東海大バスケ・笹倉怜寿、初の代表チームで知った“新たな自分”
5月17日~19日に名古屋で開催された大学バスケの日韓戦「李相佰盃日韓学生バスケットボール競技大会」で、日本男子学生選抜にいい流れをつくり出した一人が、ポイントガードの笹倉怜寿(れいじゅ、東海大4年、東海大三)だった。初めて挑んだ国際ゲームで、笹倉は大きな収穫を手にした。
「負けたくない」思わずベンチから立ち上がった
2年ぶりの優勝がかかった第3戦。日本が2点を追う残り時間53秒の場面だった。笹倉はベンチから思わず立ち上がって戦況を見つめていた。コートでは勝負強さを見込まれて自分と交代した大倉颯太(東海大2年、北陸学院)が、明らかに苦戦していた。座ってなんかいられなかった。「たぶん負けたくなくて、それが行動に出たんだと思います」。笹倉は敗戦後に改めて自分の行動を振り返ると、照れくさそうに笑った。
今大会プレーした3人のポイントガードのうち、笹倉のプレーは群を抜いて安定していた。韓国の執拗なプレッシャーを軽くいなしながらボールを運び、適切なパスを仲間に供給。ここぞというタイミングでシュートを決める。ディフェンスでも、コーチ陣からの「お前の背中で、チームのディフェンスのスタンダードが決まる」という言葉を励みに、相手の司令塔をシャットアウトした。
最終戦の主なスタッツは4得点、2リバウンド、5アシスト、1ブロック。アシスト以外に特筆すべき数字はないが、この試合をつくったのは間違いなく笹倉だった。東海大は2ガード編成で、コンビを組む大倉の華やかさがどうしても目立つ。1ガードで挑んだこの大会では、笹倉の優秀さが十分すぎるほどに浮かび上がった。
初の代表経験で芽生えたリーダーの意識
名門東海大で2年生の秋から主力を務め、陸川章ヘッドコーチが昨年末のインカレのMVPとたたえる笹倉だが、意外にもこれまで代表経験がなかった。唯一候補に入ったU18日本代表の選考は「何をしたらいいんだろう、と思ってるうちに終わってしまった」と振り返る。
だからこそ、この大会には誰より強い思い入れがあった。
そんな大一番で、笹倉は“新たな自分”を見つけた。
タレントぞろいの東海大にあって、笹倉は常に“陰”の存在だった。「自分は脇役でいい」と公言し、「点を取りたいとも思ってないし、活躍したいなんて一つも思ってない」とまで言う。ディフェンスやリバウンドなど地味なプレーでの貢献を至高ととらえ、ベンチでも一貫して物静かな男だ。
しかし、40点近いリードを奪われた第2戦の第3クオーター終盤。このままでは翌日の最終戦にまで悪い流れを引きずるという危機感から、笹倉は思わず仲間たちに檄を飛ばしていた。「こんなこと、いままでやったことなかった」と本人も驚く、初めての経験だった。その後もコートインの際に仲間に声をかけ、ベンチでも気持ちを統一するためにハドルを促し、前述のようにベンチから無意識に立ち上がった。「慣れないことばかりだったんですけど、この大会で初めてリーダーとしての意識を持てました。プレーも含めて、一皮も、二皮もむけることができました」。大きな手ごたえを実感している。
卒業後はB1クラブでのプレーを思い描き、「李相佰杯は将来を考えて、自分の長所をアピールできる場にしたい」と語っていた。
想定以上の収穫があった、思い出深い大会になったことだろう。