大学陸上・駅伝

しんどい一年の先にあったもの ND28AC田中希実

苦手意識があったクロカンの日本選手権を制し、田中は笑った(撮影・藤井みさ)

第102回日本陸上競技選手権クロスカントリー競走 シニア女子8km

2月23日@福岡・海の中道海浜公園
優勝 田中希実(ND28AC、西脇工) 26分43秒

普段とは違うレース運びで、田中希実(のぞみ)がクロカン日本選手権シニア女子8kmを制した。トラックでは積極的に前に出ていくが、この日は先頭集団の中でおとなしくしていた。そしてラストは京セラの山ノ内みなみとの一騎打ち。「サンド(砂)セクション」が終わったところで勝負をかけ、1秒差をつけてガッツポーズで優勝のゴールテープを切った。

トラックで戦いたい

「自分の心と体のゆとりを最後に残しておくことを考えました。クロカンには少し苦手意識があったし、8kmも初めてで走りきれるかどうかだったので、ほんとにホッとしてます。トラックだったら最初からある程度のペースでいくんですけど、今日は前には出ずに、後ろにくっつくことを意識して走りました。クロカンはもちろん上り下りもそうなんですけど、砂とか一つひとつの障害物とか、芝生っていう地面自体もボコボコしてて、一歩一歩疲労が蓄積されていくので、いかに省エネで走れるかが課題でした。クロカンへの苦手意識は、少し克服できたかな、と思います」。田中はいつも通り理路整然と、そして淡々とレースを振り返った。

田中(中央)は後ろについて走りながら、勝負の瞬間を待った(撮影・松永早弥香)

新しい環境で飛躍した1年だった。昨春に西脇工業高校(兵庫)を卒業し、同志社大学スポーツ健康科学部に進学。しかし陸上部には入らず、兵庫県尼崎市に拠点を置くクラブチーム「ND28AC(アスレチッククラブ)」で走ることにした。どうしても駅伝中心の陸上生活になってしまう実業団とも大学とも違う環境で、トラックで戦っていくことを選んだ。

そしてこの一年、7月のU20世界選手権女子3000mを8分54秒01の好タイムで制したのを始め、トラックの800mから5000mまですべての種目で自己ベストを更新できた。田中にこの一年について聞くと、こう言った。

「しんどい面が多かったんですけど、その分あっという間でした。一つひとつのレースを大事にしながらやってたら、あっという間にすぎた一年だったと思います」

しんどさ、についても尋ねた。

「大学へ行きながら、というのと、珍しい活動をしているというプレッシャーと。文武両道というか、勉強もしながらしっかり練習もするというのが精神的にも体力的にもしんどかったかな、と思います」

初めての一人暮らしが始まり、京都にある大学と兵庫の練習拠点の移動があり、勉強があり、世界と戦うための練習があるという日々。小柄な19歳は手を抜くことなく前進してきた。

世界を見てみたい

クロカン日本選手権の結果により、田中は3月30日にデンマークで開かれる「世界クロスカントリー選手権」に出ることになった。田中は言った。

「世界クロカンにずっと出たいと思って、この試合にも臨みました。海外はクロカンがメジャーなレースで、規模が違うと思うんです。アジアクロカンには何度か出たことがあるんですけど、やっぱり小規模なレースで。世界はどんなのかな、という興味があります」

高校時代の田中に取材していて世界の話になったとき、「単純に、世界のいろんな街がどんなところなのか見てみたいっていう気持ちがあるんです」と言ったことがあった。もちろん田中は日本を代表するアスリートとして、世界で勝負して勝つために毎日頑張っている。でも一方で、ひとりの人間として世界のいろんなものを見てみたいという、やわらかくあったかい気持ち、興味を忘れていない。そこに彼女の魅力を感じる。

山ノ内(左)に競り勝ち、ガッツポーズの田中(撮影・藤井みさ)

4月にはアジア選手権で日の丸を背負って5000mに出場する予定だ。6月には日本選手権、そして9月には最大の目標である世界選手権がある。

「このクロカンで8kmを走ってスタミナにも自信がついたので、スピードとスタミナの両方を武器にして、もっと強く、速いだけでなく強いレースをどんどんしていけるようにしたいと思います。世界を見すえて、1500から5000mまで全部のレースで自己ベストを目指して頑張りたいと思います」

自分が選んだ道を正解にするため、田中希実はきょうも陸上人生を駆けていく。

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