ラグビー

俺は稲穂、謙虚に接点で暴れる 明治FL井上

チャンスをつくり、トライも決めたFL井上 (撮影・高山展誉)

全国大学選手権

12月15日@大阪・キンチョウスタジアム
明治大(関東対抗戦Aグループ3位)50-19 立命館大(関西Aリーグ2位)

いよいよ大学選手権に強豪が登場してきた。昨シーズンの選手権で準優勝した明治は今シーズン、王者・帝京に練習試合を含めて3連勝したが、慶應と早稲田に敗れて3位(4位扱い)となり、12月15日、大阪・キンチョウスタジアムで立命館大(関西Aリーグ2位)と対戦した。

この試合、「チャレンジャー」をテーマとしてひたむきなラグビーを標榜した紫紺の軍団は、前半だけで5トライを挙げて36-0と大きくリード。後半3トライを奪われたが、最終的には50-19で準々決勝へと駒を進めた。

4年生20人の決起集会

明治のFL(フランカー)井上遼(4年、報徳学園)はこの試合前半、ボールキャリアとして前に出てチャンスを作り、40分にはポールの真下にグラウンディングする技ありのトライも決めた。選手権は負けたら大学ラグビー生活が終わりというトーナメント戦だ。「めちゃくちゃ緊張しました。やはり特別な思いがあります」と、試合後は安堵の表情を見せた。

負けた早稲田戦を踏まえ、チームとして試合の出だしをとくに意識した。「前半、いい立ち上がりをしようと話してました」と井上。前半6分、スクラムでペナルティを誘うと、SO松尾将太郎(4年、東福岡)がPGを決めて主導権をつかめた。それでも井上は「後半は相手に3連続トライをされて、流れに乗れなかった。後半だけなら負けてたので、改善したい」と反省した。

井上は主将のSH福田健太(4年、茗渓学園)をサポートする7人のリーダーうちの1人で、ブレイクダウン(接点)の担当をしている。また、FWのまとめ役でもある。「いまでは、何も言わなくてもリーダーシップを持ってやってくれてます」と、田中澄憲監督の信頼も厚い。

この試合の中で、井上は普段より頻繁にハドル(円陣)を組んだ。「大学選手権ではまとまりを意識してます。ハドルを組めば、僕が話さなくてもリーダーが話してくれる。役割が明確になったのがリーダー制のいいところですね」と説明してくれた。試合中のコミュニケーションの量を増やして、しっかりと意思疎通を図ろうとしたわけだ。

接点で体を張る井上(中央手前) (撮影・高山展誉)

4年生20人は最後の大学選手権に臨むにあたり、東京・八幡山の寮近くにある中華料理店で決起集会を開いた。「試合のメンバーもメンバー外も全員で戦おう」という結束を高めた。前半、明治は5回あった相手ボールのラインアウトすべてにプレッシャーをかけ、ミスを誘ったり、相手ボールを奪ったりできた。実はメンバー外の4年生が中心となって、相手のラインアウトを分析したところ、その通りになったのだという。

持ち味のスクラムでもプレッシャーをかけ、井上が「明治の強みはアタック」と言うとおり、前半はずっとボールをキープして攻撃できたため、5トライでほぼ勝負を決めた。井上は「いい入り方ができて、セットプレーにプレシャーをかけることができました。ほとんど相手にボールを渡すことなく、いきいきとボールを展開する明治のラグビーができた。メンバー外も含めて全員で戦えました」と誇らしげに言った。

スクラムでも立命館にプレッシャーをかけた (撮影・高山展誉)

両親への思い

井上は父と2人の兄の影響で、4歳から地元の芦屋ラグビースクールで競技を始めた。元気がありあまっていた井上はすぐにラグビーの虜になる。高校は地元の強豪で、田中監督の母校でもある報徳学園に進学し、FLやNo.8(ナンバーエイト)として2年生、3年生と連続で準々決勝まで進んだ。とくに3年のときは副将としてチームを引っ張り、ノーシードながらベスト8に入る快進撃を支えた。

報徳学園の泉光太郎コーチが明治出身だったことや、高校と大学の1つ上の学年にFL/No.8で、尊敬する前田剛(現神戸製鋼)がいたこと大きかった。また立命館との試合前日、井上が来シーズン入社する神戸製鋼がトップリーグで2003年度以来の優勝を果たした。TVで見ていた井上は「めちゃくちゃテンション上がりましたね。来年、入部するからというわけではなくて、昔からの神戸製鋼ファンなのでうれしかったです」と声を弾ませた。

井上は高2の花園で負けた翌日に、父をがんで亡くしている。卒業後は母の住む神戸でプレーしたいという思いが、多少なりともあったはずだ。高校の卒部文集には「お弁当から何からラグビーに集中できる環境を作ってくれたお母さん本当にありがとうございました。(略)大学では日本一になり少しでも、恩返しができるように頑張ります。天国の父にも感謝しています」(原文のママ)と残している。

高校時代から運動能力は高かったが、遅刻したり、眉毛を極端に細くしたりとやんちゃだった少年は、すっかり大学ラグビーを経ていい青年となり、明治という伝統あるラグビー部をまとめるリーダーへと成長した。体重も10kgほど増えて98kgとなり、ベンチプレスも45kg増の155kgを支えられるようになった。

日本一へのラストチャンスにかける井上 (撮影・斉藤健仁)

12月22日の準々決勝(大阪・キンチョウスタジアム)で、明治は関東リーグ戦王者の東海と対戦する。井上はFWらしく「相手の強みはモール。そこでトライを取られたら勢いに乗られるので、しっかり勝負したい」と意気込む。また個人としても「僕の持ち味は運動量。80分間ボールの近くで動き回って、ブレイクダウンで相手にプレッシャー与えたい」と、リーダーとして担当する接点での活躍を誓った。

座右の銘は高校時代の恩師・西條裕朗監督から教えてもらったという「実るほど頭を垂れる稲穂かな」だ。井上は言う。「自分に合ってると思いました。何事にも謙虚にいきたいです」。井上は4年生の仲間、昨年準優勝に終わって泣いた先輩、そして両親の思いを背負って、ラストチャンスとなった日本一へと邁進する。

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