ラクロス

慶應ラクロスのアタッカー立石真也、どこからでもゴールを狙える熱い男

仲間に見送られ、フィールドに向かう慶應の立石(左)。この直後に4点目を決めた

早慶戦 大学戦男子(第27回定期戦)

5月19日@慶應義塾大学日吉陸上競技場
慶應義塾大 7-8 早稲田大
(早大の8勝15敗4分け)

お互いのプライドをかけたラクロスの早慶戦。大会のトリを飾る大学戦男子では前回、早稲田が15-6で圧勝し、慶應の3連勝を阻止した。リベンジにかける慶應は今回、ホームの大声援を背に戦ったが、サドンビクトリーの末に敗れた。

残り3分、2点のリードを守りきれず

先制点を挙げたのは早稲田のAT(アタッカー)リーダーの岡田康平(4年、早稲田実業)。しかし早稲田がオフサイドで一時退場者を出す中、慶應の立石真也(3年、慶應)が右からスタンディングシュートを決める。早稲田リードのゲームが動いたのは第3クオーター(Q)。立石が2連続ポイントを決め、4-4に追いついた。慶應ベンチから「流れがきてるぞ!!」との声が飛ぶ。さらに小林圭(4年、慶應ニューヨーク)が決め、5-4と勝ち越した。

第4Qに入って慶應が6-4としたが、早稲田が1点差に詰める。早稲田のタイムアウト直後のプレーで、慶應の立石がこの日4点目を決め、7-5に。残り時間が少なくなる中、慶應は守りきれない。早稲田の主将、青木俊汰(4年、早稲田)に連続ポイントされ、土壇場で7-7と追いつかれてしまった。

勝負は4分間のサドンビクトリーへ。フェイスオフでボールを手にした早稲田は、冷静にパスを回し、慶應の隙を探る。最後は中小路渉(4年、川越)のシュートが慶應のゴールネットを揺らし、慶應が連敗を喫した。

試合を終えて慶應サイドの観客席にあいさつ。ひざに手をやり、うつむいているのが立石

試合直後、応援してくれた人たちへのあいさつをする慶應メンバーで一人、うつむいたまましゃがみこみ、動けなくなった選手がいた。両チームを通じて最多の4得点を決めた立石だった。「4Qのラスト3分は、2点差で勝ってました。最後、僕がボールを持ったときに時間を使うプレーをすればよかったのに、ゴールが空いてたから打っちゃって……。セーブされて相手ボールになって、点をとられました。勝ちきれなかったのは、僕に責任があります。僕がもう少し冷静になれてれば勝ててました」。負けを一人で背負い込んでいた。

速球自慢の野球少年が高校から転向

慶應には高校からのラクロス経験者が多く、立石もその一人だ。小学1年生のときから野球のピッチャーで、速球が自慢だった。しかし中学生の時に腰を痛め、このまま野球を続けるのは難しいと感じていた。慶應高に進学し、先輩たちに誘われてラクロス体験会に参加した。立石は一気にラクロスの魅力にはまり、その日のうちに入部を決めた。

高校の時からAT一筋。野球で鍛えた肩から、速いシュートを繰り出した。慶應高は大学のリーグ戦に参加している。立石が3年のときは関東3部で優勝し、後輩たちを2部に上げた。入学を待たずして大学の練習に合流すると、1年生のときからAチーム入りを果たした。「自分が高校生のときに大学のチームに対して思ってたのは、純粋にかっこいいな、レベルが高いなってことでした。そこに身をおいて活躍できてるのは幸せです」。立石はそう言って、やっと笑った。

相手ディフェンスを次々とかわし、ゴールへと向かう立石(中央、3番)

立石はロングシュートや0度からのシュートなどが得意で、どこからでもシュートを狙える。その一方、下級生のときにはわがままなプレーが目立つこともあったという。当時を振り返り、立石は「自分さえよければそれでいいと思ってたところがありました」と話す。その意識が変わったのが、昨シーズン最後の試合となった関東ファイナル4だった。対戦相手は早稲田。第4Qに立石が決めて追いついたが、そこから一気に4失点。慶應も粘ったが、8-10で敗れた。

「個々は強かったのに一致団結ができてなくて、プレーがかみ合ってませんでした。僕も活躍できてなかったです。自分だけでは勝てない。周りを生かしたり、自分が生かされたりしないと勝てない。そう実感させられました」。立石は「来年こそは絶対勝つ」と誓った。

そこから自分のプレーを見直した。自分がボールを持つと、ディフェンスが引き付けられてくるところがある。そこで空いている仲間を生かせたら、チームはもっと強くなれる。周りを生かすプレーに意識をめぐらせるようになった。学生コーチの竹内豪(4年、慶應湘南藤沢)は彼についてこう言う。「最近は周りのことも考えるようになって、調子も上がってきてます。自分の考えをしっかり持っていて、それを周りに伝えようとする雰囲気を感じてます」

倒れ込みながらシュートを決めた立石(右端)

オリンピックを目指して競技続ける

4月4日にあった六大学戦での早慶戦は、9-9の引き分けだった。昨シーズンの全日本学生選手権の覇者に対して善戦できたという思いが、立石にはあった。昨シーズンの終わりから早稲田のスカウティング(分析)に取り組み、六大学戦での情報も加え、今回の早慶戦に臨んだ。4得点を挙げて存在感を示したが、立石は満足していない。「勝てなかったので、悔しい気持ちだけです。熱くなっても自分を見失わないようにするのが課題です」

立石は3年生ながら、卒業後のことも意識してラクロスに取り組んでいる。「2028年のロサンゼルスオリンピックでは、ラクロスが正式競技になる可能性が高いです。社会人になっても、オリンピックで活躍することを目標にラクロスを続けたいです」

シュートを決め、喜びを爆発させる立石(中央、3番)

最後に、自分のプレーで一番見てほしいところは? と尋ねた。「確かに得意なのはシュートなんですけど、それよりも熱さですね。ラクロスに対する熱さでは誰にも負けません。シュートを決めたときは、きっとその熱さが伝わると思います」と笑った。冷静だけど心は熱く。喜びも悔しさも爆発させる立石から、純粋なラクロスへの愛を感じた。

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