ラクロス

特集:駆け抜けた4years.2025

早稲田大学の柏原陽菜乃主将、全日本学生選手権で悲願達成 挑戦が紡いだ日本一への道

全日本大学選手権準決勝でプレーする柏原陽菜乃(撮影・飯田諒)

8年ぶりのFINAL4進出に始まり、関東制覇、学生日本一と「創部史上初」を次々と成し遂げた早稲田大学ラクロス部女子。その中心にいたのが、主将であり正ゴーリーとしてチームを牽引(けんいん)した柏原陽菜乃(4年、大妻多摩)だ。彼女の10年間にわたるラクロス人生は、苦悩と挑戦の連続だったーー。

主将に立候補「このまま終わるのは違う」

ラクロスを始めたのは中学1年生の時。初心者ばかりの環境と、先輩たちの姿にひかれて入部した。ゴーリーを選んだのは「体験で結構止められたから」という軽いものだったが、当時のチームには他にゴーリーがいなかったため、中学2年の夏から高校生とともにトップチームで試合に出場するようになった。実力不足を痛感しながらも、中学3年、高校1年と全国大会を経験。しかし、最後の全国大会はコロナ禍で中止となり、不完全燃焼で高校ラクロスを終えた。当初、柏原は大学でラクロスを続ける気はなかったという。しかし、集大成と位置付けた最後の大会に出られなかった無念が彼女を突き動かし、早大で競技を続けることを決意した。

早大では同期唯一の経験者としてチームを引っ張るも、意見の調整や戦術の周知に苦戦。さらに、6年間の経験があるからこそ、自分がこれ以上成長できるのかという葛藤を抱えながらプレーをしていた。2年生ではトップチームに昇格し、先輩の背中を追いかけながら充実した1年を送るが、3年生では試合出場のチャンスが増えたものの、先輩を超えられないもどかしさに悩んだ。転機は2023年度の関東大学リーグ戦(リーグ戦)最終戦・法政大学戦。FINAL4進出が絶たれた状態で迎えた試合に勝利したものの、もっとできることがあったのではないかと後悔が残った。それまでの柏原は特段役職もなく、「いじられキャラ」としてチームを明るくできればいいとの思いでいたが、「このまま終わるのは違う」と主将に立候補。『柏原組』として最後の1年を迎えた。

創部史上初の関東王者に

目標は「学生日本一」、すなわち全日本大学選手権(全学)優勝。「FINAL4進出」という現実的な目標の方が良いのではないかとの声もあったが、前年度のスタメンが多く残るチームの可能性を信じた。しかし、新体制初戦の六大学交流戦・立教大学戦で4-17の大敗。伝統の早慶戦でも逆転負けを喫し、理想と現実のギャップに苦しんだ。「自分が主将になったせいではないか」、そんな不安が頭をよぎる日々。それでもチームの技術力を信じていた柏原は、マインドセットの強化に重きを置いた。早慶戦では、点差を詰められた際のメンタルが課題となったため、追いつかれたりビハインドの状況だったりした際でも冷静に戦えるメンタル作りに取り組み、チーム内で目指す方向にズレを感じた際には、意識統一のためミーティングを実施。日本一に向けて、全員の歩みを揃(そろ)えた。

リーグ戦が始まると、柏原組は目覚ましい成長を見せた。初戦、第2戦と危なげなく勝利を収めると、前年度全学準優勝校である立大との第3戦では、「相手を上に見るのではなく、戦う相手だとマインドを持ってくる」ことを徹底し、劇的な逆転勝利。第4戦も勝利し、8年ぶりのFINAL4進出を果たした。そしてFINAL4・中央大学戦ではアタックとディフェンスが補い合うことでチームのリズムを作り上げ、日本一挑戦への切符をつかんだ。関東王者を決めるFINAL・明治大学戦。リーグ戦で唯一敗北を喫している明大に対して、「ただ明治にリベンジしたい」。その思いを胸に臨んだ柏原は、ここぞの場面でセーブを決めてチームを鼓舞。最後は後輩にゴールを託して懸命に声をからした。チームは最後までリードを保ち、創部史上初の関東王者となった。

リーグ戦・FINALでセーブに臨む(撮影・廣野一眞)

念願の学生日本一「様々な人に支えられた」

念願まであと3勝。柏原組はついに全学の舞台に足を踏み入れた。初戦の東北大学戦に快勝するも、準決勝・南山大学戦ではスカウティング材料のない中、試合中の対応力を試される。勝利を収めたものの、圧倒しきれなかった悔しさが残った。準決勝後、決勝のスカウティングを兼ねて別会場で行われた明大と関学大の準決勝を観戦した。「勝ちたい」「早稲田の集大成を見せたい」という強い思いがチーム全体に広がり、「完全燃“勝”」をテーマに決勝の舞台に臨んだ。試合は前半リードを許すも、仲間の劇的シュートから勢いを味方につけ、文字通り相手を「圧倒」して日本一を達成することができた。

全日本大学選手権初優勝を決め、抱き合い喜ぶ『柏原組』(撮影・飯田諒/廣野一眞)

「様々な人に支えられた」主将としての1年間。歴代主将のような、威厳のあるリーダーではなかったかもしれない。それでも、持ち前の明るさでチームの士気を高め、雰囲気作りに努めるとともに、要所で意識を統一する働きかけを行い、自らのスタイルで勝利へと導いた。楽しいことも苦しいこともたくさん味わった4年間。「やり切った」という言葉が、彼女の努力の全てを物語る。10年間のラクロス人生は終わるが、その挑戦の軌跡は、後輩たちに新たな道を示した。日本一という結果を手に、柏原は胸を張ってフィールドを去る。

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