陸上・駅伝

特集:第98回関東学生陸上競技対校選手権

走り幅跳びの慶應・酒井由吾 “8m31”から1年、鍛えた心で飛躍を

酒井(中央)は関東インカレでは3種目に挑み、本職の走り幅跳びで男子2部優勝をつかんだ(撮影・藤井みさ)

第98回関東学生陸上競技対校選手権

5月23~26日@相模原ギオンスタジアム
酒井由吾(慶應義塾大2年)
男子2部100m 4位 10秒58(+3.0m)
同400mリレー 6位 40秒92(竹井郁哉/山本明良/大川弘太郎/酒井由吾)
同走り幅跳び 優勝 7m70(+4.6m)

慶應義塾大の酒井由吾(ゆうご、2年、南多摩中等教育)は昨年、男子1部の走り幅跳びで、2連覇のかかっていた日大の橋岡優輝(3年、八王子)を1cm差で破り、8m31(+4.7m)で優勝した。入学して間もない大会だったこともあり、ただ無我夢中。何も分かっていなかった。慶應は2部に落ちてしまった。あれから1年。帰ってきた相模原ギオンスタジアムで、酒井はチームのために戦った。

最後のジャンプで逆転V

関東インカレは、総合得点の1部の下位2校が2部に降格、2部の上位2校が1部へ昇格する。チームを1部に復帰させるためにも、酒井は専門の走り幅跳びのほか、100m、400mリレーと、計3種目に挑んだ。

初日の23日は100mと400mリレーのアンカーとして予選に出場。100mでは10秒66(+1.5m)で4組2位、400mリレーは41秒30で5組1位で通過した。翌24日は午前10時30分からの100mの準決勝で始まった。10秒69(+1.1m)で午後3時10分からの決勝へ。決勝では10秒58(+3.0m)で4位をつかんだ。10秒50を目標にしていたため、酒井自身は満足いく結果ではなかったが、1部復帰を狙う慶應に貴重な5ポイントをもたらした。

そして午後6時30分には400mリレー決勝に出場。2走と3走の間でバトンミスがあったが、酒井の粘りの走りもあって、6位でフィニッシュ。この日だけで、酒井は7ポイントに絡む活躍だった。

100mでは目標にしていた10秒50には届かなかったが、4位入賞を果たした(撮影・松永早弥香)

3日目の25日は、いよいよ本職の走り幅跳び。酒井は1回目に7m50(+2.5m)を跳ぶと、後半に備えて2、3回目をパスして体力を温存。4回目以降に残った8人の争いで、いったん上武大の横地彦人(3年、須坂東)に7m67(+4.8m)で抜かれたが、最後の6回目で7m70(+4.6m)を跳び、逆転優勝を決めた。

酒井はこの大会、すべての種目で優勝することを目標に掲げていた。結果は優勝と4位と6位。悔しさが残った。それでも合計15点をもたらした酒井の活躍もあり、慶應は男子2部の総合2位で、再び1部の舞台に戻れた。酒井に「体、頼もしくなったね」と声をかけると、「いや、強くなったのは、こっちです」と言って、胸をトントンと叩いた。

慶應は3位の東京学芸大と0.5ポイント差で男子2部の総合2位を死守、1部復帰を果たした(写真は慶應競走部提供)

跳躍はもやもや、でも土台は着々

昨シーズンを振り返り、酒井は「周りからいままでにない反応があり、自分の気持ちを見失ってしまった、というのが率直な感想です。周りに気を取られてしまいました」と言う。関東インカレで橋岡を破り、直後に岐阜で開催されたアジアジュニア選手権も7m61(-0.1m)で優勝した。高1で出場したアジアユースで2位だった借りを返せたという思いがあった。実はこの大会は、関東インカレのあとに左臀部(でんぶ)に痛みが出ていたため、出場すら悩んだ大会ではあった。

そのあとから、歯車が合わなくなった。橋岡との再対決が期待された6月の日本選手権では予選落ち。9月の全日本インカレでは7m39(+0.8m)で13位、シーズン最後となる9月の早慶戦でも、いい結果が出せなかった。自分なりに必死にもがき、いろいろ試してはみたが、あの春の感覚は戻ってこなかった。

関東インカレでは目指す跳躍をかたちにはできなかったが、勝負強さを見せつけた(写真は本人提供)

どの動きがよくて何が悪いのか。冬季練習の間、酒井は自分なりの判断基準を設定して練習に取り組んだ。「走り幅跳びでは助走スピードに負けない踏切りが必要」といった具合に課題を明確にした。そして2年目の春が来た。初の公式戦は4月6日の東京六大学対校陸上。酒井は7m47(-0.1m)で2位だった。幅跳びの合間に400mリレーに出るという苦しい戦いだった。跳躍では伸び悩みながらも、今シーズンに入って100mと200mの自己ベストを更新。「大きく成長していくための土台はできつつある」と、確かな手応えを感じている。

「純粋に『跳びたい』と思ってるときは試合で負けるイメージが一切わかなくて、自分の動きに集中できます」と酒井。6月末の日本選手権で狙うは、秋の世界選手権参加標準記録の8m17。「いい感じで上り調子です」と言って、酒井は笑った。

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