ラクロス

特集:駆け抜けた4years.2025

明治学院大・小峰拓真「4年間で人生を変えてもらった」 オリンピック代表狙う注目株

ラクロスの日本代表入りを目指す明治学院大学の小峰拓真(撮影・浅野有美)

昨年12月に行われたラクロス全日本大学選手権大会の男子で、初出場ながら準優勝を果たした明治学院大学。チームの柱としてメンバーを牽引(けんいん)したのが、4年のAT(アタック)小峰拓真(明治学院東村山)だ。チームのオフェンスリーダーを務め、21歳以下日本代表に選手されるなど活躍した。大学でラクロスに出会い花開いた才能は、2027年の世界選手権、2028年のロサンゼルス・オリンピックに向けてさらなる高みを目指している。

「まっすぐにのめり込めるものができた」

小峰は高校まで野球少年だった。中学では卓球部に所属しながらリトルシニアでプレー。高校3年の夏に引退後、運動能力の高さを買われて人数不足だったラグビー部の助っ人として半年ほど活動した。

明治学院大に進学し、高校時代の野球部の先輩に誘われてラクロス部の体験会に参加したところ、すぐさま競技の魅力にとりつかれた。「心機一転、新しいスポーツを頑張ってみようと思いました。荻原史暁ヘッドコーチ(HC)が、『日本一を目指そう』『頑張ったら誰でも日本代表になれる』と、まっすぐな目で熱く言っていて。本気でラクロスに向き合おうと決めました」

ラクロスで日本代表。目標は決まったものの、入部当初はコロナ禍。試合が制限され、「自分がどれぐらいうまいのか、他大学の選手がどれぐらいうまいのかわからなかった」と言う。不安に駆られながらも自分を信じ、筋トレや壁打ち、シュート練習などに明け暮れた。「もともと一つのものにハマるとやり込む性格だったんですが、野球はそこまで好きになれず、ラクロスを始めてようやくまっすぐにのめり込めるものができたうれしさで、誰よりもうまくなりたいという気持ちでよく練習するようになりました」

努力が実を結び、才能はすぐに開花した。1年時の2月、他大学との合同練習会に参加した際、21歳以下日本代表を指導していた奥村祐哉コーチの目に留まった。日本代表が集う練習会への誘いを受け、同世代のトップ選手たちと練習する機会を得た。

メンバーは大学3、4年生が中心で、2年生は慶應義塾大学の藤岡凜大(慶應)と小峰の2人だけだった。高校からの経験者である藤岡と違い、小峰はまだまだ初心者。戦術の知識や試合の経験も少なく、必死で練習に食らいついた。

メキメキと成長し、2年時の8月にアイルランドで開催された「2022 World Lacrosse Men’s U21 World Championship」の日本代表に選出された。MF(ミッドフィルダー)として攻守で躍動し、目標の5位入賞に貢献した。「海外選手は全員体が大きくて、全然サイズが違うなと思いました。アメリカの大学の試合動画で見ていた選手が実際に代表としてプレーしていて興奮したのを覚えています」

大学でラクロスを始め、メキメキと力をつけた(撮影・浅野有美)

2部に降格、初めて味わった挫折

世界の舞台を経験した小峰は、代表活動を通して学んだ考え方や戦術を仲間に還元し、チームの底上げを図った。

だが順風満帆にはいかなかった。関東リーグ1部に所属していた明学大はシーズン終盤の入れ替え戦で敗退し、2部に降格した。「おごりがあったのかもしれません。2部という現実が受け入れられず、1週間ぐらい引きずりました」。競技を始めてから初めて味わう挫折だった。

入れ替え戦翌日はチームで長時間の反省会が行われた。「1部に戻ろう」と一致団結し、練習量を増やした。特に変わったのは試合後のミーティングだった。以前は1時間くらいだったが、練習試合ごとに3~4時間行うことが恒例になった。オフェンスとディフェンスのメンバーが一緒になって意見を出し合い、攻守の切り替えで隙(すき)をなくすなど総合力を上げていった。小峰はオフェンスリーダーとしてチームを引っ張った。

2023年度、明学大は2部Aブロックで全勝を飾り、入れ替え戦で勝利して1年で1部に返り咲いた。小峰は最上級生になり、チームスローガンに「轟(とどろき)」を掲げ、学生日本一を目標にシーズンをスタートさせた。

FINAL4準決勝で同点ゴールを決めた(撮影・松崎敏朗)

早大との激闘、4Qで執念の同点ゴール

圧倒的な実力をつけてきたつもりだったが、シーズン初めに行われた明治大学との練習試合で敗れ、出鼻をくじかれた。さらに関東七大戦でも優勝を逃した。そこでチームが奮起した。「このままで日本一になれるのか」。選手一人ひとりの意識が高まり、練習の強度がより上がった。「『明学が強かった』という歴史を作れるように、チーム全員が全国に行って優勝しようという意識を持ってやっていました」

練習試合で勝利を重ね、明学大は「ダークホース」と評判が立つようになった。7月からの関東リーグ戦ではAブロック5戦全勝で1位通過し、チーム初のFINAL4進出を果たした。

準決勝の早稲田大学(Bブロック2位)戦は激闘だった。

先制点を許し、リードを奪えないまま2-3で前半を終了。後半は明学大が先制するも再び早大が得点し、一進一退の攻防が続いた。第4クォーター(Q)で開始直後に小峰が得点したがまたも早大に返された。5-6のビハインドで残り時間は数十秒。小峰はDFの厳しいプッシュを受けながら執念のランニングシュートを放ち、土壇場で同点に追いついた。

サドンデス方式の延長戦にもつれ込み、第2ピリオドで明学大のMF赤毛丈真(3年、愛知)が決勝ゴールを決めて勝利した。「監督からは『小峰にボール渡して突っ込め』と言われて、とにかくゴールしようと必死でした。(同点ゴールを)決めた瞬間、監督やスタンドの観客が泣いてくれていて感動しました。自分もこういうところで決められるようになったと思えて。4年間で一番印象に残る試合でした」

決勝(FINAL)は慶應義塾大に敗れたが、関東2位で全国大学選手権への切符を初めて手にした。

早大相手に劇的な勝利を収め、笑顔を見せる小峰(中央、撮影・松崎敏朗)

次は日本代表入りへ「世界3強に勝ちたい」

全日本大学選手権は1回戦で九州大学、準決勝で神戸大学を破り、12月15日に東京・スピアーズえどりくフィールド(江戸川区陸上競技場)で開催される決勝に駒を進めた。「決勝はラクロスを始めてからずっと外から見ている舞台でした。その舞台に仲間と一緒に立てることは感慨深かったですね」

対戦相手はFINALで敗れた慶應義塾大だった。第1Qで上田大貴(4年、東北学院)が先制点を挙げたが、慶應義塾大のエースでライバルの藤岡に2点を返され1-2で第1Qを終了。2Qに入ると慶應義塾大が主導権を握り、明学大はゴールネットを揺らせず1-3で前半を折り返した。後半で逆転を狙ったが小峰がDFの厳しいマークに合うなど苦戦し1-6。4Qは上田がゴールを決めて一矢を報いるも、2-8で試合終了のホイッスルが鳴った。

「慶應には練習試合で負けたことがなかったのでいい勝負になると思っていたんですがポンポンと得点を入れられてしまいました。ですが、しっかり攻め込むことはできたかなと思います。やりきった気持ちでしたが終わってからじわじわ悔しさがきました」と振り返った。

初の全日本大学選手権で準優勝の快挙を成し遂げた(撮影・浅野有美)

1部再昇格から始まり、FINAL4に初進出、全日本大学選手権は初出場で準優勝を飾った。快進撃のシーズンで、チームスローガン通り全国に大学の名前を轟かせた。

小峰は卒業後も競技を続けるが、部員の半数以上が大学で競技を引退する。仲間と過ごした4年間はかけがえのない時間だった。「後輩たちは先輩にガツガツ絡んでくるタイプが多くて。距離感が近く仲が良かったですね。練習でしんどい毎日ではあったんですが、終わってみるとすごく楽しかったなって思います」としみじみと話す。

「大学時代の4年間で人生を変えてもらったと思います。ラクロスは自分の頑張り次第でうまくなれます。野球やサッカーで日本一を目指せるのは選ばれた人たちかもしれないけれど、そこでうまくいかなかった人たちが日本一を目指せる環境に身を置けるのがラクロスのすごいところだと思います」

ラクロスに出会って才能を開花させた小峰。自身の強みを「右手も左手も器用に使いこなして攻撃できるオールマイティーなところ」と分析する。4月からは社会人のクラブチームに所属する。個のレベルをさらに上げ、まずは日本代表入りを目指す。そして2027年に日本で開催される世界選手権、2028年のロサンゼルス・オリンピックに出場しメダルを狙う。「アメリカ、カナダ、ホーデノショーニーの世界3強に勝ちたいです」と意気込む。

日本ラクロス界の盛り上がりとともに、小峰の活躍ぶりからも目が離せない。

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