「俺がエースだ」法政大・佐藤敏也、関東インカレの快進撃に裏付けあり
男子1部5000m決勝で最後に笑ったのは、同10000m決勝で日本勢トップの3位をつかんだ佐藤敏也(法政大4年)だった。残り4周の地点で相澤晃(東洋大4年、学法石川)を抜き去ると、徐々にその差を広げ、両手でガッツポーズをしながらフィニッシュ。5000mでも日本勢トップの4位だった。
スピード持久力を武器に
関東インカレ初日にあった10000mで佐藤は序盤、外国人留学生が引っ張る先頭集団ではなく、第2集団につけていた。7000m付近から自慢のスピード持久力で先頭集団を追い上げる。最後はライモイ・ヴィンセント(国士舘大2年、ケニア・モチョンゴイ高)をかわし、3位でフィニッシュ。「法政に佐藤あり」を大きく印象づけた。レース後に記者に囲まれ、「次は5000が控えてるんで、ここで浮かれてしまったら5000が悔しい結果になってしまうんで、喜ぶのは今日までにして、5000に向けてやろうかなと思ってます」と、気を引き締めていた。
中2日で佐藤は5000m決勝のスタートラインに立つ。1000m付近で先頭集団のトップが明治大の阿部弘輝(4年、学法石川)から相澤に変わった時も、佐藤は第2集団の中にいた。1800m付近で先頭集団に加わる。3000m付近でヴィンセントが仕掛けて先頭集団がバラけると、佐藤は相澤の後ろについた。残り4周、ペースが落ちた相澤を一気に抜き去った。苦しそうな表情で走る相澤とは対照的に、佐藤は鬼気迫る表情で力強く駆け、日本勢トップの最有力候補だった相澤を引き離してゴールした。
スタミナにスピードを足してパワーアップ
レース直後の佐藤には余裕すらあるように見受けられた。一気に相澤を抜き去ったときのことを聞くと、「自分はイーブンペースで走るって決めてたんで」と涼しげに返した。「相澤くんが遅れてきたので、このままついていくんじゃなくて、自分はスピード持久力が持ち味なんで、最後までためるんじゃなくて、そのままハイペースで押していって、後ろを離していこうと決めてたのでよかったです」。それでも1周目の入りの200mが31秒というハイペースになったときは、「まじか!!」と心中穏やかではなかったそうだ。
冬季から今シーズンここまで、佐藤にはこれまでにないぐらいにいい練習を積めた実感があった。とくにスピード練習に手応えを感じていた。たとえば1000m×5本を一人で走るとき、昨シーズンは2分50秒で走れなかったのが、いまでは余裕をもって2分45秒をクリアできるようになった。「もともとスタミナには自信があったので、そこにスピードを上乗せして、さらに力がついたなと思いました」と佐藤。彼にとって最後の関東インカレで爆発したのには、相応の下地があった。
また、佐藤は5000mのレース前にあった3000m障害決勝で、同期の青木涼真(春日部)の走りに背中を押されてもいた。青木は阪口竜平(東海大4年、洛南)に敗れて3連覇はならなかったが、ラストスパートで0秒27差にまで追い上げた。「負けたとしてもレース内容的に本当に強さを感じましたし、ラストはあれだけスパートで詰めたので、本当に刺激になりましたね。『自分がやってやろう!! 』って気になりました」。そんな青木自身も、3000m障害では「この後5000mのレースがある佐藤の刺激になるようなレースにしたい」と言っていた。法政大のダブルエースと称される二人が、互いにいい刺激を与え合っている。
最後の箱根は塩尻と同じ2区を
ラストイヤーの佐藤にとって一番の目標を尋ねると、間髪入れず「箱根駅伝にあこがれて法政にきたんで、そこは譲れないです」という言葉が返ってきた。佐藤1年生のときから3年続けて箱根を走ってきた。1年生は6区で区間3位、2年生も6区で区間3位、そして今年は1区で5番目にたすきを渡した。最後の箱根駅伝については「来年こそ2区を走りたいと思ってます。1時間7分前後のタイムで走って、区間賞も狙いたいです。同級生に青木がいますけど、エースは一人だと思ってるので、自分がエースとして頑張っていきたいです」と、力強く語った。
佐藤の理想のランナーは塩尻和也(順天堂大~富士通)だ。「去年の塩尻さんは、安定してどんな大会でもしっかり結果を残されてました。関東インカレでいい結果を残したぐらいでは真の大エースとは呼べないと思うので、どんな大会でもいい結果を残して、そう呼ばれるのが僕の理想です」と、佐藤は熱っぽく話した。
もう一人、1学年先輩である坂東悠汰(法政大~富士通)の名を挙げた。坂東は今年2月の日本選手権クロスカントリーで優勝したのを皮切りに、5月4日のゴールデンゲームズinのべおかでは、5000mで13分26秒70の自己ベストで日本勢トップ。続く5月19日の日本選手権10000mでも、28分20秒72で自己ベストをたたき出した。昨年まで同じグラウンドで切磋琢磨していた先輩の覚醒ぶりに「すごいな、自分もやってやろうという気持ちになってきました。もう坂東さんは実業団のトップレベルの選手になってるので、自分も実業団に入ったら、そのぐらいの選手になりたいと思ってます」と、未来を見すえる。
これだけは言える。佐藤敏也のラストイヤーは、さらにアツくなる。