野球の技術をラクロスにも 中大・佐々木淳はフェイスオフにかける
どっしりとした下半身に、がっちりした上半身。身長168cm、体重75kgはラグビーのフランカーといった風情だ。しかし、中央大の佐々木淳(4年、日大二)が心血を注ぐのは、網の付いたスティックを持ち、フィールドを走り回るラクロスだ。6月21日に開幕する第9回ASPAC(APLUアジアパシフィック選手権大会)に臨むフェイスオファー(FO)は、Tシャツから自慢のたくましい腕をのぞかせ、自身初の国際大会に向けて、胸を高鳴らせている。
フェイスオフにはパワーも駆け引きも必要
「自分なりに考え、フェイスオファーに必要だと思う筋肉を鍛えてきました。パワーを生かした自分のプレーが、アジアでどこまで通用するのか楽しみです」
FOの見せ場は一瞬だ。試合開始、クオーター(Q)の始まり、そして得点後、失点後。フィールドの中央で相手のFOと向き合い、低い姿勢でじっと待つ。レフェリーがホイッスルを吹くと、相手よりも早くボールを奪い、味方の攻撃につなげるのが仕事だ。
フェイスオフの勝負は、試合の流れをつかむ上で重要視されている。それだけにFOを任せられた選手は日ごろから専門性を追求し、練習も別メニュー。フィールドの端でFOだけが集まり、フェイスオフでボールを奪うためだけの作業を繰り返している。大学からラクロスを始めた佐々木は、2年生の夏にアタック(AT)からコンバートされて、FOの魅力に取りつかれた。
「試合の流れを左右するポジションだと思ってます。緊張感がすごくあるんです。フェイスオフでの駆け引きは面白いですね」
中央大では2年生から3年生になる直前の3月にAチームに上がり、3年生から公式戦に出場した。大学のリーグ戦でFOとして存在感を示すと、日本代表に準ずるナショナルデペロップメントスクワッドチーム(DS)の強化合宿にも招集され、トントン拍子で上りつめた。DSには社会人選手も混じっており、佐々木は日々意識の高い選手たちにもまれ、多くの学びを得ている。同じFOの嶋田育己人(元早稲田大)、田村統馬(法政大~Stealers)らのアドバイスは貴重だった。いままでになかった知識を得て、プレーの幅が広がったという。今年5月には大学生だけで臨むASPACのメンバー入りを果たし、さらにモチベーションが高まった。
「大学からスタートしても日本代表を目指せると聞いて、ラクロスに挑戦してみようと思ったんです。まずは22歳以下のDSメンバーにと思ってたので、今回はうれしいですね」
ベンチプレスは72kgから115kgに
小学生のころから野球に打ち込み、中学時代も硬式のシニアリーグでプレー。日大ニ高でも甲子園を目指し、白球を追い続けた。ポジションは投手と外野手。変化球で勝負するタイプで、3年生夏の西東京大会ではベンチ入りを果たした。ひじを痛めていたこともあり、大学では野球の道を断念したが、4年間を捧げられるものとして新たにラクロスを選んだ。
当初は競技のことを何も知らず、試合を初めて見たときはただただ驚いた。「フィジカルコンタクトがあり、こんな激しいスポーツなんだな、って」。いざ始めてみると、慣れないフィールドスポーツに多少の戸惑いはあったが、野球の球を投げる動き、バットを振る動作などが生きる部分もあった。かつての野球少年は、どんどんラクロスにのめり込んでいった。
ラクロスの本場NCAA(全米大学体育協会)の映像をチェックするなど、プレーの研究にも余念がない。そして誰よりも筋トレに励んだ。入部したときはベンチプレスが72kgしか上げられなかったが、いまは115kgまで支えられるようになった。「野球部時代よりも体が大きくなった」と誇らしげに言う。FOとして、とくに筋力アップの必要性を説く。
「NCAAなんかを見てると、海外のFOは腕力がすごいんです。相手よりもパワーで上回っていれば、ボールを取りきれます。ボールを押さえつけるには、やっぱり筋力が必要だから」
ASPACではここまで取り組んできた成果を見せつけるつもりだ。「個で勝つことを意識してます」。言葉には自信がにじむ。その先に見すえるのは、2022年の世界大会。「北米勢と互角に渡り合える選手になりたい」。そのためにも、まずはアジアを相手に力を証明する。