陸上・駅伝

特集:第95回箱根駅伝

東大・近藤秀一、箱根駅伝でつかむオンリーワン

12月11日の公開練習。小雨の降る中、近藤は淡々とメニューをこなした

東大の近藤秀一(4年、韮山)にとって、今年の正月は悲劇だった。箱根駅伝にオープン参加する関東学生連合の10人のメンバーに選ばれながら、直前でインフルエンザに。念願の箱根出場は果たせなかった。今年は予防接種を2回打った。医者には「2回打たなきゃいけない特別な理由でもあるの?」と不思議がられた。そう、あるんです。自室には加湿器を備え、「4度目の正直」への備えは万全だ。

同じ境遇の人の刺激に

12月11日、東大駒場キャンパスでの公開練習で、近藤は1200m5本のインターバルを1km2分55秒のペースで走った。麗澤大で学生連合の合宿を終えたばかりだったため、この日は練習量を抑えた。レース10日前までは走り込む予定だ。学生連合の山川達也監督(麗澤大監督)にアドバイスをもらいながら、東大陸上部の長距離メンバーと練習を積んでいく。近藤は長距離ブロックのチーフとして仲間とともにメニューを考える。設定タイムは違うが、基本的には同じメニューに取り組む。東大陸上部での練習について近藤は「自由と共生のいいバランスの中でできてきたと思います」と話す。

昨年末、近藤の箱根出場に向けて仲間たちが横断幕を作ってくれたが、近藤自身はインフルエンザにかかって静岡の実家に帰り、横断幕の出番もなし。自分の走りを楽しみにしてくれていた人に申し訳ない気持ちでいっぱいだった。「今回もやってくれるのであれば、うれしいな」と控えめに言う。学生連合のメンバー入りは今年で4度目のため、部員からはいまのところ特別なお祝いはないそうだが、出場となれば応援に駆けつけてくれる予定だ。「近くで見てくれていた部員に自分の走りを見せたいですし、学科や研究室の仲間とか、陸上選手としての自分をあまり知らない人にも、走る姿を見てほしいなと思ってます」

練習は東大陸上部の仲間たちと一緒に取り組んでいる

近藤はもともと、東大志望だった訳ではない。静岡の韮山高2年のときに5000mを14分27秒10で走り、関東の強豪校から声をかけられるようになった。小3で陸上を始めて以来あこがれてきた箱根を、ひょっとしたら自分も走れるかもしれない。そう思う一方で、箱根に出られても、自分はたくさんいる人たちの中の一人にしかなれないと感じた。「自分はもともと陸上の才能がそんなにあるわけではないと思ってましたし、才能があって、なおかつ自分よりも陸上に対する意識が高い人が全国にはたくさんいることは、高校の段階で分かってました」。自分にしかできないことはなんだろうと考えたとき、強豪校ではないところから箱根に出て、同じような境遇の人に刺激になれればいいと思い、東大を志望した。ここが、近藤のただ者ではないところだ。

陸上を続けるため、近藤は予備校に通わない「宅浪」を選んだ。「東大にいくような人は九割五分以上が大手予備校にいくんですけど、自分で365日すべて管理したかったので。親も陸上が生活の中心にあったことを理解してくれ、自宅浪人を支えてくれました」。1年後、晴れて東大生となり、自分にしかできない箱根ランナーを目指して陸上を続けた。

コンディションが悪くても最低限の釣果を

もちろん東大陸上部には、強豪校のようなコーチの指導や徹底した食事管理などという環境はない。「何に対しても心がけているのは100点をあきらめること。自炊も家事もして、何から何まで一人でやらないといけない状況で、食事、睡眠、練習のすべてで100点をとるのは無理ですし。最初から平均の60~70点ぐらいでいいかなって思ってます」

その考え方はレースでも同じだ。「本当にいい状態で出て、なおかつ100%の走りができれば『100』ですけど、そもそも80ぐらいで出ないといけない試合の方が多いと思ってます。その中で『80かける(×)0.いくつ』を落とさないようにしようと心がけてます。本当に強い選手は状態に関わらず、『×いくつ』が限りなく『×1』に近いんだろうなって」

趣味の話を聞いた。近藤はもともと魚が好きで、実家で川魚を飼っていたそうだ。趣味の川釣りの話の中で、「釣りも陸上と通じるところがあるんですよ」という言葉が出た。「魚がいればみんなたくさん釣れるんですけど、海や川の状態が悪かったら魚は釣れない。そんな中でも常連さんはちゃんと釣ってるなって。数が少ないだけでチャンスはある。それをものにできる人。釣りを極めるとしたらそんな釣り人になりたいです。そういうのって陸上に似てる感じがしないでもないなって。陸上もコンディションがよければみんな走れるんですよ。天候や自分のコンディションが悪い中でも、最低限の結果を出したいですね」

スタミナには自信があると話す近藤。どの区間でも実力を出しきる

最後の箱根を前に「4年間の集大成として心も体もしっかり合わせていくので、どの区間を任されても100%の実力を発揮できると思います」と、近藤は力強く語った。平均を目指してやってきた近藤だが、箱根でだけは自分のメーターを振りきった「100」を目指している。

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