ラグビー

帝京大の「無印の男」本山、4年生にしてつかんだ真紅のジャージー

本山は3年かけてAチームにたどり着いた(撮影・斉藤健仁)

関東大学ラグビーの春季大会は毎年のことだが、どのチームも試行錯誤しながらの戦いが続く。帝京大も同じ。昨年度は対抗戦こそ優勝したが、大学選手権では準決勝で天理大に敗れ、10連覇はならなかった。まさにリスタートの年である。

先発出場を果たし、高まった責任感

その帝京にも新しい力が台頭してきている。昨年までの3年間、Aチームの試合に出たことのなかった新4年生のLO(ロック)本山尊(たける、大分東明)だ。4月21日、長崎ドリームチームとの招待試合で初めて真紅のジャージーに袖を通した。

「去年はジュニア選手権(Bチームの大会)で2試合くらいしか出られませんでした。一つ上の代のキャプテンだった秋山(大地、現・トヨタ自動車)さんたちに勝てなかった。やっぱり、赤いファーストジャージーを着ると緊張感、責任感が出てきますし、仲間のために体を張るという気持ちが強くなりますね」。本山は実感を込めて、そう言った。

4月28日、自身初の公式戦となった春季大会Aグループの開幕戦、流通経済大戦では最初のトライを挙げて勝利に貢献。つづく大東文化大、慶應義塾大、東海大戦でも先発で出場し、特にラインアウトやキックオフでの空中戦で高いパフォーマンスを発揮した。

高校受験に失敗、ラグビー人生が幕を開ける

いまは身長191cm、体重108kgとLOらしい立派な体格になっている本山。ラグビーを始めたのは、偶然だった。家族にラグビー経験者はおらず、本山自身は幼いころはサッカー、その後は水泳や空手に取り組み、中学校ではバスケットボール部に入った。とくに目立った成績は残していない。

高校時代、ラグビー歴1年半で同世代の日本代表に選ばれた(撮影・斉藤健仁)

高校進学にあたって、実家から近い大分県立大分雄城台(おぎのだい)高校を志望し、「高校でもバスケを続けようとしてました」と振り返る。ただ受験に失敗してしまい、私立の大分東明高校に進学。そして本山のラグビー人生が幕を開ける。入学したときすでに身長が190cmを超えていたという本山を白田誠明監督が熱心に勧誘。本山は「高校では勉強を頑張ろうと思ってましたけど、やってもいいかな」と、ラグビー部に入った。

初心者ではあっても、身長190cmの立派な体格だけに、高校ラグビーの指導者の間ですぐに知られる存在となった。そして高2のとき、競技歴たった1年半で、セレクション合宿を経てU17日本代表に選ばれ、桜のジャージーを着て韓国代表、中国代表と対戦した。

もちろん周りは現在のチームメイトであるCTB(センター)本郷泰司(京都成章)をはじめ、東福岡や秋田工業といった花園常連校の選手ばかりだった。本山は「緊張して、ついていくのが精一杯でした。周りの選手はぜんぜんレベルが違いました。なんで自分が選ばれたんだろう……」と振り返る。

バスケの経験も生かせる空中戦は得意だ(撮影・斉藤健仁)

声をかけてくれた帝京が強豪とも知らなかった

U17日本代表に選ばれたことがきっかけで、帝京から声がかかった。しかし当時の本山は帝京がラグビーの強豪校であることさえ知らなかった。

県内では大分舞鶴はもちろんのこと、大分雄城台にも勝てず、全国大会とは無縁。大学でラグビーを続けるつもりはなかったという。それでも、いつの間にかこの競技にのめり込んでいった。そして彼は帝京ラグビー部の門をたたく。「練習に来てみたら環境もよかったし、U17日本代表で同じチームになった選手とのレベルの差を埋めたいと思ったんです」

帝京に入学すると、現在は日本代表で活躍するLO姫野和樹(現・トヨタ自動車)やSO(スタンドオフ)松田力也(現・パナソニック)らがいて、自分とのレベルの差に大きく戸惑ったという。ただ、下を向いてばかりはいられない。その差を少しずつ埋めるために、FWとしてしっかり食事を摂り、ウェイトトレーニングに精を出した。

同部屋の先輩が背中で教えてくれた

「姫野さんは遠い存在であこがれでしたね」という本山が手本にしたのが、一つ上の代のLO/FL(フランカー)だった菅原貴人(現・近鉄)だった。寮で同じ部屋だったこともあり、菅原が試合の翌朝も必ずウェイトトレーニングをし、寝る前にはプロテインをしっかり飲む姿を見続けて感銘を受け、本山もそれにならったという。

すると大学入学後の3年間で、入学のときは95kgだった体重が105kgとなり、ベンチプレスも100kgだったのが150kgまで上がった。それがこの春、Aチームのレギュラー獲得へつながったというわけだ。「フィジカルの部分では1年生のときは、ぜんぜん通用しなかったんですけど、いまは、少しずつですが手応えを感じてます」

ラストイヤーを駆け抜ける(撮影・斉藤健仁)

岩出雅之監督には「LOとして一番やらないといけない、厳しい状況でもガツガツいくところをもっと出してほしい」と言われている。バスケ経験が生きて空中戦には強いが、監督から見ると地上戦はまだ物足りないというところだろう。本人も「流れを変えるタックルや体を張る部分を伸ばしていきたい」と話すように、今後は接点での激しさ、厳しさでもっと存在感を示していきたいところだ。

あこがれは日本代表最多となる98キャップを誇り、41歳ながらいまだに現役のLO大野均(東芝)だ。「あの年齢になってもタフに動き続ける大野さんを尊敬してます」。本山は来年からトップリーグでプレーすると決めた。「やってもいいかな」程度の思いで始めたラグビーが、すっかり彼の生活の中心にある。

主力の下級生たちと一緒に戦い抜く

本山の目標はもちろん、目の前の試合に出てチームの勝利に貢献し、最終的には大学王者の座を奪還することである。今年度の帝京大は3年生以下が主力のチームだ。本山は学生コーチを兼任していることもあり、下級生の模範になろうという意識が強い。「先発の15人に4年生が少ないという現状がありますが、がむしゃらに体を張って、チームを鼓舞する姿を見せて、(下の学年の選手と)一緒に戦っていきたいです」

最終学年でやっと真紅のジャージーを手にした無印の男は、フルスロットルで最後まで走り抜く覚悟である。

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