法政大学の鈴木楽人、ラストダンスは先輩・青木祐奈が振り付けた特別プログラムで

2月に行われた「明治法政 on ICE 2025」で、法政大学4年の鈴木楽人(駒場学園)は1日限りの特別なプログラムを披露した。振り付けを担当したのは、MFアカデミーの先輩・青木祐奈。感謝の思いを込めて滑り切った。現役を引退する鈴木は「仲間に恵まれました」と競技人生を振り返った。卒業後は指導者の道を目指す。
動画を見て研究、スケーティングに注目
鈴木がスケートを始めたのは小学校高学年の時。もともと妹の菜々音(ななね、専修大学2年、目黒日大高)がスケートをしていて、鈴木が遊びで滑っていると、母親がほめてくれた。それがうれしくて本格的に習うようになった。
高校3年までは、都内の自宅から電車で1時間かかるシチズンプラザ(東京都新宿区、2021年1月閉館)に通っていた。施設閉館より前にアクアリンク千葉(千葉県千葉市美浜区)に拠点を変更したが、コロナ禍でリンクが使えなくなり、江戸川区スポーツランド(東京都江戸川区)へ。そして法政大に進学した2021年の春、三井不動産アイスパーク船橋(千葉県船橋市)を拠点とするMFアカデミーに移籍した。
競技開始年齢は比較的遅いが上達は早かった。「母方の祖母がスケートを好きで、滑っている自分たちを応援してくれました。できることがどんどん増えて楽しかったですし、どんどんスケートに興味を持つようになりました」

時間さえあればスケートの動画を繰り返し見て研究した。特に好きなのはスケーティングが上手な選手だ。中国の閻涵(ハン・ヤン)や米国のジョシュア・ファリス、ジェレミー・アボット、韓国の車俊煥(チャ・ジュンファン)、MFアカデミーの先輩、青木祐奈……。「動画では選手の足元をよく見ますね(笑)。エッジのイン・アウトが明確になっているかとか、ステップシークエンスとか。(青木)祐奈ちゃんはめっちゃめちゃうまいなって思います。ジャンプだけでなくスピンも表現の仕方も」と笑顔で話す。
“中庭マジック”でジャンプが上達、全日本に出場
MFアカデミーでは中庭健介コーチらに師事し、基礎からみっちり指導を受けた。みるみるうちにジャンプの質が改善され成功確率が上がった。
「中庭先生は理論的に教えてくれます。このジャンプを跳ぶためにこれをするといった要素が何個かあり、その課題をどんどんクリアしていく感じです。言われた通りちゃんとやっていたらできるようになる。“中庭マジック”ですね」
中庭コーチは、選手たちに自分の考えを言語化させることが多いという。「自分ができたこと、できなかったことをアウトプットすることで頭の中が整理されます。次に跳ぶ時もそれを意識できていたと思います」

羽生結弦さんにあいさつ「鳥肌が立った」
ジャンプが安定して得点が出るようになり、移籍して1年足らずで全日本選手権出場にたどり着いた。
2021年12月の全日本の会場は、2万人近い観客を動員するさいたまスーパーアリーナ(埼玉県さいたま市)だった。「会場が広くて、全面に観客がいるし、テレビカメラが何台もあるし……。普段の試合では味わえない空間でした」
羽生結弦さんや宇野昌磨さんらオリンピック出場を狙う選手も参戦し、トップレベルのオーラを肌で感じ取った。「東日本では戦えない選手と一緒に試合をできたことがいい思い出になりました。更衣室で羽生結弦選手にあいさつした時は鳥肌が立ちました。『こんにちは』と言ったら、『こんにちは』と笑顔で返してくれました。テレビや動画でずっと見ていた人を目の前で見られてヤバイってなりました」
得点を待つキス・アンド・クライも装飾が華やかで特別感があった。
全日本出場は1回だけだったが、日本学生氷上競技選手権大会(全日本インカレ)や国民スポーツ大会(国スポ)など主要大会を経験した。
とくに全日本インカレは3年連続で出場し、大学3年時には吉岡希(3年、西宮甲英)、門脇慧丞(4年、岡山理大附)とともに団体優勝を飾った。ラストの全日本インカレでも団体2位に貢献した。

青木祐奈「丁寧に一つひとつ滑ってくれた」
2月1日、鈴木は学生主催のアイスショー「明治法政 on ICE 2025」に出演した。卒業生が感謝の気持ちを伝える場で、この日のために特別なプログラムを用意した。
シーズン中に使用したプログラムには達成感があり、エキシビション用の曲を作ろうと思っていたところ、同じリンクで練習する青木が振り付けを快諾してくれた。
青木は振付師の仕事に興味があり、これまでも自分や他の選手のプログラムの振り付けを手がけていた。曲名は青木と一緒に決めた「She」。今年1月の国スポ前に急ピッチで作り上げた。
青木は、「She(彼女)を恋しがる曲だったので、恋しがる対象を今まで応援してくれた皆さんにして、感謝の気持ちが伝わればいいなと思い作りました」とプログラムに込めた思いを明かす。鈴木も「感謝の気持ちと、鈴木楽人というスケーターが素敵だなって思ってもらえるように」と、心を込めて演技した。
ラストダンスを終えた鈴木は「祐奈ちゃんが自分のいいところを出し尽くしてくれました」とほほえむ。演技を見守った青木は、「楽人が国スポに出場していたのであまり練習できず、私も多くは見てあげられなかったので少し心配でしたが、丁寧に一つひとつ滑ってくれて涙が出ました」と話した。

指導者の道へ「愛される選手を育てたい」
競技生活は大学で一区切りする。「シチズンもMFも高校も大学も、すごく仲間に恵まれました。法政大のスケート部は仲が良いのがいいところ。大学4年間、満足です」とさわやかに語る。
卒業後は指導者の道を目指す。
「(シチズンプラザで)鳥居直史先生に習っていた時、スケートの面白さを知ることができました。スケートの先生を本気でやりたいと思ったのは中庭先生の指導を受けてからです。考え方の幅が広がって、さらにスケートが面白くなりました。スケートが好きで、いろんな選手の演技を見たり研究したり、人と触れ合うのも好きなので自分に向いていると思っています」
理想の指導環境にMFアカデミーを挙げる。「アットホーム感があって、選手とのコミュニケーションが活発で、選手が先生に聞きやすい雰囲気がある」と説明する。
MFアカデミーには、渡辺倫果(三和建装/法政大学4年、青森山田)や中井亜美(TOKIOインカラミ、勇志国際高校1年)、世界ジュニア王者の中田璃士(りお、TOKIOインカラミ、中京大中京高校1年)など世界で戦う選手が集っている。鈴木が間近で見てきたトップレベルの技術や練習の仕方を、子どもたちに伝えていきたいという。
「スケートが上手な選手、みんなから愛される選手を育てたいです」と目を輝かせる。
次は「鈴木楽人コーチ」として全日本のキス・アンド・クライに座る姿が見られるかもしれない。
