関大キッカー三輪達也、「職人」の誇り胸に
アメリカンフットボールにはオフェンスとディフェンスのほかにキッキングという部門がある。試合開始や得点後のキックオフに、キックオフリターン。攻撃権を放棄するときのパントに、パントリターン。ゴールポストの間を通して3点を稼ぐフィールドゴール(FG)。アメフトの試合に勝つためには、ディフェンス、キッキング、オフェンスの順で大事だと言われる。
キッキングの部門にはスペシャリストが欠かせない。ボールを蹴る専門のキッカーとして、関大で活躍してきたのが4回生の三輪達也(舞子)だ。高校まではサッカー部で、アメフトを始めた関大では2回生からキッカー専任になった。最大の見せ場であるフィールドゴールは過去2年のリーグ戦で18回蹴って12回の成功。通算の成功率は66.7%で、最長は2回生のシーズンの48ydだった。
これらの数字を上回ってチームの目標である日本一に貢献するため、今年2月にはアメリカで武者修行。昨年から指導を受けていた「Japan Kicking Academy」のつてで、フットボールの本場で練習するチャンスを得た。元NFL選手から教えてもらったり、NFLを目指す選手たちとも練習できた。さらに、NFLに挑戦するため渡米していた社会人Xリーグのキッカーらとも交流。5日間で貴重な経験を重ねてきた。
5月の関学戦では52ydのロングFGに成功。「少し追い風だったので、届かない距離じゃないと思った」。余計な力を抜いて軽く蹴りだされたボールは、きれいにゴールポストの間を通過した。関大サイドのスタンドを沸かせたが、試合は負けた。「悔しい。キッキングでやられた」と気持ちをあらわにした三輪。そして、こう続けた。「秋は絶対にやり返す」。2011年から秋は負けっ放しの関学に対し、並々ならぬ覚悟がみなぎっていた。
「自分が決めてたら・・・・・・」
迎えた秋のリーグ戦は、初戦から見せ場が訪れた。龍谷大との一戦はRB吉田圭汰(3年、桜宮)の90ydキックオフリターンタッチダウン(TD)で同点に追いついた後、こう着状態に。そして試合残り3分を切ったところで関大はFGを選択した。キッカーはもちろん三輪。この日は33ydに失敗していた三輪だったが、勝負をかけた40ydのFGを決め、決勝点となる3点をもぎ取った。
第3節の勝利も三輪の活躍なしには語れない。2部から復帰してきた近大に対し、大苦戦を強いられた。オフェンスが攻めきれず、三輪に4度のFGが回ってきた。最初の33ydは決めたが、2本目の48ydを外してしまう。それでも「外した後からが、スペシャリストの力が問われるところ。あわてず後半に臨みました」と三輪。後半は2度とも決め、チームの開幕3連勝に大きく貢献した。
4勝1敗で関学戦を迎えた。春のリベンジを誓った相手だ。第1Qに22ydの先制FGを決めたが、TD後のトライフォーポイントのキック(1点)が関学にブロックされた。キックの弾道がやや低かった。三輪は引きずることなく、前半残り2分を切って回ってきた33ydのFGを決めた。勝ちきれなかったが、19-19の引き分けで甲子園ボウル進出の可能性を残した。
そして最終の京大戦。「目先の試合に勝つことが大事」と、三輪ら最上級生を中心にチームを引き締めて臨んだ。だが、序盤から苦戦。京大が伝統的に得意な中央のランプレーに手を焼き、ゲインを重ねられた。悪い流れがオフェンスにも影響したのか、要所でパスミスを重ね、流れをつかめない。三輪も52ydのロングFGを決められず、日本一への道が絶たれた。
「自分が決めてたら……」。三輪はスペシャリストとして、キックの職人として自ら責任を背負い込み、涙に暮れた。最後のシーズンはFGを12回蹴って9回の成功。成功率は過去2年を上回る75%だった。
アメフト未経験ながらチームの要として躍動し、日本一という目標に挑み続けた。悲願はならず、仲間には「東京ボウル頑張ろう」と声をかけた。関西3位となった関大は、12月9日に三輪の言った「東京ボウル」で関東2位校(11月25日に決定)と対戦する。
もう1試合残ってはいるが、悔しさと充実感を味わった関大アメフト部での4年間(4years.)は、三輪の長い人生に生かされるに違いない。