陸上・駅伝

特集:第98回関東学生陸上競技対校選手権

東海大・館澤亨次、0秒01差で負けた先に見すえる世界との戦い

ラスト1周、館澤(中央の499番)は集団を抜け出し、先頭の野口を猛追した

第98回関東学生陸上競技対校選手権 男子1部1500m決勝

5月24日@相模原ギオンスタジアム
1位 飯澤千翔(東海大1年、山梨学院) 3分56秒80
2位 館澤亨次(東海大4年、埼玉栄) 3分56秒81
3位 舟津彰馬(中央大4年、福岡大附属大濠) 3分58秒01

関東インカレ2日目の男子1部1500m決勝。注目は日本選手権2連覇中の東海大のキャプテン館澤亨次(4年、埼玉栄)と、東海大のルーキーで館澤に2連勝中の飯澤千翔(かずと、山梨学院)の争いだった。レースはその通り最後は飯澤との勝負となり、ほぼ並んでゴールへなだれ込んだ。館澤は100分の1秒差で1年生に負けた。これで飯澤に3連敗となった。関東インカレ3連覇はならなかった。

超スローペースから野口が飛び出した

館澤にとっては想定外のレースだった。400mの通過タイムは1分12秒、さらに800mの通過タイムは2分22秒という超がつくスローペース。館澤はこのころ、前と右隣の選手に進路を阻まれ、ポケット状態になっていた。

最初の1、2周、館澤(奥の右端)はポケットされ、身動きができなかった

残り700mから一気にレースが動く。野口雄大(順天堂大3年、市立柏)が飛び出した。野口を追う集団のスピードも上がった。野口につけなかった館澤は、どこかで彼のスピードが落ちてくると踏んでいた。しかし野口は伸びのある走りで駆け抜け、ラスト1周に入った。ポケットを抜け出した館澤が外から集団を追い抜き、野口を追う。後ろには舟津彰馬(中央大4年、福岡大大濠)、そして飯澤がついていた。

館澤は残り200mで野口をとらえた。すぐ後ろには飯澤がついていた。最後は2連敗を喫している後輩との一騎打ちに。右側から飯澤が追い上げてきているのは分かっていた。意地と意地のぶつかり合い。最後は館澤が右胸、飯澤が左胸を先にゴールへねじ込むため、腕を思いっきり伸ばした。ゴール直後、館澤は前のめりになって転倒した。

館澤と飯澤(左)は最後、意地のぶつかり合いとなった

電光掲示板に順位が映し出されるまでの間、館澤には「厳しいかな」という思いがあった。それでも一縷(いちる)の望みは持っていた。飯澤の名前が最初に表示されたのを確認し、悔しさがこみ上げてきた。飯澤もゴール後、倒れ込んでいた。順位が分かり、先に飯澤が立ち上がった。そして館澤に歩み寄る。なんとか立ち上がった館澤は飯澤と握手を交わし、トラックを後にした。

応援してくれたみんなに申し訳ない

今年も冬から春にかけ、館澤はアメリカで高地トレーニングを積んできた。「正直、4月いっぱいは体が重くて、思うように動かせませんでした。でも高地トレーニングは終わって3週間あたりから、心肺的な効果が出始めると言われてます。疲れが抜けてくるにつれ、練習でも自分が思ってるようなものに近づいているかなというのはあります。徐々にですけど、練習の質が上がってます」

その中で迎えた今回のレース、課題があるとしたら? と問うと「全部っちゃ全部です。レース展開でも、途中の走りでも、ラストスパートでも……。『これが課題』というのが、いまは思いつかないんですけど、ここから見つめ直してやっていきたいです」。言葉の節々に悔しさがにじみ出ていた。さらに「みんな期待してくれてて、同期もすごい応援してくれてたので申し訳ないです。キャプテンとして意地を見せたかったんですけど……。この経験があったからこそ、もっと強くなれたと言われるようにならないと」。つぶやくように言葉を重ねた。

「高地トレーニングの効果が徐々に出始めてます」と館澤(撮影・松永早弥香)

6月末には3連覇がかかった日本選手権、そして7月にはイタリアでユニバーシアードに出る。「そこでいい結果を出したいと思ってます。今日、日本人に負けてるんで大きなことは言えないかもしれないんですけど、それでも代表に選ばれてる以上、日本人も世界で戦えることを証明したいです」。館澤は静かに、それでも力強く、言った。

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