男子に負けていられない 東海大・奥村紗帆
鮮やかなブルーに白の「T」。大学男子の長距離界では見慣れたユニフォームだが、女子のレースで目にするのは新鮮な気がした。2月23日の日本選手権クロスカントリーのシニア女子8kmに、東海大からたった一人、奥村紗帆(2年、麻溝台)が出場していた。東海大女子長距離ブロックは3人。みな、一般入試の入学者だ。それでも奥村は「男子に負けるつもりはありません」と言って、小さく笑った。
陸上が悔しさを教えてくれた
長距離の女子部員3人は、2年生である奥村と3年生の先輩が選手で、1年生の後輩がマネージャーという陣容だ。奥村は昨年に続き、一人で福岡に遠征してきた。目標は前回の30分14秒を更新すること。速いペースの中でも、最後までしっかり走りきることを意識した。28分42秒と目標を大きくクリアし、35位。「まだまだ自分には伸びしろがあると思ってます」と前向きだ。
奥村は中学から陸上を始めた。陸上部の明るく優しい雰囲気に「先輩たちと一緒なら楽しい毎日がすごせそう」という期待からだった。運動があまり得意ではなかったため、運動会徒競走はいつも最下位だったという。だから奥村が陸上部に入ると言ったとき、周りの友だちはみな、びっくりしたそうだ。専門は800mと1500mだったが、当時はただただ、みんなと走ることが楽しかった。
高校では駅伝を走りたくて、神奈川県立麻溝台高校に進んだ。1年生のころから県駅伝に出場できたが、チームの最高順位は県16位。それでも3000mと5000mでは麻溝台高校の記録を塗り替えるなど、次第に好結果が出るようになった。「陸上をするまでは、悔しいと思うことさえなかったような気がします。なんとなく生きてきたっていうか……。でも頑張った分、『悔しいな。次は頑張りたい』って前向きに考えられるようになりました」と奥村。陸上を通じて、新しい自分を知った。
原田コーチが誘ってくれた
それでも大学では陸上を続けるつもりはなかった。スポーツ・レジャーマネジメント学科に興味を持ち、東海大に進んだ。東海大が男子の学生三大駅伝の常連だということは知っていたが、女子長距離ブロックの存在は知らなかった。女子も男子と同じ湘南キャンパスで練習をしており、原田兼由コーチが女子の指導にあたっている。奥村は原田コーチに声をかけてもらい、大学でも陸上に向き合うと決めた。
メニューは原田コーチが作成してくれるが、部員が少ないため、場合によっては一人で練習することもある。それでも「私自身、いままで自分のペースで走ってきたので性に合ってると思います」と受け止める。着実に好結果を残し、昨年5月の関東インカレでは5000mで13位、10000mでは自己ベストとなる35分6秒93で10位だった。さらに7月のホクレン・ディスタンスチャレンジでは10000mで33分53秒65をたたき出し、インカレのA標準を突破。9月のインカレ本番は35分29秒40とタイムを落としたが、新たな挑戦欲が湧いてきた。
「また駅伝を走りたい」という思いもある。東海大として関東女子駅伝にはまだ出場できていない。しかし男子が箱根駅伝で注目されたこともあり、今年は女子も新入部員が増えるのではと期待している。もちろん、奥村も今年の箱根駅伝を見守った。「いい刺激になりました。同じユニフォームなので、私も箱根以降はたくさんの方に応援してもらえるようになりましたし、下手な走りはできないって、前より強く思うようになった気がします」
個人ではインカレ入賞を目指し、チームでは関東女子駅伝出場、そして全日本大学女子駅伝へ。胸の「T」に誇りを持ち、奥村は東海大女子の先駆者になろうとしている。