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特集:駆け抜けた4years.2025

日本大学・米須玲音(下)学生主体のチーム運営、主務と選手の間を取り持ち信頼を醸成

川崎ブレイブサンダースでプレーする米須玲音(©KBT)

15年ぶりの優勝を果たした全日本大学バスケットボール選手権大会(インカレ)における日本大学の戦いぶりは「盤石」の一言だった。

絶対的な司令塔の米須玲音(4年、東山)だけでなく一戸啓吾(4年、仙台大明成)や山田哲汰(2年、白樺学園)ら控えのガード陣も的確にオフェンスを作り、新井楽人(3年、沼津中央)や泉登翔(3年、福岡大大濠)といった長身オールラウンダーも攻撃の起点になった。コンゴロー・デイビッド(4年、報徳学園)、新沼康生(4年、日大豊山)、井上水都(4年、土浦日大)は泥臭くハッスルし、チームを支えた。

誰がコートに立っていても「日大」

今年度の日大は、前年度までのチームよりも多くのメンバーでプレータイムをシェアした。スタメンがコートから離れても、劣勢の時間帯があっても、コートに立った選手はみな落ち着いて自分の仕事を遂行した。インカレ準決勝の名古屋学院大学戦も、決勝の東海大学戦も、誰がコートに立っていようとも「日大」という1枚の絵になっていた。

日本大学ラストイヤーで司令塔としてチームを支えた(撮影・井上翔太)

そして、そんなチームを学生主体で作り上げた。

日大は今シーズン、学内業務が多忙な城間修平ヘッドコーチに代わって日大豊山高校の古川貴凡氏が監督として指揮をとることになった。同校バスケ部との掛け持ちで日大を見ることになった古川監督は、学生たちの自主性を尊重するスタイルを採用。キャプテンの井上、副キャプテンの米須、そして学生スタッフの新山岬(4年、東山)が中心となって練習内容を決め、試合を采配することになった。

当初は連携がうまくいかず、新米コーチである新山に反発する部員も出た。しかし井上や米須が両者の間を取り持ち、少しずつ信頼関係を育んでいき、最後は「1つになればどこにも負けない」と思えるチームになった。

米須は、チームの成長を振り返る。

「選手は我の強いやつが多いから、色々思うことを言うんですよ。試合に出られなくて新山に不満を持つ選手もいましたし、新山自身もいろんなことに悩んでいて。自分は新山と高校から一緒なので話を聞いてあげて、選手には『力のある選手がいっぱいいるから迷ってるんだよ』とフォローしたり。新山の『自分の仕事ができた選手は次もチャンスを与える。できなかったら次の選手を出す』というやり方を理解しだしたら、チーム内での競争がすごく激しくなりましたね。練習から本当にバチバチ。去年までは6~7人くらいしか試合に出ていなかったけど、今年は10人くらいになりました」

学生主体のチームを作り上げ、インカレではMVPに輝いた(撮影・井上翔太)

周りに目を配ることができ、性格的にも落ち着いたメンバーが多かった4年生は卒業を控える。「はしゃいでて『アレ』なやつが多い」と米須が笑う3年生が最上級生になる来シーズンは、またカラーが異なるチームになりそうだと言う。

「4年生が一気に抜けるので大変だとは思うんですけど、頑張ってほしいですね。2連覇は自分たちにしかできないことなんで。今年とはオフェンスのスタイルが結構変わってくると思うんで、そこは見どころというか、面白いチームになると思います」

川崎ブレイブサンダースで早速残したインパクト

インカレ閉幕から約10日後に川崎ブレイブサンダースへと合流した米須は、加入直後から即戦力ルーキーとして大きなインパクトを発揮している。

合流4日目、2試合目の出場となった茨城ロボッツ戦(ゲーム2)でいきなり10アシストをたたき出し、6試合目のファイティングイーグルス名古屋戦(ゲーム2)では初先発で31分のプレータイムを獲得。6つのアシストなどで勝利に貢献した。

デビュー戦となった茨城戦(ゲーム1)は、まだコミュニケーションが少ない外国籍選手からなかなかボールをもらえず、出場時間も5分に満たなかった。しかし、翌日のゲーム2で非凡なパスセンスとバスケットボールIQを見せつけ、すぐに信頼を勝ち得た。

インカレ閉幕の約10日後にはチームに合流し、即戦力ルーキーとして活躍(©B.LEAGUE)

この試合、米須のロングパスからいくつもの速攻を成功させたロスコ・アレンは、次のように話していた。

「前のチームにいたときに(特別指定選手としてプレーしていた)彼を見たことがあるので、ロングパスのスキルがあって、すごいビジョンを持っていることはわかっていた。今日も彼は、僕が速攻に走っているのを見逃さずにパスをくれた。だからもっと走り続けなきゃと思えたんだ。こないだの練習後、サッシャ(・キリヤ・ジョーンズ)も『レオトはすごいね。いいパスをする。彼はそういう能力を持ってる』って言ってたよ」

川崎は現在12勝25敗で中地区最下位。米須自身も試合を重ねるにつれて、密着マークを仕掛けられたときの対応や、加入時から課題に挙げていたアウトサイドシュートの精度など、乗り越えなければいけない壁も見えてきた。

しかし米須は、このチャレンジングな状況をルーキーらしく楽しもうとしている。

「加入前から『自分が入ってチームを勝たせたい』っていう思いは強かったですけど、『やらなきゃいけない』とは思わないようにしています。練習中、ネノさん(ロネン・ギンズブルグヘッドコーチ)やマシュー(・ライト)から『全部のプレーを正解にしようとしている』って結構言われたんですよ。ミスしないようにやってるっていうことだと思うんですけど。とにかく思いっきりやろうと思っています」

「とにかく思いっきりやろうと思っています」とルーキーらしく楽しむつもりだ(©B.LEAGUE)

インカレ優勝後も、余韻に浸り続けた

インカレ優勝を収めた夜、米須らは上級生たちとともにささやかな祝勝会を行ったという。東山高校時代の恩師であり日大OBでもある大澤徹也監督から、大澤監督の現役時代にはビールかけをしていたと聞き、ちょっぴりうらやましい思いもあったと笑った。

「試合が終わった後のバスの中も、その次の日も、次の次の日とかも、余韻に浸ってたっていうか。めっちゃ気持ちいいな。優勝するっていいなあって。プロの舞台でもまたそういう景色を見られたらなって思っているし、大学日本一になれたことで『見られる』って証明された。そう思っています」

米須がビールかけの喜びを心ゆくまで味わう日を、楽しみに待っていたい。

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