプリシリーズ初優勝を飾るなど、国際大会でも活躍する佐藤はかつて、地元・仙台のクラブに所属していた。仙台の練習環境について質問すると、「優しい先生がいる」と佐藤も師事していた仙台FSCの浪岡秀コーチを勧められ、後日、浪岡コーチに直談判。快諾され、入学から約半年が経った今年10月にようやくスケート生活がリスタートした。
偉大な先輩たちが育った仙台で成長を誓う
復帰直後に開催された東日本学生フィギュアスケート選手権大会(東インカレ)では女子6級で19位に入り、2025年1月に行われる日本学生氷上競技選手権大会(インカレ)の出場権を獲得した。学業やアルバイトと両立しながら、自転車で片道約40分をかけてリンクに通い、練習する日々を送っている。
「羽生結弦さんや荒川静香さん、千葉百音選手……。すごいスケーターがたくさん出るのは、仙台の恵まれた環境があるからだと思う。せっかくこの場所で教われるので、自分の憧れる滑りに少しでも近づきたいです」
決してジャンプやスピンが得意なわけではない。ただ、芦塚にしかできない「キラキラした滑り」には自信がある。「一瞬だけでも自分のことだけを見てもらえるのがフィギュアスケートの魅力。ニコニコして、曲に合う動きや表現をして、一人でも多くの人の印象に残るといいなと思いながら滑っています」。偉大な先輩たちの背中を追い、仙台の地で個性を磨く。
今度こそ「満足のいく滑りをして引退を」
年明けのインカレに向け「規模が大きい大会なので、見ていただける方も増えると思う」と胸を躍らせている。大学卒業後については「普通の企業に勤めたい」と話しつつ、「アイスショーにも憧れはあります。機会があればオーディションに応募したい」と意欲をのぞかせる。注目を集める表現の場が好きなことは、本人の語り口からひしひしと伝わってくる。
スケートは「いつまでできるか想像できないし、不安もある」というが、現時点では大学4年まで続けるつもりだ。タイミングに関わらず、今度こそ迷いなく「引退」の2文字を口にしたい。
「復帰前と変わらないくらいまでは戻ってきたし、スケーティングもうまくなってきていますけど、理想の滑りにはまだまだ達していない。自分で見て『かっこいい』と思える、満足のいく滑りをして引退を迎えたいです」