野球

特集:慶應野球部女性主務の日記

私たちは「FAMILY」になった 慶應野球部 小林由佳

優勝をかけたビッグゲームを前にして(撮影はすべて松嵜未来)

硬式野球の東京六大学秋季リーグ戦は法政大の優勝で幕を閉じた。慶應義塾大は最終週の早慶戦で勝ち点を奪えば46年ぶりの3連覇だったが、1勝2敗で偉業ならず。4years.編集部は東京六大学史上初の女性主務である慶應の小林由佳さん(4年、慶應女子)にお願いして、秋のリーグ戦のあいだ、日記の形で思いを綴(つづ)ってもらってきた。最終回は早稲田大との3試合についてお届けします。

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10月27日(土) 早稲田大学1回戦

●早稲田000000001…1
○慶 應00000210×…3

あ、抜かれた。と思った瞬間、瀬戸西のナイスプレーで試合終了。最後の最後までドキドキだったが、よく一戦目を取ったなと試合後に思った。ずっとここ2週間で早稲田に勝つための準備をしてきた。合宿所に行けば常に私も早稲田を意識していた。絶対に“春の借りは返す”と。

今シーズン好調のエース対決は予想通り中盤まで投手戦が続く。なかなか点が入らない中でもじりじりと攻め続ける。そしてようやく6回裏に無死満塁の好機を作ると、押し出しと嶋田の適時打で2点を先制! 7回裏にも追加点を挙げて、小島投手をマウンドから下ろした。しかし9回表に早稲田大学の執念で1点を返され、「紺碧の空」の大合唱で球場が揺れる。これが野球、といったところだったが最後まで一球に集中した結果が実を結んだ。本当に髙橋佑樹に助けられているシーズンだと思う。その分明日の二戦目では、それ以外の投手が頑張らないといけない。いや、頑張ってくれる。

ここまでは春と同じ。9勝では春を超えたことにはならない。本当に慶應が強いと言われるなら、いままで苦しんできた二戦目を取って、連勝で優勝を決めること。日曜日、多くの人の声援の中で勝ちきり、応援してくださる皆様とともに3連覇の喜びを分かち合いたい。

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10月28日(日) 早稲田大学2回戦

●慶 應010020101…5
○早稲田00100500×…6

そう簡単に野球の神様は3連覇させてはくれない。そう感じた試合だった。

中盤までいつも通りの接戦。しかし、6回裏に相手の意地に捕まった。そりゃ早稲田にだって慶應に負けたくないという思いがある。こちらもじりじりと点差を詰め、最後の最後まで諦めずに戦った。あと一本、その差だった。

でも思い出してほしい、46年前もそうだった。三戦目までもつれた慶早戦は、当時のエース萩野先輩が、神がかった投球をして3連覇を達成したのだ。明日のために今日の試合があったと思えば、なんてことはない。投手陣が神がかった投球をして、野手陣が1回でも多くホームを踏んで、勝つ。

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29日(月) 早稲田大学3回戦

○早稲田000020012…5
●慶 應000220000…4

TEAM2018最後のバッターは主将・河合となってしまった。最後の最後まで死力を尽くした選手たち。あと1点守れれば、あと1点取っていれば、そういう思いもあったが、私は試合終了の瞬間、悔しさと同じくらい、このチームで戦い抜いたことを誇りに思う気持ちがあった。

私が入部したのは2015年4月。女子校時代の先輩を訪ねて第一合宿所に足を踏み入れた時からもう3年半が経つと思うと、信じられないくらいあっという間だった。1年生の時の4年生はとても強くて、私たちが3年経ったらこんなになれるのかなと思っていたけれど、あの時思い描いていた最上級生の姿以上にこのチームは”FAMILY”となったと思う。

とくに最後の一年間は常に「史上初の女性主務」の肩書とともに歩んできた。主務でなかったら今こうして手記を書いていないかもしれない。大久保監督、林助監督でなければ任せてもらえなかったかもしれないし、周りの声もある中で監督が私の背中を押して、いつも味方になってくださったから、突っ走ってこられた。

初めはプレッシャーや重責に感じることも多く、こんな私でチームを勝たせられるのか、もし負けたら「野球を知らない人がベンチに入るのはどうか」と言われるかもしれないと悩んだこともあった。しかし、27年ぶりの秋春連覇、世界大会初優勝、そして3連覇まであと少しのところまでみんなに連れてきてもらった。そのほかにも全早慶戦で沖縄と岐阜に行ったり、慶大としても初めての地でのキャンプ運営を2回も任せてもらったり、オールスターで長野県へ行ったり。このチームの主務にならなかったら経験できなかったことが、沢山ある。ましてや一大学生としてここまで多くの経験や出会いに巡り合わなかったと思っている。このチームの一員で入られたことに感謝したい。

私にとって大学野球とは「人生最後の青春」。技術力だけでない、ありえないミラクルが起こる場所がそこにはあって、どんな選手にも、出場していない選手にも一球にかける思いがあって、数々のドラマが生まれる。TEAM2019は「よくここまでやった」というチームではなく、この経験を乗り越えて、さらにたくましく成長して日本一を達成してほしい。

これから私は社会人としての道を歩んでいくことになる。職種柄、野球やスポーツに関われるチャンスがあるので、この4年間の経験を生かしてスポーツ界に恩返しができるように、より一層邁進していきたい。そして過去にすがるのではなく、もう一度別の形で日本一を目指せる仲間と出会いたいなと、強く思う。

拙い文章力で大変恐縮でしたが、このような形で連載のお話をいただいたこと、4years.編集長の篠原様にこの場を借りて感謝申し上げます。本当にありがとうございました。そしてこれからも大学野球を何卒宜しくお願い致します。

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この1年、慶大の主務である小林さんは、記録員としてベンチに入ってきた。
彼女は試合前と試合後、誰もいないベンチで、隅々まで見渡し、細かいゴミまで拾っていた。そして拾ったゴミは、上着の左ポケットに入れる。
そんな日々も、10月29日で終わった。
日記の形で書いてもらった文章を読んで、彼女も選手たちと一緒に戦ってきたのが、とても伝わってきた。時折出てくる強い言葉に、驚かされた。
大学スポーツは、選手だけでは成り立たない。裏で支える人たちのパワーが、チームを変えることがある。小林さんの日記の連載が終わり、「支える人たちのことも、しっかり伝えていかないといけない」、そんな思いを強くしています。
小林さん、ありがとうございました。
                       4years.編集長 篠原大輔       

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