陸上・駅伝

特集:第50回全日本大学駅伝

山藤篤司 神大史上最速ランナーの意地

箱根駅伝予選会で、山藤篤司は個人16位だった(撮影: 大島佑介)

来たる全日本大学駅伝は、神奈川大4年の山藤篤司(やまとう、愛知)のベストレースにはならないかもしれない。山藤自身も、「やってみてのお楽しみですね」と、目標は明言しなかった。ただ、山藤の4年間の成長と、今後の可能性を示す走りをする可能性は高いのではないか。

トラックでは鈴木健吾以上の評価

山藤は大学駅伝の名門・神奈川大において、歴代ナンバーワンのトラックランナーと言われている。10000mの神奈川大記録は、2年前の7月に鈴木健吾(現富士通)が15年ぶりに更新した28分30秒16だった。鈴木は昨年の全日本大学駅伝でアンカーとして東海大を逆転し、神奈川大を20年ぶりの優勝に導いた大エースだ。

鈴木のその記録を、4カ月後に28分29秒43と更新したのが当時2年生の山藤で、それを昨年28分25秒27まで縮めた。「1年生のころは、28分30秒は速いな、と感じていましたが、僕も健吾さんと同じメニューを、同じ設定タイムでやっていました。健吾さんは試合になると強さを発揮されて、ハーフマラソンなんかは本当にスゴかった。ただトラックなら僕の方が強いと、大後(栄治)監督も言ってくれてました」

今年は10000mの記録を更新できていないが、7月に28分35秒41で走ったレースでは、大迫傑(ナイキオレゴンプロジェクト)に9秒差と善戦した。言わずとしれたマラソン日本記録保持者で、5000mと10000mでもリオ五輪代表だった日本のトップランナーだ。

ところが駅伝で山藤は、これまで区間賞を一度もとっていない。昨シーズンの三大駅伝はすべて1区を任されたが、出雲は2位、全日本は4位、箱根は6位。距離が長くなるに従って区間順位が落ちたのは、距離への適性もあるが、山藤の調整パターンにも問題があった。駅伝の間にトラックレースにも出場して好記録も出していたが、連戦を上手に乗りきれなかった。

今シーズンは5月の関東インカレ、大迫と走った7月の10000m、そして10月13日の箱根駅伝予選会(16位・1時間3分2秒=ハーフマラソン)とレースを絞ってきた。「試合で力を出し切ってしまうタイプで、疲れがそれなりの間は残ってしまう。監督からそれを指摘されて、今年から重要なレースに絞って出場するパターンに変えました」。箱根駅伝予選会から全日本まで3週間。完全にピークを合わせるのは難しいが、この1年間で地力が上がっていれば、昨年より良い結果を出すことができるかもしれない。

箱根駅伝予選会の疲れが全日本にどう影響するか

神奈川大は箱根駅伝予選会に出る選手と、10km前後の区間が続く全日本の前半区間を走る選手では、練習パターンを分けて準備してきたという。山藤は箱根駅伝予選会でもタイムを稼ぐ役割を果たしたが、本来はトラックのスピードランナー。昨年までと同様に前半区間でチームを流れに乗せる役割を担うかもしれないし、20kmに近い距離の7、8区に登場するかもしれない。「去年優勝した全日本ですが、今年はシード権をとることを目標としています。それは最低限の目標で、まあ、やってみないとわかりませんが、戦えるかもしれませんし……」。山藤の語尾がはっきりしない。

今年の戦力を考えたら、上位を目標にしたらプレッシャーになる。だが、可能性がないとも言い切れない。前回優勝校キャプテンの心中を、簡単な言葉で表現することはできないのだろう。

4年間で人間的にも成長

最後の駅伝シーズンを前に山藤は、学生競技者としての4年間をどう感じているのだろうか。「短かったですよ、この4年間は。いろいろなことがありましたが、今振り返れば、あっという間だった気がします。いい経験ができて、競技者としてだけでなく、人間としても成長できたと思います」

そう言った後に、山藤の方から「高3の全国都道府県対抗男子駅伝で、僕がたすきを投げちゃって、失格したのはご存じですか」と質問してきた。愛知県チームの1区で区間上位が期待されていたが、最後はフラフラになって中継所前で倒れてしまった。2区の走者にたすきを投げて中継し、2区以降の選手も最後まで走りきったが、愛知県チームは失格になった。極限状態の中で思わずやってしまったことだが、山藤は自身の未熟さを責めた。

「今年の都道府県駅伝に3年ぶりに出場させてもらいましたが(最長区間の7区で区間10位)、高校のときの恩師が自分のいないところで『山藤は人として成長した』と話されていたそうです。大学での4年間は、自分にとって無駄ではなかったと感じられました」

スポーツは身体能力だけでなく、メンタル面も大きく影響する。レベルの高いトレーニングをやるには日頃の生活を律する必要があるが、そこにストレスを感じているようでは長く続かない。チームメイトや指導スタッフといい関係を構築できれば、ストイックな取り組みも当たり前の感覚でこなすことができる。

卒業後は実業団に進み、まずはトラックで日本代表を目指す

駅伝で自身の成長を実感した山藤。卒業後は実業団チームに所属し、さらに高いレベルで戦うことになる。当面はトラック種目で日本代表となることが目標だが、将来的にはスピードを生かしてマラソンでも世界と戦いたいと考えている。「神奈川大の4年生で、実業団に入るのは僕だけなんです。続けられない同期の分も、結果を残さなければならない。『ニューイヤー駅伝は絶対に応援に行くから』と、同期からは言われてます。いいところを見せたいですね」

最後の学生駅伝シーズンをいい形で締めくくれば、次のステージへ思いきり挑戦できる。山藤の思いが、全日本から始まる神奈川大の駅伝シーズンに、どんな形で現れるのだろうか。

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