輝けなかった高校野球、みんなゼロからのアメフトに没頭 九州大学QB高木秀都

九州大学アメリカンフットボール部「パルーカス」は昨秋の九州学生リーグ1部で2年連続の全勝優勝を飾り、全日本大学選手権に進んだ。11月16日、初戦の2回戦で中京大学(東海)と対戦。九大のエースQBである高木秀都(4年、福岡県立門司学園)は左足のけがを抱えながら戦った。何度か相手のヒットを食らって倒れたが、そのたびフィールドへ戻ってきた。9-38の完敗で、選手としての大学フットボールは終わった。
会場を沸かせた鋭いパス
10月19日のリーグ第4戦は西南学院大学との全勝対決。しかし高木は序盤に左足の甲を痛めてしまう。バックアップQBの山縣肇(3年、灘)に託した。仲間たちが踏ん張ってくれ、24-21で最初の関門を突破した。続く11月4日のリーグ最終戦は3勝1敗の福岡大学と。先発QBの山縣が負傷し、高木は第3クオーター(Q)から出場した。31-14でリーグ2連覇を果たした。

そして迎えた全日本大学選手権2回戦。会場はパルーカスの面々が慣れ親しんだ福岡・春日公園球技場だ。中京大のヘッドコーチ(HC)は、2023年就任の大橋誠さん。かつて社会人Xリーグ・オービックシーガルズのHCとして通算19シーズンで6度の日本一に導いた人だ。アメフト経験者は関東や関西のチームに比べると少ないが、野球やサッカー出身のアスリートぞろいで、前評判では中京大が有利と見られていた。
ディフェンスからとなった九大。2プレー目で中京のエースRB松元奏キャプテン(4年、愛工大名電)にタッチダウン(TD)ランを決められた。0-7だ。続く九大のファーストシリーズ。ランを2回続けたが3ydしか進めず、自陣36ydからの第3ダウン7yd。QB高木はランのフェイクをしてすぐ右腕を振り抜く。右からポストで入ってきたWR大石賢(2年、須磨学園)に鋭いパスが決まり、敵陣へ入る。観客席の九大ファンが一気に盛り上がった。

やり返してくれたインターセプトを生かせず
そこから中村翔大(2年、八女)、亀井恵粋キャプテン(4年、福岡)、都地爽太(1年、松江北)と3人のRBに持たせてゴール前22ydからの第1ダウン10ydとなった。パス失敗で第2ダウン。ボールは右ハッシュだ。亀井がRBの位置から弧を描くように出て右サイドライン際を駆け上がる。マンツーマンカバーを敷いていた中京はDB河合輝空(そら、2年、南山)が亀井の動きをよく見ていてビッタリついた。九大QB高木がそこへ投げ、河合にインターセプトをされた。投げ捨てても自ら走ってもいい場面で、少し正直にいきすぎた。
ただ中京は自陣2ydからのオフェンス。九大ディフェンスが踏ん張れば、すぐチャンスが来る。中京の自陣24ydからの第3ダウン5yd。中央付近からの九大DLのラッシュが邪魔で、中京のQBには九大LB岩本龍之介(3年、八幡)がしっかり下がっていたのが見えなかったのだろう。LBの裏へ走り込んだレシーバーを狙ったパスは、岩本へストライク。やり返したインターセプトに、九大ファンの「ウォー」という大歓声が響いた。しかしゴール前37ydからの九大オフェンスは攻撃権を更新できずにパント。続くオフェンスで中京大に短いパス成功からの独走TDを決められ、0-14となった。

第2Qに入ってさらにTDを奪われて0-21。第2Q4分すぎ、中京のミスで九大が初得点。中京のパント時のスナップが「ホームラン」でエンドゾーンを越え、九大のセーフティーで2-21となった。
セーフティーの際はこれを喫したチームが自陣20ydからのキックオフ。続く九大オフェンスは自陣43ydからとなった。第1ダウンでパスを失敗した際に高木がもんどり打って倒れ、サイドラインへ。代わりに出てきたQB山縣は、もう足を引きずっている。多くは望めないと思いきや、右のナンバーワンのWR大石へフェイドのパスをヒット。ゴール前21ydまで進めて高木と交代した。続くプレーも右に単騎で出た大石へのパス。大石は内へ切れ込むフェイクから外へルートをとり、DBのマンツーマンカバーを外す。高木の背中側から相手DLが迫る。タックルを受けながら投じたボールは回転こそ乱れたが、大石の腕に収まった。初TDで9-21としたが、そのあとは地力の差が出て、パルーカスは得点できなかった。

高木は26回パスを投げて9回の成功にとどまった。ゲインは112ydで、二つのインターセプトを食らった。18番は最後の整列時に涙をこらえていたが、観客席に目をやると我慢しきれなかった。「この試合はもちろんなんですけど、シーズンを通じてもっとやれたなという悔しさが一番ありました。もっとこのメンバーでやりたかったなっていう気持ちで、泣いちゃったっすね」と振り返った。
希望通りQBとなり、いきなり2番手に
おそらくは、ラグビーをしていた4歳上の兄が買ったのだろう。北九州市内の高木の自宅には漫画の「アイシールド21」があった。野球少年でありながらそれを読んでいたから、アメフトは比較的身近なスポーツではあった。高3のときは外野手をやりながら、たまにピッチャーも。ただ、野球では思ったような活躍ができなかった。大学受験はなんとなく第一志望だった九大だけを受けて前期で合格。工学部のⅣ群に入り、いまは船舶海洋工学科で学んでいる。
入学を前に野球部かアメフト部に入ろうと考えていた。「真剣にやってる部活じゃないと4年間をムダにするような気がして」。新歓の時期、近い方から回ろうと思って伊都キャンパスに行った。球場は最も大きな中央西ゲートから一番遠くにあり、アメフト部のグラウンドはその手前にあった。しかし、その時期はアメフトのグラウンドが改修中で、ゲートからほど近いグラウンドで練習していた。パルーカスの面々に吸い込まれるようにして行ってみると、練習の雰囲気がよかった。しかも前年の秋に九州リーグで優勝していて、連覇を狙うチームだという事実にひかれた。しかも九州だと、どの大学もほぼ全員が競技経験ゼロからのスタートで競い合うと言うではないか。強豪校出身の選手たちに挑戦する立場の野球とは、あまりにも状況が違う。自分にもやれる。高木の心は決まった。

投げることには自信がある。希望通りにQBになった。それもQBには3年の先輩一人しかいなくて、1年生の中から2番手を育てないといけない状況だった。1年の秋のリーグ戦から、点差が開くと試合に出してもらえた。どんどんQBの面白さに、アメフトの奥深さにのめり込んでいった。一方で授業の出席がおろそかになってしまい、2年から3年に上がるところで足踏みした。だから実際の学年は、大学5年目となるこの春から4年生だ。
ややこしいので、また「アメフト学年」に戻る。先輩が抜け、3年からスターターに。2年まではどっしり構えたパサータイプを志向していたが、走って投げてというスタイルに変わっていった。昨秋はエースQBとしてプレーし、入学以来初めて九州大学リーグ1部を制覇。チームとして10年ぶりに出た全日本大学選手権は初戦で福井県立大学(北陸)に圧勝したが、前人未到の甲子園ボウル6連覇を果たすことになる関西学院大学(関西)に0-49と大敗してシーズンが終わった。
オフェンスを組み立てる作業が楽しかった
ラストイヤーはオフェンスリーダーを務めることになった。見渡すとレシーバー陣が手薄で、高木は新2年生のRBに目をつけた。それが中京大戦でチームトップの5キャッチで108ydゲイン、1TDと活躍した大石だ。高木が言う。「大石にはレシーバーの適性があると思ってました。バックは人数が多かったこともあってコンバートを持ちかけたら、『やってみたいです』と前向きに応じてくれました」。そして高木の見る目に間違いはなかった。

NFLやカレッジの動画をいっぱい見て、本場のプレー集も購入して勉強した。まずは九州リーグのライバルがやってくるディフェンスに有効なプレーから準備していった。オフェンスを組み立てていく作業がたまらなく楽しかったという。
留年しているため、最後の秋のシーズン中も1~4限は結構授業が詰まっていた。午後4時40分ごろにグラウンドに出てオフェンスのメンバーとプレーを合わせた。この時間を使って、高木自身プレーを考えた際のニュアンスを細かく伝えた。6時から8時半までが全体練習で、9時から11時半ぐらいまでかけてミーティングという日々だった。
入部当初は29人いた同期は、最後には11人になっていた。「だいぶ少なくなってしまったんですけど、残ったのは選手としてもいいヤツばっかりやし、性格的にもいいヤツが多くて楽しかったです。後輩にも恵まれたし、アメフト漬けで最高やったですね」。かみしめるように言って、高木が笑った。

コーチとしてパルーカスを支える
学業面で4年生となる2025年度もコーチとしてパルーカスに深く関わっていくつもりだ。選手層を厚くするため、一人でも多くの新入生に入ってほしい。高木は言う。「足が速いとか、体がデカいとか、キャッチがうまいとか、一つでも強みがあれば、僕らがそれを生かして活躍できる戦術を考えていきます。大学から始めても優勝を狙えるスポーツなので、ぜひ入ってください」
九大アメフト部の公式ホームページに「We are PALOOKAS」と題した文章がある。その一部を抜粋する。
未知だったスポーツ アメフトは教えてくれた
勝利への渇望 不断の挑戦
仲間と高め合うこと
自らの一部となったアメフトは考えさせてくれた
自分に何ができるのか
どんな人間になりたいのか
高校野球では輝けなかった高木にとって、まさにそんな時間だったのだろう。プレーの面で少々後悔を残しつつ4年間は終わった。そして、大好きなパルーカスで後輩たちを支えるための5年目が始まった。

