ラグビー

練習後も勉強して帰宅、浦和高校ラグビー部の青春

突破力が光る浦和高の松永主将(撮影・斉藤健仁)

埼玉県立浦和高校ラグビー部が43年ぶりに県の新人戦を制し、春の高校王者を決める第20回全国高校選抜大会に出場した。3戦全敗で予選リーグ敗退となったが、文武両道の鏡のような選手たちは大いに刺激を受けていた。

「三兎を追う」

今年1月から2月にかけてあった県の新人戦では、準決勝で花園常連校の深谷に20-12、決勝では立教新座に33-10で勝ち、開催県1位の枠で初の選抜出場を決めた。浦和ラグビー部が、花園に54年ぶり2度目の出場を果たしたのは2013年度のこと。今回の選抜は、それ以来の全国大会だった。

予選リーグ初戦の佐賀工業(佐賀)には12-59と大敗、2戦目は秋田中央(秋田)に21-28と競り負け、3試合目も関西学院(兵庫)に14-64と完敗だった。埼玉では通用していた粘り強いディフェンスも、全国レベルでは通用しなかった。それでも同校OBの三宅邦隆監督も、主将のNo.8松永巧実(3年)も、「学ぶことが多かったです」と振り返った。

試合前に気合を入れる浦和高の選手たち(撮影・斉藤健仁)

浦和といえば、1895年に創設された埼玉屈指の進学校で男子校。東大合格者数は公立高で全国トップクラスだ。文武両道を意味する「尚文昌武(文を尚び武を昌にす)」が校訓で、勉強・部活・行事の3つに精を出す「三兎を追う」ことも掲げている。

ラグビーは授業で試合までする「校技」である。今春はラグビー部から浪人の末、東大に2人、京大に2人、一橋大に1人、東工大1人が合格した。

個々の考える力の高さが武器

現在の浦和ラグビー部は新3年生が16人で新2年生は13人。うちラグビー経験者は学年1人ずつと、強豪校とに比べて極めて少ない。2年前まで指導していた同校OBの小林剛・前監督は、組織ディフェンスと、ゴール前でFWのまとまりを生かして得点をとりきる、小さくても未経験者でも勝てるラグビーを目指していた。砂場でのタックルや接点の練習も伝統となっている。

小林監督の下で7年間コーチを務め、後任となった三宅監督は、基本的に小林監督のラグビーを踏襲している。ただ、きっちりと教え込むタイプの小林監督とは違い、三宅監督は選手の自主性に任せている部分も多いという。練習ではたびたび時間を取って、選手たちが自ら話し合う「チームトーク」の時間を取っている。

また伝統の前に出るディフェンスだけでなく、三宅監督は流れて外に追い出すドリフトディフェンスも教え、状況によっては使い分けるようにも指導した。もともとラグビー理解力は高く、練習から考える習慣がついていたため、新人戦ではドリフトディフェンスで勝った試合もあったという。三宅監督は「全国レベルではまだまだ通用しませんでしたが、新人戦ではほとんど私が何も言わなく見ているだけという試合が多かったですね」と、選手たちをたたえた。

浦和高の信条は粘り強いディフェンス(撮影・斉藤健仁)

また4歳からワセダクラブでラグビーを始め、新3年生で唯一の経験者である松永主将も、最初は基本スキルやルールを教えることが多かったというが、「もともとみんな頭がいいので、2年生の中盤あたりからは、いろいろと意見を言ってくれるようになり、もう経験者だからどうというのはなくなりましたね」と、チームメイトに信頼を置く。

未経験者の集団を全国大会に導いたのは、三宅監督の指導と個々の考える力だったというわけだ。初戦の佐賀工業戦でも前半は敵陣で戦うことを意識しすぎてキックが長すぎ、カウンターからトライを許してしまった。しかし後半は選手たちで話し合い、ハイパントに変えた。相手がキャッチした瞬間にタックルし、プレッシャーを与えたことでリズムをつかんだ。そして試合終盤では10分間攻め続けて、最後にトライを挙げた。

勉強と部活、ともに頂点へ

部員たちはどうやって文武両道を貫いているのか。部活動は午後3時半から6時半くらいまでだ。その後、選手たちは教室や図書室で10時くらいまで勉強してから帰ることが日常的になっている。学年の順位が一桁で、現役で東大進学を希望するSH(スクラムハーフ)宮崎隆之介(新3年)は、中学時代は野球部だったが、「学校全体で応援してくれるので」と、浦和でラグビーを始めた。「ラグビーと勉強以外はしてません」と言いきる。

LO(ロック)阿讃坊元(3年)も東大進学希望だ。中学時代は陸上部だったが、2013年度に花園に出た浦和ラグビー部が防犯ポスターに起用されているのを見て、あこがれて入部した。家から学校まで1時間半と遠いため、朝食、昼食、捕食を持参する。朝7時から学校で勉強し、部活後にも学校で勉強して、家では寝るだけだという。「ほかの人が部活と勉強とそれ以外でやっていることよりも、多くのことをラグビー部から得られてます」

松永キャプテンは高校から家が近く、文武両道にあこがれて浦和に進学した選手のひとりだ。小さいころから目標とする早稲田大学ラグビー部に入るために、部員と一緒に勉強にも精を出す。「ラグビーだけの青春もいいと思ったのですが、部活、勉強、行事と頑張ってます」と、いい笑顔で語った。

ゴール前に攻め込み、鍛え上げてきたFWで勝負する(撮影・斉藤健仁)

選抜では1勝もできなかったが、全国の強豪と対戦した経験は大きな糧と自信になるはずだ。もちろん、浦和ラグビー部としての目標は秋の埼玉県予選を勝ち抜いて花園に出ることだ。ただ、新3年生たちは「花園に出ることも大事ですが、志望校にも合格したい」と語気を強める。昔もいまも、浦和ラグビー部員は勉強と部活の両方で頂点を目指す。

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