花園の悲劇から4年、最後に勝つ 慶大・宮本瑛介
大学選手権は4年生にとって学生として最後の大会になる。慶大のWTB宮本瑛介(慶應)は、大学限りでスパイクを脱ぐと決めている一人だ。そして19年ぶりの日本一へ、タイガー軍団の勝負の冬が始まった。12月16日の大学選手権3回戦から登場。初戦は関西大学リーグ3位の京産大との対戦となった。
けがを何度も乗り越えて
宮本はこの試合、14-5の前半21分にトライを挙げた。敵陣で連続攻撃を仕掛ける中で、CTB栗原由太(3年、桐蔭学園)から切り返しのパスを走りこんで受けると、そのまま相手ディフェンスのギャップを突いてインゴールへと駆け抜けた。「相手のディフェンスに穴があると分かってたので、自分が入れば抜けると思いました」と話した通り、抜群の動き出しから宮本らしい鮮やかなトライとなった。
後半には1点差まで詰め寄られる緊迫した展開の中で、相手の流れを断ち切るタックルを見せるなど、得意のディフェンスも光った。攻守で存在感を示した宮本は慶大の初戦突破に大きく貢献。試合後には「タフな時間帯のあと、もう一度突き放せたのは大きな収穫だと思う」と、チームとしての手応えも口にした。慶大にとっても宮本にとっても悲願の日本一へ、まずは一つ歩みを進めた。
宮本の大学ラストイヤーは、けがからのスタートだった。4月の長崎での試合で、足首を捻挫。重いものだったため、無念の戦線離脱を強いられた。「真剣にラグビーと向き合える回数が減ってしまう」「レギュラー争いはどうなるのか」。ラストイヤーだからこそ、そして「ラグビーは今年まで」と決めているからこそ、焦った。ラグビーのできない日々は、彼にとってつらいものだった。
宮本にとって大きなけがは、これが初めてではなかった。高校時代にはひざの前十字靭帯断裂、大学でも肩の脱臼などを経験しており、彼の成長は、常にけがを乗り越えた先にあるものだった。大きなけがを経験していたからこそ、リハビリに臨むときの気持ちの切り替えや、体をつくり直す重要性は誰よりも分かっている。今年のけがも、その部分は同じだった。焦りはあったが、しっかりとリハビリに励み、順調にプレーできる程度まで回復。さらに、北海道・網走での夏合宿で徹底的に走り込んだことで、勝負の秋にはフルパフォーマンスができる状態にまで持ってきた。けがを経たいま、宮本は楕円球をつなぐ喜びをかみしめながらプレーしている。
「花園世代」のリベンジ
宮本が「大学日本一」へ強い思いを抱くのには、理由がある。彼を含め、今年度の慶大をけん引する選手の多くは、慶應義塾高でも名をはせた世代だ。
2014年秋、神奈川県の花園予選で桐蔭学園高を退けて高校ラグビーの聖地へ。その大舞台で悪夢が待っていた。3回戦で奈良の御所実業高と対戦。試合終了間際に勝ち越しトライを奪うも、ラストワンプレーで現在帝京大の副将を務める竹山晃暉に、逆転サヨナラトライを決められた。そのときに舞っていた雪がまた、慶應高の悲劇をより強くラグビーファンに印象づけた。
現在の4年生は、その負けを経験した「花園世代」が中心。とてつもない悔しさを経験した世代なのだ。宮本自身も、あの経験で「日本一は手に届く場所にある」と感じ、大学で再び日本一を目指す決意をした。悔しさを原動力に、なしえなかった悲願を仲間とともに目指してきた。まさに、リベンジの4年間。だからこそ、最後の年に「大学日本一」にかける思いはひときわ強いのだ。
ここ3年は、正月越えもかなわずにシーズンを終えている慶大。宮本は昨シーズン初めて主力として戦い、大学選手権準々決勝の大東文化大戦では2トライの活躍。しかし大東大に惜敗し、日本一への道は断たれてしまった。
来たる12月22日、準々決勝で待ち受けるのは永遠のライバル早大だ。先月の慶早戦では14-21で敗れている。しかし、1カ月のときを経て、慶大にリベンジの舞台が用意された。「同じ相手に二度負けるわけにはいかない」。そう力強く語る宮本の表情からは、ラストイヤーに懸ける強い思いと、早稲田には負けられないという強い覚悟が伝わってきた。正月越えをかけた運命の一戦、秩父宮で宮本が躍動する姿が見たい。彼の活躍が、必ずや慶大を歓喜へと導くと信じる。