ワンダーフォーゲル

関学ワンゲル部・安藤誠、三人の絆でヒマラヤ登頂

2回生のころから野望を抱き続けてきた安藤は、ワンゲル部の仲間とヒマラヤ登頂を成功させた(写真は本人提供)

2018年11月。関西学院大学ワンダーフォーゲル部の三人が快挙をなしとげた。安藤誠(4年、関西学院)が田村一正(同、同)、鹿田慧(3年、近江兄弟社)とともに標高6000mを超えるヒマラヤ山脈のメラピーク(6476m)、イムジャツェ(6189m)の2峰登頂に成功。関学として23年ぶりの海外遠征について安藤は「やってきたことが実りました」。達成感を胸に、準備段階からの「長い旅」を振り返った。

地道な資金集め

「大きなことをしてみたい」。安藤が野望を抱き始めたのは、2回生のときだった。海外登頂を成功させたOBの話を聞き、「自分たちにもできるんじゃないか?」と興味が湧いた。昨春になって「山が好きな三人で」と4回生の安藤と田村が後輩の鹿田を誘った。登山隊の名前を「メラピーク&イムジャツェ スキー登山隊」に決め、プロジェクトは始動。リーダーの安藤を中心に、夢に向かって最初の一歩を踏み出した。

待っていたのは、あまりにも地道な準備だった。何よりも3人を苦しめたのは資金集めだった。部のOB・OGはもちろん、それ以外の卒業生へも支援要請に駆け回った。「手続きがややこしくて、長く感じました」と安藤。6000m級の2峰の登頂に必要な体力面、精神面のトレーニングも積んだ。昨年9月には1週間にわたる厳しい合宿を敢行。安藤は「長い遠征では、三人で気持ちを合わせないといけないんです」とその意図を説く。パーティーシップを意識し、クレバスへの対応など難易度の高い練習を乗り越え、挑戦に備えていった。

万全の状態で旅をスタートできた。10月12日にネパール入り。14人の隊員で、メラピークのベースキャンプへ向かった。体を順応させるため、最初は1日の活動は3時間程度にとどめた。それでも標高が4500mを超えると、安藤の体に異変が起こった。寝ている間も吐き気と頭痛に襲われた。高山病だった。体重は4㎏減。「ほかの二人は余裕なのに、自分だけ前へ進むスピードが遅い。情けない、と思いました」。精神的にも苦しんだ。

限りなく宇宙に近い景色

それでも、歩みは止めなかった。10月27日午前。標高5400mのベースキャンプから、メラピークのアタックに成功した。高山病を乗り越え、山頂から見た景色は格別だった。「見えるものすべてが自分より低い。『この景色を見るために登ってきたんだ』という感慨に浸りました」。低い気圧と白い空。「限りなく宇宙に近い」と、肌で感じられた。準備段階からの始まった長くつらい旅路が頭をよぎり、涙があふれた。

下山も冒険だ。どうしてもやりたかったのが、スキーでの滑降。ヒマラヤ登頂を決めた一つの理由でもある。山頂から一気に滑り降りたが、酸素が薄く、固い雪の上でのスキーは困難を極めた。「ロケーションは最高だった。でも、ヒマラヤでスキーはしない方がいいですね(笑い)」。危険を恐れず自然に挑み、挑戦の心は忘れなかった。

三人で助け合いながら、6000m級の2峰の登頂に成功した(写真は本人提供)

メラピーク下山後、すぐに次のベースキャンプへ移動。5日後には、メラピークから約20㎞離れたイムジャツェの登頂にも成功した。「高山病に苦しめられたけど、何とか楽しめました」と安藤。31日間のキャンプを成功させ、帰国した。

山は命がけの遊びだ。安藤は「しんどいときもあるけど、やっぱり楽しいです」と、常に登山を楽しむ心を持つ。だからこそ、常に新しいことに挑戦し、ステップアップを続ける。「自分はヒマラヤと聞いただけでワクワクする。そういう気持ちを大切に山に登ります」。歩いていく先には、いつも自分の知らない世界が待っている。まだ見ぬ世界を目指し、彼らは冒険を続ける。

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