慶應ラグビーPR室星太郎、アメフト経由でラストイヤーにAチーム
5月26日、長野・長野Uスタジアムで、令和になってから初めての「早慶戦」があった。慶應義塾大は前半、早稲田大にいきなり3トライを許したのが響いて、12-36で敗れた。ただ、スクラムは慶應が勝っていた。斉藤展士(のぶじ)コーチ(NTTコミュニケーションズ)の指導するスクラムが、慶應の強みのひとつであることがうかがえた。
静岡で寮生活をしながら始めたラグビー
今シーズン新たに就任したOBで元日本代表FBの栗原徹ヘッドコーチ(HC)は「(試合3日前の)木曜日、長いセッションに耐えて、いいスクラムを組んでくれた。(1番と3番の選手は)もともと本職でないところからプロップ(PR)になりましたが、プライドを持ってやってくれて、チームとして助かってます」とたたえた。
今シーズンになってAチームでコンスタントに試合に出られるようになった選手のひとりが、PRの室星(むろほし)太郎(4年、静岡聖光学院)だ。
昨年までの2年間はBチーム以下でプレーしていた。5月16日の帝京大学戦でつけたのが、黒黄ジャージーでの初の3番だった。室星は「帝京戦では僕がスクラムで少し押されてしまいましたけど、(早稲田相手には)押せました。1番、2番がすごく強い選手なので、僕もついていきました」と、誇らしげに言った。
横浜市出身の室星だが、「寮生活をしてみたい」と、中学から親元を離れて静岡聖光学院に進学した。もともとラグビーをするつもりはなかったが、熱心な勧誘を受けて入部。ただ中学に入学するまで、同校のラグビー部OBで元日本代表WTB(ウィング)だった小野澤宏時選手の名前すら知らなかったという。
中学ではFWとしてプレーした。PR、HO(フッカー)、LO(ロック)といろんなポジションを経験し、高校1年生からPRに専念した。高校2年生のときに花園に出場したが、室星はけがでメンバーを外れていた。そして、高校3年生で花園のグラウンドに立てた。「大学でもラグビーを」と、慶應の総合政策学部のAO入試に合格した。
けがでタックルに不安、まさかのアメフト部へ
だが、いざ入学すると、高校時代に両肩を脱臼していたこともあり、タックルに不安を覚えた。そして「アメフトのタイトエンド(TE)というポジションなら、タックルをしなくていい」と聞かされたこともあり、「自分のフィジカルの強さを発揮できるのでは」と、まさかのアメリカンフットボール部に入部。公式戦出場はならなかったが、2年生の途中まで1年半ほど在籍していた。
だが、アメフトのようにプレーごとに自分の役割が決められている競技より、自分で目の前の状況を判断してぶつかっていくラグビーの方が向いていると感じ、ラグビー部に移る決心をした。「AO入試でラグビー部に入ると言っておいてアメフトに入って、ヘッドコーチを裏切る形になってしまいましたが、ラグビー部は温かく受け入れてくれました」
また、アメフト部「ユニコーンズ」で同じポジションだった南亮介(4年、慶應義塾)や鈴木雷蔵(3年、桐蔭学園)とはいまでも仲がよく、お互いに応援し合っているという。
ラグビー部へ移り、肉、肉、肉で23kg増
アメフトで培ったスピードとフィットネスを生かせると、最初はFL(フランカー)でプレーしていた。しかしFW第1列の人数が足りないということで、高校時代にPRやラインアウトのスローワーをやっていた室星に白羽の矢が立った。まずHOに転向し、左PR、そして昨シーズンから右PRでプレーするようになった。
入部したときは身長176cm、体重80kgだった。右PRはスクラムの要のポジションであるため、本人が「めちゃめちゃ増やしました」と言うとおり、現在体重は103kgに。朝のウェイトトレーニングを続けながら、食事をしっかり摂り、おなかがすいたら自転車で「いきなりステーキ」に行くのが定番である。そのため、「肉マイレージカード」は毎月、肉を3kg以上食べたらもらえる「ゴールドカード」だ。
1学年下に強力なライバル
最終学年の春に3番をつけて早慶戦に出たからといって、今後もレギュラーで出続けられる保証はない。同じポジションには高校時代から将来を嘱望されている186cm、110kgの大型PR大山祥平(3年、慶應義塾)がいる。今回は大山のコンディションがよくなくて、室星に先発がまわってきたというわけだ。
室星は言う。「4年生だから負けたくない。まだまだ課題はありますけど、大山以上にスクラムで強くなりたいですね。彼とは体格差はありますが、自分はテクニックでカバーして、低く貫くようなスクラムを組めたらと思ってます」。静かにライバル心を燃やしている。
今年で創部120周年を迎えた慶應の目標はもちろん、大学選手権優勝だ。室星は大学卒業はトップリーグで競技を続けるつもりはなく、トップレベルでプレーするのはこの1年が最後となる。回り道をした男はチーム内での競争に勝ち、秋の大事な試合でも黒黄の3番をつけられるだろうか。