大学アメフト

関学アメフトの幹部5人が丸刈りに、史上初の女性主務は「私もやる」

関学史上初の女性主務になった橋本は、日々奮闘している

5月26日にあったアメリカンフットボールの関関戦を取材に行った。会場の神戸・王子スタジアムに着くと、ある人が教えてくれた。
「先週、東京で明治に負けて、関学は幹部の5人が丸刈りにしたんや。そしたらな、女性主務の橋本さんが『私もやる』って言い出したらしいわ。さすがにみんなに止められたんやけど、『短くする』言うて、めっちゃ刈り上げたらしいで」

覚悟を決めるための行動

私はフィールドで試合前の練習をしている関学のメンバーの中に、主務の橋本典子(4年、豊中)を探した。いた。きれいに刈り上げている。試合中は相変わらずベンチで精力的に動き、大きな選手たちの後ろから、背伸びをして戦況を見つめ、大声で選手たちを励ましていた。「ディフェンスー、ここ三つで止めようー」「オフェンス、こっからやー」。関学史上初の女性主務は、結構な存在感がある。

左が5月5日の慶應義塾大戦での橋本(撮影・北川直樹)、右が関大戦での橋本

関学は5月11日、神戸大戦に14-21で負けた。関学側は控え選手が中心のJV戦の位置づけだったが、このチームに負けていい試合などない。続く5月19日の明治大戦にも26-27で負けた。主力選手が何人か出ていなかったとはいえ、試合巧者の関学らしくないミスが続出した末の逆転負けだった。

この日の関大戦に26-8で勝ったあと、きれいな丸刈り頭になった主将、DL寺岡芳樹(4年、関西学院)に話を聞いた。
明治に負けて東京から戻ったあと、寺岡と副将の4人、そして主務の橋本を含めたチーム幹部で話をした。そこで副将のLB大竹泰生(4年、関西学院)が、頭を丸めることを提案したそうだ。「神戸に負けたあと、僕ら4回生がチームを変えられなかった。だから明治にも負けました。覚悟を決めるという意思表示をするためにも、僕ら幹部が頭を丸めようという話になりました」と寺岡。

お互いにバリカンで刈り合った

本番の戦いとなる秋のリーグ戦中なら、丸刈り頭の選手たちも多い。でも春は就職活動もあって、最近はあまり見なくなっていた。実際に寺岡たちも就職活動の最中だ。でも、そんなことは言ってられないと、お互いにバリカンを持って頭を刈り合った。

左から副将LB大竹、副将DB畑中、主将DL寺岡、副将OL村田、副将WR阿部

以前から橋本は「みんなが頭を丸めるときは、私もやるから。女やからどうとか、そんなん勝つためには関係ないから」と言っていたそうだ。そして今回も「私もやる」と言った。
寺岡たちは「さすがに、お前がやるのは違う」「それはおかしいって」と口々になだめた。
それでも「とにかく短くする」と言って聞かない橋本の髪を、寺岡が刈ることになった。そのあと、橋本は自宅で母に頼んで整えてもらったそうだ。

やれることを、やってみる

丸刈りにしたからと言って、勝てるわけではない。チームがいい方向へ向かう訳ではない。それでも、チームを前に向かせるために自分たちにできることは何かと考えた結果が、丸刈りだった。

試合前に祈りを捧げる関学の選手たち

私自身の大学時代を思い出した。20年ちょっと前、京大アメフト部の選手だった。4回生の秋、大事な一戦に、同期の一人が眉毛を剃(そ)ってやってきた。すでに僕ら4回生はそろって丸刈りにしていた。そのうえに、眉毛も剃ってきた。試合に勝ったあと、彼に「なんで眉毛まで?」と聞いた。彼は言った。「朝起きて、勝つためにまだ何かできるんちゃうかと思って。それで剃ってきた」
勝つために相手を調べ尽くし、有効なプレーを考えて、それができるようになるまで練習し、試合でぶつける。それを全部やり尽くしたうえで、彼は眉毛を剃った。丸刈りと同じで、だからどうなると言われればそれまでだ。だけど、やる。やってみる。自分の考えで、やれることはやってみようと思う。それが大学スポーツのよさの一つじゃないかと思う。

兄はファイターズの主将だった

関学ファイターズは長らく男子だけの集団だった。女子を「サポートスタッフ」として受け入れ始めたのが2002年。17年後、初の女性主務が生まれた。
橋本は「チームを勝たせる力になる」と、単にマネージャーを束ねる以上の責任がある主務に立候補した。彼女が手を挙げたとき、寺岡たちは「橋本なら下級生のころからチームで存在感を発揮してきたし、絶対にやってくれる」と後押しした。
橋本の4学年上の兄である亮さんは、2015年度のファイターズを率いた主将だった。秋の関西学生リーグ最終戦で立命館大学との全勝決戦に負け、リーグ6連覇を逃した。みんなに「はっちゃん」と呼ばれていた兄は号泣した。泣き叫んだ。豊中高校ロードランナーズから関学ファイターズと、兄と同じ道を行く妹は、あのときの兄の思いも背負っているのだと思う。

今回の一件を受け、寺岡は言った。「橋本が僕らと同じ気持ちでやってくれてるのが改めて伝わったのは、うれしかったです」。こうして、チームは一つになっていくのだろう。

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